日本時間3月27日の深夜から、アラブ首長国連邦のドバイ・メイダン競馬場でドバイワールドカップデーが開催される。今回が25回目で、6つのGIレース(純血アラブ含む)を含む9つの国際招待レースが行なわれる競馬の祭典だ。

そのうちの4レース(ゴールデンシャヒーン、ターフ、シーマクラシック、ワールドカップ)は日本でも馬券が発売されるため、ファンの注目度も高い。

2年ぶりのドバイWC。クロノジェネシスら日本馬に激走の気配!...の画像はこちら >>

初の海外遠征で勝利を目指すクロノジェネシス

 昨年はコロナ禍により1週間前に開催延期が決定。今年は直前にハムダン・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下(ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム首長の兄)が逝去したことで開催が危ぶまれたものの、華美な演出を控えて万全の対策を講じ、1年越しの開催にこぎつけた。

 日本からは、昨年の春秋グランプリ馬クロノジェネシス(牝5歳)をはじめ、12頭が参戦。昨年は結果的に空振りとはいえ、20頭が参戦予定だったことを考えるとやや少ない印象もある。情勢を考えれば勇気ある参戦だが、検疫体制は日本よりも厳重に運用されている印象もあり、むしろリスクは少ないかもしれない。
これがスタンダードになって、国際交流の日常を取り戻せることを切に願う。

 昨年から新たな潮流を予感させているのが、1カ月前に行なわれたサウジカップデーからの転戦というパターン。今回はリヤドダートスプリント(キングアブドゥルアジズ/ダート1200m)を制したコパノキッキング(せん6歳)のほか、マテラスカイ(牡7歳)、ジャスティン(牡5歳)、チュウワウィザード(牡6歳)、サウジダービー(キングアブドゥルアジズ/ダート1600m)を勝ったピンクカメハメハ(牡3歳)の5頭がそうだ。その5頭はサウジカップデーの翌日にドバイに移動。今年は例年よりも気候が冷涼ということもあって、順調に調教が積まれているという。

 とりわけサウジからの連勝がかかるコパノキッキングは、テンションが上がりやすい傾向があるため、"滞在競馬"は非常にプラス。

1週間前には、ウィリアム・ビュイック騎手を背に負荷をかける調教ができている。気性を考慮して厩舎地区の角馬場を中心に調整されており、本馬場に姿を現さないために一部の外国メディアからは不安がる声も挙がっているが、前走の好状態をキープできていると見ていいだろう。

 しかし、コパノキッキングが出走するドバイゴールデンシャヒーン(メイダン/ダート1200m)は、他の日本馬3頭もいずれも勝負圏内だ。前走で、コパノキッキングに次ぐ2着だったマテラスカイは、今回が3度目の挑戦となる。過去の2度は5着、2着という成績で、まさに"三度目の正直"。その2レースともアメリカのトップスプリンターと伍して戦っていただけに、彼らの名誉のためにも、今回のメンバーなら格好をつけたい。


 また、ジャスティンも対戦成績では負けてはいない。前走は返し馬で断ったはずのリードホースに寄せられてエキサイトしてしまい、レース前に消耗してしまった。今回はその点も考慮して、コパノキッキング同様に角馬場を併用して調整されている。父オルフェーヴルが果たせなかった「海外GI勝利」の悲願を託された。

 そして、このレースに出走する日本調教馬の中で唯一、サウジを使わなかったレッドルゼルも順調。展開もこの馬向きに速くなりそうで、差し合いになればコパノキッキングとも互角か、それ以上の勝負になるはず。
父は、ダノンスマッシュとの「香港での父子GI勝利」を果たしたロードカナロア。レッドルゼルが勝てば、そこにダート短距離GIという新しいタイトルが加わる。

 例年、アメリカのエース級のスプリンターの参戦が多いレースだが、今年はやや小粒。そんな中で穴馬として注意したいのが、アメリカのワイルドマンジャック(せん5歳)と、地元UAEのキャンヴァスト(せん6歳)だ。

 前者は、前走が久々かつ2度目のダートだったが、余裕たっぷりに外めを追走し、直線で軽く仕掛けただけで後続を突き放した。勝ち時計も優秀だったことも好評価だ。

後者は、ここ2戦をメイダンの同コースで1分10秒台前半を出して連勝中。例年のドバイゴールデンシャヒーンの勝ちタイムが同じくらいのタイムなため、同じだけ走れば勝機はあるだろう。

 もうひとつ、日本調教馬の勝利に大きな期待がかかるレースが、ドバイシーマクラシック(メイダン/芝2410m)。こちらにはクロノジェネシスとラヴズオンリーユー(牝5歳)の同世代牝馬クラシックを競った2頭が出走する。

 昨年の有馬記念を制するなど、今や日本を代表する名馬となったクロノジェネシスは、今回が初の海外遠征。同じノーザンファームの先輩であるジェンティルドンナ以来の制覇を狙う。
現地時間3月23日に芝コースで追い切ったあとも順調で、同25日、26日ともダートコースで素軽い動きを見せている。秋には欧州遠征を視野に入れており、今回はその通過点として取りこぼしは許されない。

 一方、ラヴズオンリーユーは昨年の遠征が空振りになった1頭。しかし、その経験があったことで環境に戸惑うこともなく、管理する矢作芳人調教師も「今回の遠征につながっている」と話す。全兄はドバイターフ(メイダン/芝1800m)を制したリアルスティール。兄妹で"2階級制覇"を目論む。

 同レースへの出走は10頭と少頭数ながら、海外馬も興味深いメンバーも揃った。実績では、アイルランドのモーグル(牡4歳)、イギリスのミシュリフ(牡4歳)、アメリカのチャンネルメイカー(せん7歳)の3頭、そして上がり馬のUAEのウォルトンストリート(せん7歳)は外せない。

 モーグルはGIパリ大賞(フランス・パリロンシャン/芝2400m)とGI香港ヴァーズ(香港・シャティン/芝2400m)と、2つのGIを勝利している。特にパリ大賞の2分24秒7という好時計は、それだけでポテンシャルを感じさせる。毎年大量に管理馬を送り込むエイダン・オブライエン陣営が1頭だけ送り込んできたあたりにも自信を感じる。ただ、ドバイでの調整が極めて軽めに終始しており、しっかりと長めに乗り込むことが主の同厩舎としては、馬の調子自体が疑問視される。

 ミシュリフはGI仏ダービー(フランス・シャンティイ/芝2100m)と、前走のサウジC(キングアブドゥルアジズ/ダート1800m)の両方を制した異才の持ち主。あとは初の2400mという距離が課題だろうが、英仏でのレースぶりを見ると、抜け出してからさらに加速しているため不安がないように思える。前走ダートや距離が嫌われて人気を落とすようなら、積極的に買う手もありかもしれない。

 チャンネルメイカーは芝2400mでは結果を出しているものの、いずれも小回りコースで巧く立ち回ってのもの。モーグルとは逆に広いコースが仇となりそう。ウォルトンストリートはここ2戦が同じコースで2戦連続レコード勝ち。7歳だが休養も長かったため、今が旬ともいえる。鞍上のビュイック騎手もコースは手中に入れている。

 あえて穴を探すなら、同じゴドルフィンのスターサファリ(せん5歳)に期待したい。前掛かりになれば台頭できる脚を持っており、伏兵の激走には要注意だ。