新型コロナ感染拡大の影響で難局を迎える航空業界、そのようななかJACが「肩を組み笑顔」のデザインのイラストを作成しています。この状況には似つかわしくないとも思えますが、そこには製作者の整備士の思いが詰まっていました。
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、利用者数の減少、定期便の減便、運休など2020年の航空業界は未曾有の難局を迎えています。
そのような状況のなか、JAL(日本航空)グループで鹿児島県を本拠とする地域航空会社、JAC(日本エアコミューター)が1枚のイラストを作成、それを報道陣に向け公開しています。
JACが公開したイラスト。タイトルは「さあ、乗り越えよう!」(画像:JAC)。
イラストの作成者は、JACの現役航空整備士である草野文雄さんです。草野さんは整備業務のかたわら、幼少期から好きだったという「絵を描くこと」を生かし、2016(平成28)年から、装い新たに創刊されたJACの機内誌で『空の上の航空教室』という漫画を製作しているほか、本社や格納庫入口に貼られている、スタッフの士気向上を企図したポスターを手掛けるなど、いわば「JAC公認絵師」としての顔を持っています。
JACのなかで「二足のわらじ」を履いて活躍する草野さんですが、今回のイラストが浮かんだのは、新型コロナの影響が航空業界に出たころ、自ら作ったポスターを見た際だそうです。
「航空業界が新型コロナの影響を受け、この状況を誰よりも痛切に感じているであろう航空会社の社員、そのひとりである私も不安や様々な思いが頭をよぎるなか、ポスターを見ていまは『さあ、乗り越えよう!』ではないのかと感じました。これを社内で提案し、そこから話が進んで、完成に至りました」(JAC 草野文雄さん)
その構図にも、この状況下の航空会社で働く草野さんだからこその、強いこだわりと思いがありました。
「JAC公認絵師」に聞く あえて肩を組んだイラストを作ったワケJACが公開した「さあ、乗り越えよう!」のイラストで、スタッフが「肩を組む」構図としたのはあえてのことであり、その理由を作成者のJAC整備士、草野文雄さんは次のように話します。
「『人との距離を取ることが推奨されているこの時期に、なぜ肩を組んでいるのか?』と疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。これは、ラグビーのスクラムをイメージしています。
そしてそのスクラムを組むスタッフそれぞれの表情は、最も強いこだわりをもって描いたポイントだそうで、草野さんは「仲間と前向きに、共に乗り越えようと思う気持ちを笑顔で、そして、燃え上がる強い意志を凛とした表情で表現できればと思い、描いたつもりです」と話します。

鹿児島空港内にあるJACの格納庫(2019年12月、乗りものニュース編集部撮影)。
草野さんは「現在運休などで、お客さまには多大なご不便をおかけし申し訳ないと思っていますし、自粛期間であることから飛行機でのご旅行も難しい状況です」と現状を述べたうえで、「乗り越えた」ときの準備を欠かさないといいます。
「いつかこの難局を乗り越えた際には、安心してご搭乗いただけるよう、そして、地上で待機している機体がいつでも安全に飛べる状態を保ち、また多くのお客さまにお乗りいただけるよう、公共交通機関としての使命を果たすべく、前向きに仲間と支えあって、ワンチームで、この難局を乗り越えたいと考えています」(JAC 草野文雄さん)
ちなみにこの絵を描き上げた2020年4月、ちょうどJALグループでは、CAのスカーフがグループ会社ごとに異なる、新たな制服が採用されたばかりの時期だったそうで、格納庫で働く草野さんは、CAと接する機会があまりないことから、スカーフをどう書こうか苦労したといいます。たまたま格納庫に来たCAに、慌ててスカーフの写真を撮影させてもらい、この絵を描き上げたそうです。