2013-2014シーズンにベルギーカップで優勝し、リーグ戦を5位でフィニッシュしたスポルティング・ロケレンの栄華は、そう遠い昔の話ではない。今、ロケレンは2部リーグで最下位にあえいでいる。



 1月24日のルーヴェン戦を観戦しに訪れると、客は3373人しか集まっておらず、ダクナム・スタディオンは閑散としていた。ところが、意外と雰囲気は殺伐としておらず、ファンは一生懸命に低迷するチームを支えようと、温かく熱心な声援を送っていた。

元マリノス天野純と元レイソル小池龍太。ベルギー2部で戦うふた...の画像はこちら >>

卓越したテクニックでロケレンの攻撃陣を引っ張る天野純

 秋になり、デコボコで重くなったピッチは冬になると芝が剥げ、寒さで固くなる。そんなピッチコンディションで、チーム状況もよくないロケレンは、なかなか3本以上のパスがつながらない。

 昨年夏、Jリーグからベルギーに飛び込んだMF天野純(前横浜F・マリノス)とDF小池龍太(前柏レイソル)は右サイドでコンビを組んだ。だが、前がかりになって敵陣に走り込んでも、チームとして最後尾からのビルドアップがうまくいかず、ふたりは無駄走りを余儀なくされた。


 ロケレンは幸先よく9分に先制ゴールを挙げたが、ルーヴェンの反撃の前にチームの重心はさらに低くなった。天野も含めたサイドハーフ陣が最終ラインに吸収され、6バックになる瞬間も幾度となくあった。

 ゴールキーパーの再三のファインセーブも実らず、65分に1-1とされてしまうと、ロケレンのスタイン・フレーフェン監督は勝ちにいく采配を見せ、アタッカー陣をどんどんピッチに投入する。その都度、天野は右サイドハーフからトップ下、トップ下からボランチと、ポジションを移していった。

 この策が天野にとって、スペースと自由を与えたのかもしれない。

 78分には左サイドの角度のないところからバーを強襲するシュートを放ち、84分には味方のFWが落としたボールを後ろから走り込んで強烈なボレーシュートを放った。
だが、相手GKのファインセーブによって阻まれてしまう。

 この決定機以外にも、天野は左足のテクニックとパワーを相手に見せつけた。しかし、試合は1-1で終わってしまい、「いいプレーはできたと思いますが、決めきれなかったのが自分の課題です」と悔やんでいた。

「自分が思い描いていたシーズンとまったく違って、チームは負けてばかり。そうなると気分が落ち込んでしまい、2、3日は負けを引きずることもありました。

 言葉もできないから、簡単に気分を晴らすこともできない。

今はもう大丈夫ですが、僕にとってベルギーでの1年目は、まるで修行のようです。おかげで精神が鍛えられました」

 ロッカールーム前のインタビューエリアから、天野はピッチを見据えるようにして言葉を続ける。

「たしかにテクニックは、僕たち日本人選手のほうがここの選手たちよりあるのかもしれない。だけど、この2部リーグのピッチの上には、俺の足りないものがいっぱい詰まっていた」

 天野の足りなかったものとは、プレー強度の高さと球際の激しさだ。しっかり連係をとって守備をするJリーグと違い、ベルギー2部リーグは文字どおり「飽くなき個と個の競い合い」が繰り広げられる。

「それは試合だけではない。
練習の強度と激しさも、日本とは比べ物にならないですよ」

 一方で、ロケレン市民やファンの温かさに天野が救われることもある。たとえば、練習の一環として町中にランニングしに行くと、古くから応援してそうなファンが選手たちに「がんばれよ!」「応援しているぞ!」と励ましてくれるのだという。

「そんな光景、日本では絶対にないですよね。こういうのに触れると、『絶対にこのチームを降格させちゃいけない』という気持ちになります。

 スタジアムの雰囲気もいいです。横浜国際と比べるととても小さいスタジアムですが、声援がとても熱く伝わってきて、プレーしていて奮い立たされるんです。
彼らのためにも、勝たないといけません」

 昨年11月からチームを率いているフレーフェン監督は現役時代「ファイター」として知られ、指導者としても試合後のコメントはメンタル面に言及することが多い。ルーヴェン戦後も「技術的には低い試合になってしまったが、選手たちはファイティングスピリッツを見せて、ベストを尽くしてくれた」と語っていた。

「だけど、フレーフェン監督は戦術に強いタイプで、とくに守備には細かいんですよ。彼が来てからチームが固まり始めました」と天野は言う。

 反対にフレーフェン監督は、天野のことをどう評価しているのだろうか。

「左足の技術が高く、チャンスを作り出すことができる重要な存在。

課題は数字。もっとゴールとアシストがほしい」

 たしかに今季の天野は、ベルギー2部リーグ19試合で2ゴール・3アシストと、ちょっと数字が寂しいところ。だが、そこは本人も自覚している。

「僕はここを目指してベルギーに来たわけじゃないから、3部リーグに落ちちゃったらシャレにならない。ともかくチームを残留させますよ!」

 小池は試合序盤、攻撃に絡もうとする姿勢を示していたが、ルーヴェンの反撃の前に割り切って中に絞って守備を行ない、小さな身体で空中戦を競い勝っていた。その後、1-1にされてからは再び、攻撃にアクセントを置いてプレーした。

 小池の特筆すべき点は、第2節以降、22試合連続でフル出場を果たしていることだ。残念ながら、試合後の小池の姿を見失い、本人に話を聞くことはできなかった。そこで、かつて「炎の右サイドバック」としてユトレヒトの黄金期を支えたフレーフェン監督に、小池のことを評してもらった。

「小池はすばらしいメンタルを持ち、機動力とスピードに秀でたサイドバックだ。試合だけでなく練習でも一生懸命で、私は気に入っている。攻撃力があって、惜しみなくサイドライン際を行ったり来たりする。

 課題は、攻撃参加のタイミングをしっかり選ぶことだろう。今日の試合でも背後にスペースを簡単に空けたまま、前線に上がってしまったシーンがあった」

 ベルギー2部リーグは8チームで構成されており、レギュラーシーズンは4回総当り制で、各チーム28試合を戦う。残留を争うプレーオフは、7位と8位の間で行なわれる。

 天野と小池が目指すべきは、まずはレギュラーシーズン残り5試合で少しでも勝ち点を積み重ね、チームをなんとか6位に導くこと。それに失敗した場合は、プレーオフで勝ち抜くことだ。

 ふたりとも出場機会に恵まれているだけに、この1年を「いいシーズンだった」と振り返ることのできる結果で終えてほしい。