台風による大雨の被害が続いています。台風19号ではなんとか免れた荒川決壊と東京湾の高潮ですが、もし実際に起きた場合、地下鉄の駅の浸水はどうなるのでしょうか。
2019年10月12日(土)に上陸した台風19号は、東日本を中心に記録的豪雨をもたらし、各地で洪水や土砂崩れ、河川の決壊が起きました。さらに、台風20号、21号が発生し、厳重な警戒を必要とする暴風雨が続きました。
荒川笹目橋。台風19号の翌日の様子。もし氾濫すれば都営地下鉄三田線高島平駅方面へと洪水が押し寄せる(2019年10月13日、内田宗治撮影)。
台風19号の勢力があと少しだけ強く、豪雨が長く続いていたら東京はどうなったでしょうか。これはただの空想の話ではなく、国や東京都で真剣にシミュレーションを行い、対策を練っているものです。
台風で起きる水害は、洪水と高潮。東京での大規模水害となるのは次のふたつです
・荒川堤防の決壊による洪水
・東京湾からの高潮
ひとたびこれらが発生すると、なんと東京23区の約3分の1もの面積が浸水してしまう想定です。東京都建設局の発表によると、高潮が起きた場合、浸水区域内の人口(昼間)は約395万人に達します。
浸水でとくに怖いのは、地下の駅などです。
荒川氾濫で深い浸水となる地下駅(東京都内)は以下の通りです。
●浸水深5メートル以上
東京メトロ千代田線・JR常磐線(各停) 北千住駅
●浸水深3メートル以上
東京メトロ千代田線 町屋駅
東京メトロ日比谷線 入谷駅
東京メトロ南北線 王子神谷・志茂・赤羽岩淵駅
都営地下鉄大江戸線 新御徒町駅
都営地下鉄新宿線 西大島・大島駅
つくばエクスプレス 新御徒町・浅草・南千住・青井・六町駅
●浸水深0.5メートル以上
JR京葉線 八丁堀・越中島駅
つくばエクスプレスの秋葉原駅ほか東京メトロ、都営地下鉄などの計約50駅
※国土交通省「荒川水系洪水浸水想定区域図」と各区ハザードマップをもとに、筆者(内田宗治/フリーライター)が地図を読み取って集計。
※浸水深5メートル以上の都営三田線蓮根・西台・高島平・新高島平など地下鉄の地上駅はリストから除いてある。
※上記は東京都に限り、他県でも被害は想定されている(高潮の場合も同様)。
※浸水深はいずれも地表のもので、線路やホーム上のものではない(高潮の場合も同様)。
※浸水の深さはこれより深い場合、想定されていないエリアで深い浸水となる例なども起こりうる(高潮の場合も同様)。
北千住ではビルの3階にまで達しかねない5メートル以上の浸水です。国土交通省による上記の想定条件は、荒川流域で72時間総雨量が632ミリに達し堤防が複数箇所決壊するケースです。
先月の台風19号では、神奈川県箱根町での総雨量が1001ミリを記録しています。この現実を見据えると、いつ荒川流域にこうした豪雨が襲来してもおかしくないと思えてきます。
次に、高潮が発生した場合のリスクをみていきましょう。なお「高潮」とは、強風による海水の吹き寄せと低気圧による海面上昇とで起き、海水が陸地へ押し寄せることをいいます。
台風19号などでは都内に大きな被害をもたらす高潮は起きませんでしたが、高潮の恐ろしさは、1959(昭和34)年の伊勢湾台風を思い起こせば実感させられます。死者・行方不明者5098人の犠牲者を出しましたが、その多くは伊勢湾の海水が名古屋市内などに押し寄せた高潮によるものです。
高潮も、前述の洪水と同じく広範囲に深く(高く)押し寄せるリスクが想定されています。
高潮発生により、深い浸水リスクのある地下駅(東京都内)は以下の通りです。
●浸水深5メートル以上
東京メトロ東西線 東陽町・南砂町駅
都営地下鉄新宿線 西大島・大島駅
●浸水深3メートル以上
東京メトロ東西線 門前仲町・木場駅
東京メトロ半蔵門線 清澄白河・住吉・錦糸町・押上駅
都営地下鉄浅草線 押上駅
都営地下鉄新宿線 森下・菊川・住吉・瑞江駅
都営地下鉄大江戸線 両国・森下・清澄白河・門前仲町駅
●浸水深1メートル以上
東京メトロ日比谷線の日比谷・東銀座駅、都営地下鉄大江戸線の汐留駅、京急空港線の天空橋駅、りんかい線天王洲アイル駅など約30駅
※「東京都高潮浸水想定区域図」(東京都建設局)より筆者が地図を読み取って作成。
東京の東部低地では、海から約20キロ離れた足立区北部まで高潮が到達する想定には驚かされます。渋谷や新宿など山手エリアや銀座中央通り周辺には高潮はやって来ない想定ですが、JR新橋駅西口付近や東京メトロ日比谷駅周辺(浸水深1~3メートル未満)、JR有楽町駅付近(同0.5~1メートル未満)なども浸水エリアとなっています。
鉄道各社の台風、高潮対策は?また、高潮は川を遡るので、以下のエリアなどにも襲来します。
・JR中央線 水道橋・飯田橋駅付近(日本橋川沿いで浸水深1~3メートル未満)
・JR山手線 大崎・五反田駅付近(目黒川沿いで同1~3メートル未満)
・都営地下鉄大江戸線 麻布十番駅付近(古川沿いで同1~3メートル未満)
海辺にある羽田空港国内線ターミナル駅付近は、かさあげされているため大丈夫なのですが、同国際線ターミナル駅付近は、そのすぐ西側まで浸水する想定です。
先述の想定条件は、これまで日本を襲った最大規模の台風(1934年室戸台風クラス:910hPa)により高潮が発生した場合です。東京都建設局では、浸水深や浸水区域を「高潮浸水想定区域図」として公表しています。
東京メトロ南北線の赤羽岩淵駅に設けられている密閉型防水扉(2018年8月、内田宗治撮影)。
鉄道各社では、対策にとりかかっています。地表が水没した場合、地下鉄駅へと水の流入口となるのは、「駅出入口」、「換気口」、「坑口」(線路が地上に出る部分)です。
深い浸水が想定される駅出入口には、出入口を完全に遮断する密閉式の防水扉、それ以外の所では、止水板を用意しています。
換気口は銀座線、丸ノ内線、東西線など比較的古くから建設された地下鉄にあり、歩道の路面に網を敷いてその部分に作られています。これらには浸水感知器が付いた換気口浸水防止機を設置しています。坑口には防水ゲートの設置が進められています。
荒川決壊で首都水没、ということは免れましたが、こうしたケースも想定し、日ごろから情報に接し、いざという時に冷静で的確な行動が取れるように備えておきたいものです。