「スカウトをして10年近くになりますけど、今年はドラフトにかかりそうな選手が一番いない大会です」

 開口一番、あるスカウトはこうボヤいた。大阪桐蔭根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)、報徳学園の小園海斗(広島)のスターが揃った昨年とは対照的に、今年はスカウトにとって物足りない大会だったようだ。

さらに、前出のスカウトはこうも言う。

「そもそもBIG4(大船渡/佐々木朗希、星稜/奥川恭伸、横浜/及川雅貴、創志学園/西純矢)が甲子園に出てきたとしても、今年の高校生はとにかく候補者が少ないんです」

歴史的不作にスカウトはガックリ。スピード、パワー偏重の野球に...の画像はこちら >>

どのスカウトも絶賛する星稜のエース・奥川恭伸

 そんななか注目を一身に浴びたのが、星稜の奥川恭伸だ。初戦の旭川大高戦は、わずか94球の3安打完封。さらに救援登板した2回戦の立命館宇治戦は自己最速となる154キロをマーク。そして3回戦の智弁和歌山戦は、延長14回をひとりで投げ抜き3安打1失点、23奪三振と格の違いを見せつけた。

「1年生の時から駆け引きができていた。

相手打者が打ち気にはやるとボール球でかわし、打つ気がないと見るや真ん中に投げてストライクを取る。去年は相手が”打倒・奥川”で向かってくるところをムキになって勝負していたように感じたけど、3年生になってまた駆け引きができるようになってきた。真っすぐもよくなっているし、3球団ぐらいが1位で指名するんじゃないかな」(パ・リーグスカウトA氏)

「昨年の秋から今年の春、そして夏と、見るたびによくなっている。腰高のフォームを気にする人もいるけど、とくに問題はないと思います。あれだけのボールを投げるのにコントロールもいいというのは、しっかりしたフォームで投げられている証拠。力みがなく、『点を取られなきゃいいんでしょ』という感じで、ゆとりをもって投げている。

大会前に伝えられていた調子の悪さは、まったく感じませんでした。しっかり結果も残しているし、1位で競合するでしょう」(パ・リーグスカウトB氏)

「四天王と言われたほかの投手が甲子園に出られないなかで、出てきたこと自体が評価できる。やっぱり、大舞台で結果を残せるというのは魅力ですよ」(セ・リーグスカウトD氏)

「しっかりボールを叩いて投げられているので、ストレートがシュート回転しないし、角度もある。フォームに力みがないし、バランスもいい。なによりコントロールがすばらしい。高校生のレベルでは頭ひとつ抜けています」(セ・リーグスカウトE氏)

 どのスカウトも絶賛が続いたが、唯一課題となるのが変化球の精度。

決め球であるスライダーはまだまだ発展途上だ。

「ストレートが150キロ出るのに、スライダーは125~128キロぐらい。腕が緩むというか、力が抜けすぎている感じがある。しっかり腕を振って投げることができれば、133~135キロぐらいは出るはず。現時点ではスライダーというよりもスラーブ。高校生相手なら問題ないと思いますが、プロでは打たれます」(パ・リーグスカウトC氏)

 とはいえ、それは要求されるレベルが高いゆえの課題であり、完成度は高校屈指。

プロでも早い段階から一軍で活躍できるだろう。

 奥川に関しては口が滑らかなスカウトたちも、ほかの選手の話題になると一様に口が重くなる。そんななか、名前が挙がったのが、霞ケ浦の鈴木寛人と津田学園の前佑囲斗(まえ・ゆいと)の両右腕だ。

 鈴木は、186センチの大型右腕。初戦の履正社戦では3本のホームランを浴びるなど3回途中でKOとなったが、最速148キロのストレートとキレのあるスライダーは可能性を感じさせた。ただ、スカウトの評価は大きく分かれた。

「威勢がいいし、バネがある。リリースでパチッとボールを叩けるし、いい真っすぐを投げていた。外れ1位もあるでしょう」(セ・リーグスカウトD氏)

「変化球はキレがあるし、投手としてすばらしい感覚を持っている。ただ、身長のわりにストレートに角度がないから空振りが取れない。ドラフトにかかっても4、5位ぐらいじゃないかな」(パ・リーグスカウトB氏)

 前は、182センチ88キロとガッチリした体躯の本格派右腕。球速は常時140キロ前後だが、素材のよさが光る。

「スピードよりも球質がいいので、まだまだ伸びしろがある。ツーシーム、カットボール、スライダーと球種が多く、器用なところもある。ただ、現時点でウイニングショットがないので、これからどう磨いていくか」(パ・リーグスカウトC氏)

「ストレートは高いし、変化球もそれほどの威力がない。それでも春夏連続して甲子園に来られたのは素材がいい証拠。フォームのバランスもよく、ボールに磨きをかけて制度を高めていけば面白い存在になります」(セ・リーグスカウトE氏)

