調理から時間をおいて食べられることを想定した駅弁のなかで、生の野菜や魚を盛り付けた駅弁があります。分厚い「かつおのたたき」がドンと入ったものや焼きたてのステーキが食べられるものも。
駅弁に限らず「中食」といわれる持ち帰りの弁当や惣菜の野菜は、できてから食べるまで時間が空くため、飲食店で提供するよりも厳重な鮮度管理を余儀なくされます。そのなかで、たっぷりの生野菜が添えられている駅弁がJR中央本線の小淵沢駅(山梨県北杜市)にあります。
地鶏の胸肉の照り焼きとともに、生野菜も入った松本駅の駅弁「地鶏めし」(宮武和多哉撮影)。
2020年に発売50周年を迎える「高原野菜とカツの弁当」は、レタスやトマト、カリフラワーなどの野菜が、おかずの半分近いスペースにぎゅうぎゅうに盛り付けられているのです。
生野菜は、レタスを中心に季節によって変わります。小淵沢駅の駅弁を製造・販売する丸政は、野菜の洗浄や管理などを通して、野菜の味をしっかりと残すようにしています。
この「高原野菜とカツの弁当」や看板商品「元気甲斐」などは、賞味期限が6時間程度と通常の駅弁より短く設定されています。「高原野菜とカツの弁当」のチキンカツが入った「丸政のチキンカツ」は東京の新宿駅などでも購入できる場合がありますが、野菜入りの「高原野菜とカツの弁当」はこの賞味期限の関係で、小淵沢駅まで行かないと買い求めることができません。
また同じ中央本線の松本駅弁「地鶏めし」は、全体の3分の1ほどをリーフレタスなどの生野菜が占めています。レタスの上に添えられた赤とさか(海藻の一種)の食感も楽しく、つやつやに輝く鶏肉照り焼きと鮮やかな野菜は、見た目も楽しませてくれます。
『ミシュランガイド』掲載店のレアステーキを列車内で「調理したて」の駅弁は、JR根室本線の池田駅(北海道池田町)で味わえます。

池田駅「ワイン漬けステーキ弁当」列車のドアで受け渡される(宮武和多哉撮影)。
このステーキに使用されるのは、希少価値が高いことでも知られているブランド牛「池田牛」。特産である赤ワインの製造過程で生じるワインオリを与えて育った肉を、調理過程で赤ワインにしっかりと漬け込んでいます。また、このステーキを焼く「レストランよねくら」の実力も相当なもので、食堂とともに駅弁業者として1905(明治38)年から100年以上の歴史があり、2012(平成24)年には『ミシュランガイド』にも掲載されたほどです。
この駅弁は予約制。事前に電話すると、駅のホームまで持ってきてくれます。お釣りが出ないように代金を準備して、池田駅到着の前にドアに移動しましょう。もちろん池田駅で下車し、店や駅構内でゆっくりいただくこともできます。
池田町は、吉田美和さん(DREAMS COME TRUE)の故郷としても知られ、ドリカムの歌詞や吉田美和さんに所縁のあるスポットが町内に多数あります。池田駅から特急「スーパーおおぞら」に乗車する際は、数分は鳴り響く池田駅オリジナルの改札メロディ「晴れたらいいね」「ALMOST HOME」をお聞き逃しなく。
「新鮮な駅弁」は四国にも。高知駅で販売されている「かつおたたき弁当」は、その名の通り分厚い「かつおのたたき」がゴロゴロと入っているのです。付け合わせの薬味もみょうが、ゆず、生にんにくスライスなどの「地元仕様」で、脂ののったカツオをしっかりと味わえます。

高知駅「かつおたたき弁当」アップ(宮武和多哉撮影)。
高知県を代表する郷土料理「かつおのたたき」の調理方法は「包丁などで身に塩を叩きこむ」「軽く灯で炙って表面のみに焼き目をつける」というもの。適度に水分が抜けて旨みが凝縮されるだけでなく、たっぷりの薬味を合わせて食べることで殺菌能力も増しています。カツオをたたきにすることで、通常の刺身より衛生状態を保てるのです。
とはいえ、かつおのたたきの中心部は生のため、高知駅ホームにある安藤商店の売店には「かつおのたたき」を保管する冷凍庫が別に設けられ、受け渡し直前に容器にセットされます。
また容器の中には保冷剤が多く添えられ、購入する際も「早めにお召し上がりください」と一言添えられます。
この駅弁が好調を保っている理由は、高知駅の立地にもあります。駅の周囲は警察署・郵便局や住宅街が並び、飲食店の多い繁華街は駅から1km以上離れているため、「旅の最後の食事」は駅構内で買い求める率が必然的に高くなります。鉄道で高知を離れる人々は、高知での最後の食事に「かつおたたき弁当」などの駅弁を選ぶというわけです。
旨みの濃いかつおとパンチの利いた薬味で日本酒が欲しくなるという人は、高知駅構内の土産物店で地酒を豊富に扱っているのでどうぞ。ただし、土讃線は山間部でかなり急なカーブが続きます。くれぐれも飲みすぎにはご注意を。