列車が平均して移動する速さに「表定速度」があります。山手線に接続する路線のうち、「表定速度」が速いのはどの路線でしょうか。
首都圏で住む場所を決める際、最寄り駅から都心までの所要時間は気になる点のひとつかもしれません。もちろんそれは、距離によって一概に決まるものではありません。
駅の停車時間も含めて、列車が平均して移動する速さを求めたものに「表定速度」があります。これをもとに、首都圏南部、東海道線方面の10km圏から50km圏にかけて、朝ラッシュ時の表定速度を調べてみました。具体的な範囲は、東急東横線から京急線のあいだの路線が対象です。
横須賀線などを走るE217系電車(2009年3月、恵 知仁撮影)。
●調査方法、基準
・JR山手線を中心に放射状に伸びる路線のうち、ラッシュの最混雑時間帯である平日朝7時50分から8時30分に山手線接続駅へ一番速く到達する、乗り換えなしの直通列車が対象。
・発駅は10km圏から50km圏のうち、快速や急行といった優等列車が停車する主要駅を優先的に選択。
・別途料金が発生する特急やライナーなどは除外。
・キロ数は時刻表などに記載されている「営業キロ」に基づいており、実際の距離とは異なる場合がある。
朝のラッシュ時に限定しているため、お昼の時間帯には速い列車でもそのパフォーマンスを活かしきれていなかったり、速達列車がなかったりする場合があります。
なお、算出された数値はあくまで計算上のもので、運転状況により体感的なスピードと乖離する場合があります。
私鉄を圧倒する1位2位 JR東海道線と横須賀線お昼の時間帯は京急の速さが話題になるエリアですが、通勤時間帯ではどうなるのでしょうか。10km圏から見ていきましょう。
1位は東海道線の68.4km/h、2位は横須賀線の60.0km/hで、この2路線が抜きん出る結果になりました。一方の京急本線は44.3km/hと4位で、各駅停車タイプである京浜東北線の45.6km/hよりも下の順位です。東急東横線は34.1km/hで、京急よりも遅い6位でした。

首都圏南部方面10km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
20km圏でも1位東海道線(70.1km/h)、2位横須賀線(65.0km/h)、3位京浜東北線(48.5km/h)、4位京急本線(45.9km/h)、5位東急東横線(40.3km/h)と並びは変わっていません。同じ横浜~品川間でも、東海道線と京急本線とでは10分もの差がついているのが特徴です。

首都圏南部方面20km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
参考までに、日中の京急線の快特は、同区間を17分で走り抜け、表定速度は78.4km/hに達します。停車駅が変わらないにもかかわらず、ここまで差が出るのは、いかにラッシュ時の京急線が“渋滞”しているかがうかがえます。

首都圏南部方面30km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
30km圏においても、1位の東海道線(68.2km/h)、2位の横須賀線(62.0km/h)と上位2路線は変動がありません。3位に京急本線(46.2km/h)が浮上しています。4位には京浜東北・根岸線で41.6km/h、5位は東急東横線で36.9km/hと続いています。

首都圏南部方面40km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
40km圏でも1位東海道線(66.2km/h)、2位横須賀線(62.3km/h)、3位京急本線(48.4km/h)。50km圏でも1位東海道線(58.6km/h)、2位横須賀線(57.7km/h)、3位京急本線(46.1km/h)と、一貫して東海道線、横須賀線、京急本線という並びになりました。
湘南新宿ラインを経由する「相鉄・JR直通線」はどうなのか全体として、朝の通勤時間帯のスピードにおいては、JR、京急線、東急東横線という順序が一貫しており、大きな変動が見られないのが東海道線方面の特徴といえます。

首都圏南部方面50km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
なお、今回の調査では湘南新宿ラインを除外していますが、これが関係する路線では2019年11月、大きな動きがありました。
湘南新宿ライン、および相鉄線方面から同路線を経由して都心へ向かう列車は、いったいどれほどの速度なのか、参考までに見ていきたいと思います。なお湘南新宿ラインにおいて、運賃などの計算上用いられる営業キロと実際の距離に開きがある、西大井~大崎間は、実際の距離である2.5kmとして算出しました。ちなみに同区間の営業キロは5.6kmで、3.1kmの差があります。

湘南新宿ラインを追加した、首都圏南部方面10km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
これによって新たに登場する路線は湘南新宿ラインと相鉄・JR直通線になるわけですが、ランキングとしてはどう変わっていくでしょうか。10km圏では湘南新宿ラインは66.8km/hで、東海道線と横須賀線のあいだに割って入る形で2位になります。

湘南新宿ラインを追加した、首都圏南部方面20km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
20km圏からは、相鉄・JR直通線もランキングに入ってきます。湘南新宿ラインは71.4km/hで、1位に立っています。相鉄・JR直通線は横須賀線に次ぐ4位で、表定速度は58.9km/hです。
東急線とも直通 今後も移動ルートの選択肢が増えるエリア30km圏では、湘南新宿ラインは65.3km/hで東海道線に次ぐ2位。

湘南新宿ラインを追加した、首都圏南部方面30km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
40km圏でも湘南新宿ラインは63.9km/hで2位、相鉄・JR直通線は54.4km/hで4位。50km圏も湘南新宿ラインは58.5km/hで2位、相鉄・JR直通線は54.4km/hで4位と動きはありません。

湘南新宿ラインを追加した、首都圏南部方面40km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
湘南新宿ラインと相鉄・JR直通線込みのランキングで見ても、やはり東海道線方面は鉄道会社別で順位の変動がないのが特徴のようです。JRと直通したことで、JRと京急のあいだに相鉄が割って入ったのは、沿線の住民にとってとても大きいことかもしれません。相鉄線は2022年度に、東急東横線や目黒線への乗り入れも予定しています。

湘南新宿ラインを追加した、首都圏南部方面50km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
移動ルートの選択肢が増えた首都圏南部。列車の本数や混雑率などとともに表定速度も、住む場所を選ぶひとつの参考になればと筆者(河嶌太郎:ジャーナリスト)は考えます。