地図上では途切れたように示される、国道の「車両通行不能区間」が全国に存在します。「酷道」とも称されるもののひとつですが、そうした区間をつなぐ工事が進む箇所もあります。
峠の区間を中心に、地図上では途切れたように記される国道の「車両通行不能区間」が全国に存在します。その実態は登山道や、道なき道といったものが多く、「酷道」とも揶揄される場所のひとつです。今回は、そうした分断を解消するための改良工事や、バイパスの建設が進む区間を5つ紹介します。
国道152号「青崩峠」&国道256号「小川路峠」(長野県・静岡県)国道152号は長野県上田市と静岡県浜松市を南北に、国道256号は岐阜市と長野県飯田市を東西に、いずれも中部地方の山間部を経由して結ぶ道路です。前者は地蔵峠(長野県大鹿村~飯田市)と青崩峠(飯田市~静岡県浜松市)、後者は小川路峠(飯田市)の前後にそれぞれ車両通行不能区間があり、このうち青崩峠と小川路峠に並行する形で、中央道と新東名を結ぶ三遠南信道の建設が進められています。
いずれの峠も、秋葉神社(浜松市)へ通じる秋葉街道と呼ばれた古道の一部で、車両通行不能区間は、その古来の街道の姿をとどめています。クルマは、並行する県道や林道で迂回が可能です。
青崩峠トンネル静岡側坑口。2018年12月時点。調査坑に続き、本坑の工事が2019年2月に始まった(画像:飯田国道事務所)。
小川路峠の北側を通る三遠南信道の矢筈トンネル(喬木IC~国道152号接続部)はすでに開通しており、青崩峠の西側では青崩峠トンネル(仮称)が2019年に着工しています。実はこの青崩峠トンネルは、青崩峠周辺の高速道路トンネルとしては、2本目となるものです。
というのも1994(平成6)年、青崩峠の迂回路となっている県道(兵越林道)と、国道152号をつなぐ草木トンネルが、三遠南信道の一部として開通しています。しかし、付近の地盤が弱く、草木トンネルのルートは高速道路としては適さないことがのちに判明し、より地盤のよい場所に青崩峠トンネルを新たに造ることになったのです。開通済みの草木トンネルは、歩道を建設したうえで、一般道のトンネルとして使うことになりました。
青崩峠は太平洋側から日本海側を貫く断層「中央構造線」の上に位置し、「青みがかった崩れやすい断崖」が、その名の由来です。大手ゼネコンの40代男性技師によると、青崩峠トンネルも草木トンネル同様、難工事が予想されるとのことです。
40年間コツコツ整備 豪雪地帯の車両通行不能区間解消へ新潟県内では2つの車両通行不能区間を解消するための工事が進められています。
国道289号「八十里越」(新潟県・福島県)新潟市から福島県いわき市までを東西に結ぶ国道289号のうち、新潟・福島県境の峠「八十里越」の前後約20km(新潟県三条市~福島県只見町)が車両通行不能区間となっています。古来、越後と会津を結ぶ街道の一部であり、八里(約32km)の距離があまりの険しさゆえ、一里が十里にも感じられたことから「八十里越」と呼ばれた、といった説があります。司馬遼太郎さんの小説『峠』の舞台にもなりました。
車両通行不能区間にあたる旧街道は、けもの道に近い状態のようです。これに代わり、14のトンネル、16の橋からなる約21kmの新道を建設する事業が、1986(昭和61)年から進められており、長岡国道事務所は2023年度の開通を目標としています。
なお、国道289号にはほかに、福島県内の甲子峠(かしとうげ、福島県下郷町~西郷村)にも車両通行不能区間がありましたが、こちらは事業着手から40年以上の歳月をかけ、2008(平成20)年に車道が開通しました。

国道289号「八十里越」の車道建設状況(画像:長岡国道事務所)。
国道352号「萱峠」(新潟県)
国道352号は新潟県柏崎市から栃木県上三川町までを結び、上述した国道289号のやや南側で越後山脈を横断する道路です。この新潟~福島県境部付近は道幅が狭いうえにカーブが連続し、「酷道」のひとつとして知られるほか、新潟県長岡市の市街地と、山間部の同市山古志地区を結ぶ萱峠の前後に車両通行不能区間があります。
これを解消するための「萱峠バイパス」約11kmは、1980(昭和55)年から40年にわたり事業が進められています。2018年度末時点で進捗率は84%といったところで、途中の萱峠トンネルもすでに本体は完成しています。新潟県の道路建設課によると、「地形が相当に厳しいうえ、豪雪地帯でもあるため、例年ゴールデンウイーク明けから11月までしか工事はできません。道路そのものだけでなく雪崩対策設備なども必要になるため、開通の見込みは、まだ立っていません」とのことです。
北陸新幹線の敦賀延伸にあわせて「酷道」解消なるか?新幹線の整備や空港の利用状況が、国道の車両通行不能を解消する動きへつながっているところもあります。
国道417号「冠山峠」(岐阜県~福井県)岐阜県大垣市から福井県南越前町までを南北方向に結ぶ道路で、両県の境に位置する冠山峠の前後に車両通行不能があります。ただし国道に接続する形で林道があり、感覚としては一続きの道路として通行が可能ではあるものの、この林道はクルマ1台ぶんほどの幅しかなく、急カーブや急勾配が連続し、そして冬季は閉鎖されます。
この林道をバイパスする形で、国道417号本線となる「冠山峠道路」の建設が進められています。全長7.8kmのうちの大部分を占める2本のトンネルは1本が貫通済み、もう1本も2020年2月現在で83%まで掘削されているほか、橋の工事なども進んでいます。
福井河川国道事務所によると、この冠山峠ルートは北陸道や国道8号の迂回路になるといいます。中部地方の9県と名古屋市、静岡市、浜松市からなる中部圏開発整備地方協議会は、北陸新幹線の金沢~敦賀間が開業する2022年度までの開通を国に要望しています。

国道417号「冠山峠道路」パンフレットより(画像:福井河川国道事務所)。
国道452号 芦別~美瑛(北海道)
国道452号は北海道の中央部、夕張市と旭川市を南北に結ぶ道路で、そのうち芦別市と美瑛町のあいだに車両通行不能区間があります。芦別町側6.8kmが「盤の沢道路」、美瑛町側11.7kmが「五稜道路」の名で、それぞれ車両通行不能区間を解消する道路の建設が進められています。
これら道路の大きな目的は、美瑛町側の車両通行不能区間入口から約20kmの位置にある旭川空港のアクセス強化です。芦別の市街地から旭川空港までの所要時間が20分以上短縮される見込みです。北海道開発局 札幌開発建設部によると、旭川空港は近年、国際線の利用者が増えているほか、芦別市でも外国人観光客が急増していることから、この車両通行不能区間の解消は、新たな周遊観光ルートの形成につながるとしています。
※ ※ ※
ちなみに、全国にはフェリーの運航をもって、海を隔てても1本の国道に見なされるという「海上区間」も存在しますが、これも車両通行不能区間の一種です。また、階段が国道に指定され、観光名所にもなっている青森県竜飛岬付近の「階段国道」なども同様です。