新型コロナウイルスの影響で人の移動が激減するなか、必要な移動を確保すべく路線バスが走り続けています。日本の公共交通体系が根底から揺らぐいま、「交通崩壊」を阻止すべく、関係者も声を上げています。

バス業界では貸切、高速、そして路線バスへ 新型コロナ影響

 新型コロナウイルス感染拡大による影響は、バス業界では、まず貸切バスに、次に高速バスに表れました。大型イベントの自粛やテーマパークの臨時休園などにより、旅行、出張といった長距離移動が激減し、貸切バスのキャンセルが相次ぎ、高速バスでは運休便が増えていきました。2020年4月下旬現在、これらを運行する事業者の多くは、国の助成金などを得て、基本給を保証しながら乗務員を休業させています。

 一方、地域公共交通としての路線バスへの影響は、少し遅れてやってきました。3月上旬から全国的に小中高校の休校が始まりましたが、その時点では春休みまでの短い期間の利用減少だと考えられていたのです。しかし、4月7日に政府から緊急事態宣言が発出されると、多くの地域で新学期も休校が継続されるとともに、社会人も在宅勤務などが要請されました。また不要不急の外出も自粛が要請され、週末の移動も激減しました。

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外出自粛要請のなかでも運行を継続せざるを得ない路線バスは危機に瀕している。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 こうして、まずは大都市部において、さらに4月16日に緊急事態宣言の対象が全国に広がったことにより地方部でも、路線バスの輸送人員が大幅に減少しました。

 刻々と情勢が変わるので最新の統計データはありませんが、全国の事業者から筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)に届いた情報をまとめると、4月下旬現在、会社によってばらつきはあるものの、路線バスの輸送人員はおおむね平年の4割程度にまで落ち込んでいるようです。

 都市部の事業者は事業規模が大きいので、減収額は莫大です。

また、地方部ではもともと通学利用の比率が大きいため、休校により減収の幅が大きくなっています。

減便・運休が簡単にできない路線バス 感染リスクも増大

 貸切バスや高速バスに比べると、路線バスにおける減収の幅は小さく見えますが、路線バスならではの課題があります。それは、簡単に減便、運休できないことです。

 その理由は、「人の移動を減らす」ことが社会的要請であるとともに、「人の移動を確保する」のも、地域公共交通としての使命だからです。「ロックダウン」下にある欧米の都市でも公共交通は運行継続と伝えられていますが、それら都市の路線バスは公的セクター(自治体など)が運行主体です。しかし日本のそれは、おもに民間が独立採算で運行しています。需要減少に合わせて供給量を減らすことの難しい点が、事業者の経営を圧迫しています。

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2020年4月に入り、路線バスの輸送人員はさらに減少している。写真はイメージ(2020年3月、中島洋平撮影)。

 日々の運行の現場に目を転じると、最大の心配事は乗客や乗務員への感染です。現に、4月3日には石川県で北鉄金沢バスの乗務員に感染が確認され、所属する営業所の従業員全員を自宅待機させ大規模な運休を余儀なくされました。その後も、感染確認の経緯の違いなどから運休にまでは至りませんが、乗務員の感染は各地で見られます。

乗務中に乗客から感染したという例は確認されていませんが、安心して乗務するためにも、感染を防ぐための取り組みは重要です。

 2020年4月末現在、運転席周囲の防護スクリーン設置や最前列座席の使用停止など、感染リスクを防ぐ取り組みを行う事業者が増えています。国土交通省からも感染拡大防止を図るよう、要請が全国のバス事業者に通達されました。

 それにこたえ、自治体の支援の動きも始まっています。さっそく、長崎市や沼津市で、防護スクリーン設置費用などに補助金が設けられました。また、お金がかからない対策として、車内の換気を図るため窓を開けて運行することや、エアコンを使用する際は外気導入モードを選択し強制換気すること、さらにはそれらを積極的に乗客に説明し安心感を持ってもらうことも重要な取り組みです。

経営危機の事業者 その先で何が起こるか

 それでも、やはり事業者の経営の問題は避けて通ることができません。特に地方部では深刻です。例年であれば4月に多数販売される定期券が売れていないため、多くの事業者で、日々の企業活動に必要なお金が不足しています。

 また、地方の路線バスは、赤字分を国や自治体の補助金で補填しています。しかし、補助金の額は、過去の赤字額を元に決定されるケースが多いため、今年度のように急激に赤字額が増加すると、不足分はバス事業者が負担することになります。さらに、今年度の輸送実績が補助金の基準を下回ってしまえば、来年度以降、補助金を受け取ることができない路線も出てくるかもしれません。

路線バス大ピンチ 新型コロナで綱渡りの事業継続 現実味帯びる「交通崩壊」防ぐために

交通事業者は二重苦の状態に置かれている(「くらしの足をなくさない!緊急オンラインフォーラム」早稲田大学 井原雄人客員准教授の資料より)。

 そのような状況を受け、4月24日(金)、バスやタクシー、福祉輸送など交通事業者、研究者、および筆者らコンサルタントなど有志による団体が、「くらしの足をなくさない! 緊急フォーラム」をオンラインで開催しました。フォーラムでは、国土交通省幹部のほか、イーグルバス(埼玉県)の谷島 賢社長、熊本都市バスの高田 晋社長らが実情を発表しました。それを踏まえ、団体として、国や自治体、業界と連携を図るための緊急提言「社会崩壊を招く『交通崩壊』を防ごう!」を取りまとめました。

新型コロナであぶり出された交通危機

 提言では、「事業者や利用者向けに、感染拡大を防止するためのガイドライン策定」「感染状況に合わせて、運行を維持または縮小するための判断基準づくり」などを進めるとともに、国などに対し「喫緊の資金手当てや補助金制度の柔軟な運用」を求めています。フォーラム主催者の代表である東洋大学の岡村敏之教授や、共催者の代表である名古屋大学の加藤博和教授らにより、27日(月)には国土交通省の幹部らに提言が届けられました。

 先述したフォーラムでは、「『公共交通をおもに民間が担う』という日本型のモデル自体が危機に直面しているのではないか」という指摘もありました。たしかに、副業などの利益も含め、それでうまくいっていた時代は終わり、補助金頼みの体質に変化しています。新型コロナウイルスが、もともと潜んでいた危機を表面化させたのです。

 路線バスなどの地域公共交通は、地域ごとにおおむね1社ずつが運行しているだけに、万一、突発的な経営破綻が起こるなどして事業継続が困難になった場合、地域単位で交通が止まるリスクがあります。特に高齢化が進む地方部において、社会崩壊を招く「交通崩壊」だけは、絶対に阻止しないといけないと考えています。

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