茨城空港の近くに、鉄道の廃線跡を活用したバス専用道が存在します。鉄道を廃止してバス専用道に転換しようといった議論が全国で進むなか、その先駆となった事例で、開業から10年を迎えました。
2020年は、航空自衛隊百里基地(茨城県小美玉市)が民間共用され茨城空港が開港してから10周年の節目です。同空港への交通機関も同様ですが、そのなかで比較的珍しいものに、バス専用道を経由して運行する路線バス「かしてつバス」が挙げられます。
この地には2007(平成19)年まで、常磐線の石岡駅(石岡市)と鉾田駅(鉾田市)を東西に結ぶ私鉄の鹿島鉄道があり、かつては百里基地への燃料輸送も担っていました。この鹿島鉄道の代替バスとして誕生した「かしてつバス」は、同鉄道の廃線跡の一部を活用した約7kmのバス専用道を経由し、茨城空港連絡バスとしての役割も担っています。
旧鹿島鉄道線を活用したバス専用道を走る「かしてつバス」(画像:石岡市)。
バス専用道は石岡市と小美玉市が整備したもので、2010(平成22)年8月30日に開通し、それまで並行する国道355号を走っていたバスが専用道経由に移行しました。なお、バスの運行は関東鉄道(旧鹿島鉄道の親会社)グループの関鉄グリーンバスが担当。この事例は日本初の「公設民営方式によるBRT(Bus Rapid Transit/バス高速輸送システム)」とされています。
バス専用道そのものは以前から全国にありますが、この「かしてつバス」以降、東日本大震災で被災したJR線を専用道に活用した気仙沼線・大船渡線BRT(宮城県・岩手県)や、茨城県内でも旧日立電鉄の線路を活用した「ひたちBRT」が登場したほか、現在、現役の鉄道路線をBRT化する、あるいは被災した鉄道の復旧を断念しBRTにするといった議論が進んでいる地域もあります。石岡市によると、「かしてつバス」には自治体関係者を中心に全国から視察団が訪れているとのこと。
バス専用道の開通から10年、地域はどう変化したのでしょうか。
バス専用道の整備が進められていた当時は、「茨城空港へのアクセスのため」とよく報じられていましたが、石岡市によると、「かしてつバス」のメインは高校生を中心とした朝夕の通学・通勤需要とのこと。そもそも専用道の整備は、鹿島鉄道の廃止後に運行を開始した代替バスが、国道355号の渋滞により定時性を確保できず、利用者離れが進んだことへの対策が大きな理由だったといいます。
「鉄道の廃線当時はおおむね1日1000人の利用がありましたが、定時性を確保できなくなった代替バスの利用者は、1日700人くらいまで下がってしまいました。公設民営方式としたのも、バスの走行環境を整えて事業者の負担を抑え、撤退リスクを軽減する目的がありました」(石岡市 都市計画課)
専用道経由とすることで定時性を取り戻し、利用者を鉄道と同じ1日1000人レベルまで回復させたい思いがあったといいます。結果、鉄道のダイヤと同程度の速達性を確保しつつ、バス停数は専用道区間にあった駅数と比較しても倍に増加。近年の利用者数は、1日900人半ばで推移しているとのことです。
一方、前出のように近年は鉄道のBRT化が議論されている地域もあります。鉄道がなくなりバスへ変化したことについて、住民はどう思っているのでしょうか。

通常塗装の関鉄グリーンバス。茨城空港にて(2020年8月、中島洋平撮影)。
石岡市によると、専用道経由になったことで、鉄道代替バスの運行当時と比べてよくなったと答えている人は、およそ8割に上るそうですが、「鉄道よりよくなったかどうか」という質問では、これが6割に下がるといいます。
よくなったポイントとして、鉄道時代より運行本数も増え、定時性も確保され、渋滞を気にしなくなったことを挙げる人が多いといいます。