 このほか、センバツ準優勝右腕の習志野・飯塚脩人は、初戦の沖縄尚学戦で6者連続三振をマーク。プロ志望届を出すかは現時点では未定だが、鈴木や前以上に推すスカウトもいた。

「センバツから大きく成長している。彼の最大の特長は、真っすぐが強いこと。球速以上にバッターが押されていた。志望届を出せば、獲りにいく球団はあるでしょうね」(パ・リーグスカウトA氏)

 捕手では、小学生の時から奥川とバッテリーを組む星稜の山瀬慎之助の強肩に注目が集まった。捕球してから二塁到達まで1秒9台のタイムもさることながら、糸を引くように伸びる軌道は高校生離れしている。

「地肩の強さは今大会ナンバーワンでしょう。プロでも肩で勝負できる捕手になれる。キャッチングもよくなっているし、リードにもセンスを感じる。バッティングは力不足だけど、それを度外視しても獲る価値はあります」(パ・リーグスカウトC氏)

 その山瀬擁する星稜と初戦で戦った旭川大高の捕手・持丸泰輝を推すスカウトもいた。

「スイング軌道は悪くないし、スローイングもいいものを持っている。育成まで広げれば、捕手不足の球団から指名があるかも」(セ・リーグスカウトD氏)

 また5季連続甲子園出場を果たし、2回戦の明徳義塾戦でホームランを放った智弁和歌山の東妻純平も高い評価を受けた。

「上背はないけど(172センチ)、プレーにスピードがあるし、パンチ力もある」(パ・リーグスカウトA氏)

 内野手では花咲徳栄の遊撃手・韮沢雄也が指名濃厚の評価だった。

「捕球してからスローイングに移るまでの形がいい。守備は高く評価できます。あと足があればいいんだけど……」(パ・リーグスカウトB氏)

 遊撃手では八戸学院光星の武岡龍世もプロ注目の選手だが、評価は厳しかった。

「守備はいいんだけど、決め手がないんだよね。夏の大会前はバッティングを崩していてひどい状態だった。一応リストには残しているけど、指名はどうかな……現段階はなにも言えないね」(パ・リーグスカウトC氏)

 このふたり以上に将来を評価されたのは、”二刀流”で活躍した東海大相模の遠藤成だ。

「投手としては厳しいかもしれないけど、野手としてなら魅力的。馬力がある。ショートだけじゃなく、ほかのポジションも守れるし、外野もできると聞いている。3~5年後を考えると非常に楽しみな選手です」(セ・リーグスカウトE

 外野手では履正社のスラッガー・井上広大。187センチ、94キロと高校生離れした体格の持ち主で、霞ケ浦戦では鈴木から詰まりながらも高校通算47号をレストスタンドに運んだ。

「とにかくデカいよね。体のサイズというのは努力して手に入れられるものではないから、それだけで魅力ですよね。右の長距離打者はどの球団もほしいはずだし、肩も弱くない。昨年横浜高から日本ハムに指名された(ドラフト4位)万波中正のように『大化けしてくれれば……』というドリーム枠で獲る球団はあるでしょうね」(パ・リーグスカウトA氏)

 また井上のチームメイト、履正社のセンター・桃谷惟吹(いぶき)は「スイングスピードが速い。変化球にも対応できる」(セ・リーグスカウトD氏)、敦賀気比の木下元秀は「柔らかさはないけど、力強いバッティングをする。それに木製バットでも対応できそう」(パ・リーグスカウトC氏)と、今後の成長に期待する声もあった。

 冒頭でも触れたが、例年に比べてスター不在、ドラフト候補が少ない大会であったことは事実。そんな状況にも関わらず、150キロをマークした智弁和歌山の池田陽佑や、145キロを出した花巻東の西舘勇陽らの名前は挙がってこなかった。そこには現場だけでなくメディアも含めた”球速偏重”の弊害がある。今季現役を引退した上原浩治(元巨人など)は、自身のツイッターでこうつぶやいていた。

<高校野球の内容をみて、いま球速を煽っているためか、コントロールを疎かにしてないっすか⁇>

 たしかに球速は、投手を評価するうえでわかりやすい数字である。だが、それだけでは勝てる投手にはならない。このような傾向は打者にも言えることで、体を大きくして、ただ振り回しているという選手が増えている。金属バットでは対応できるかもしれないが、木製バットでは苦労するだろう。

 あるスカウトはこう嘆いていた。

「ただ投げて、打っているだけのチームが増えている。昔に比べてピッチャーの球は速くなっているし、バッターだって遠く飛ばせるようになっているけど、やっている野球のレベルが下がっているように思える。もっと考えてプレーしないと、上のレベルにいった時に通用しなくなる。この先、考えていかないといけないでしょうね」

 近年は野球人口の減少も伝えられており、スカウト受難の時代はさらに続くだろう。こうした問題は高校野球に限らず、プロを含めた野球界の課題として取り組む必要があるだろう。