NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。
-第28回、意知が志半ばで、父・意次にみとられて非業の死を遂げました。意知の最期を演じたお気持ちはいかがでしたか。
佐野に襲われて深手を負い、自分で体を起こすこともできないほど弱っている中、目を覚ました意知が真っ先に心配するのが、身請けした誰袖(福原遥)のことなんですよね。意知は常に、父上や町で暮らす民など、自分より他人のことを優先するような人でした。さらに言えば、自分を襲った佐野ですら責めないんです。普通なら、怒りを表すのが当然なのに、なぜあんなことをしたのかと、佐野の境遇を理解しようとまでして。短い時間の中で、そんな意知の生きざまが見事に表現された最期だったと思います。
-無念や憎しみよりも、穏やかさが上回った感じでしょうか。
最期のシーンでは、劇中で出会った人々や見てきた景色が、走馬灯のように脳裏によみがえり、まるで意知の死を疑似体験しているようでした。そういう意味では、思ったより穏やかに最期を迎えることができました。
-意知を死に追いやった佐野政言の襲撃シーンも迫真でした。佐野政言役の矢本悠馬さんとはどんなやりとりがあったのでしょうか。
殺陣については、いきなり斬りかかられ、それを必死に防ごうとする場面なので、稽古のとき、やりすぎて型にはまらないように気を付けました。その点でも矢本さんと意見が一致し、2人が同じ温度感で本番に臨むことができ、そのおかげで突然斬りかかられた意知の戸惑いや恐怖を、しっかり捉えることができたと思っています。
-衝撃的な意知の最期でしたが、脚本を読んだときのお気持ちはいかがでしたか。
誰袖との幸せな未来を予感していたところで突然亡くなるので、「ここで!?」と驚きました。もう少し、2人の幸せな時間を見ていたかったです。といっても、意知の最期をあんなに素晴らしい形で描いてくださったことはうれしく、森下(佳子/脚本家)さんにはとても感謝しています。
-ところで、恋仲だった意知と誰袖が一緒にいるシーンは、どれも雰囲気があってすてきでしたが、宮沢さんが特に印象に残っているシーンを教えてください。
意知が狂歌を書いた扇を「下手で済まぬが」と誰袖に渡すシーン(第25回「灰の雨降る日本橋」)が、とても印象に残っています。
-誰袖役の福原遥さんの印象はいかがでしたか。
花魁は、所作やせりふが独特なので、収録のたびに細かく指導が入るのですが、福原さんは常に瞬時に、的確に対応していくんです。とても器用な方だなと。その上、誰袖のシーンを収録する日は一日中、花魁の扮装(ふんそう)で過ごすため、かなりの負担になるはずですが、福原さんは常に笑顔を絶やさず、現場を明るく盛り上げてくださるんです。とてもチャーミングな方で、おかげで僕も楽しい気分にさせてもらいました。
-田沼意次役の渡辺謙さんと親子役での共演はいかがでしたか。
謙さんからは多くのことを学びました。収録の待ち時間には、リハーサルで感じたことを共有してくださったり、よかった点を褒めてくださったり…。
-ご一緒するシーンは少ないながら、どれも印象的だった蔦重役の横浜流星さんとの共演はいかがでしたか。
横浜さんとご一緒するのは初めてでしたが、本当に素晴らしい座長でした。蔦重という役は、コミカルな一面から感情的なときまで振り幅が大きく、演技に対する要求も非常に高いんです。そんな大変な役を、横浜さんは見事に演じられていました。そんなご苦労があるにもかかわらず、現場で横浜さんと一緒にいると、すごくリラックスできるんです。蔦重と田沼家は親密な関係だったので、横浜さんが醸し出すそういう空気感が、劇中にも生かされていた気がします。僕のクランクアップは、意知が蔦重に米の値段を下げる方法を相談に行くシーン(第26回「三人の女」)だったので、最後に横浜さんとお芝居ができ、いい形で終えられました。
-初めての大河ドラマ出演は、ご自身にとってどんな収穫がありましたか。
これまで、何度か朝ドラに出演させていただいた際に、隣のスタジオで収録している大河ドラマの様子を見て、「あの世界に入ってみたい」と、ずっと憧れていたんです。その念願がかない、とてもうれしかったです。実際に収録に入ると、毎日不安なことばかりで、それを一つ一つ乗り越えていく日々が1年間続き、気が付いたら終わっていた感じです。その中で少しずつハードルを上げていき、気が付いたらとても高いハードルを越えられるようになっていて、自分自身も成長できた実感があります。おかげで役者としてだけでなく、1人の人間として困難に立ち向かう自信がつき、とても充実した1年でした。
-宮沢さんにとって、大きな糧になる経験だったわけですね。
大河ドラマだからこそ生み出せる世界観があると思うので、その一員に加われたことを誇りに思います。素晴らしい経験をさせていただき、成長させていただいた分、この経験を糧にさらに力をつけ、またいつか大河ドラマに戻ってきて、恩返しができたら…と思っています。
(取材・文/井上健一)