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 ユーロ2020はあらためて欧州サッカーの実力を世界に知らしめた。プレーの質は極めて高く、戦術的革新もあった。

やはり欧州は世界サッカーのど真ん中にある。ワールドカップも最近4大会は欧州勢が優勝。クラブレベルでも、クラブワールドカップの意義が揺らぐほど欧州勢が圧倒している。

 しかし、五輪だけは劣勢だ。

 東京五輪に欧州代表として出場する4チームは、2019年に行なわれた五輪予選を兼ねたU-21欧州選手権で優勝したスペイン、準優勝のドイツ、準決勝に進んだフランス、ルーマニアになる。この大会を勝ち抜いたメンバーとオーバーエイジ(OA)が結集したら強力なチームになるが、4カ国中3カ国はベストメンバーを組めてはいない。

五輪はFIFA主催の大会ではないため、クラブが選手派遣を拒否できるからだ。

 日本と同組で、第3戦目で戦うフランスは、ドリームチーム構想が幻に消えた。パリ・サンジェルマンのキリアン・エムバペは年齢的に出場資格を満たしており、大枠のリストに入っていたが、クラブの強硬な反対で招集を断念。「OAでポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)、アントワーヌ・グリーズマン(バルセロナ)、エンゴロ・カンテ(チェルシー)を招集」なども夢物語で終わった。

 さらに、いったん18人のメンバーを発表した後、クラブ側が難色を示したことで、8人もの選手をリストから外すことになった。そのうちのひとり、エドゥアルド・カマヴィンガ(レンヌ)は、ジネディーヌ・ジダン前レアル・マドリード監督が「カゼミーロの後釜に」とほれ込んだMF。

もし大会に出場したら、目玉選手になっていただろう。同じくリーグアン(フランス1部リーグ)で優勝したリールのチャンスメーカー、ジョナタン・イコネも選外となった。

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オーバーエイジでU-24フランス代表に加わった元フランス代表アンドレ=ピエール・ジニャック

 守護神ポール・ベルナルドーニ(アンジェ)、ドイツで奮闘するMFリュカ・トゥサール(ヘルタ・ベルリン)のように所属クラブでレギュラーの座を守る選手もメンバーに入っている。ただ、大半は準レギュラー、あるいは控えといったほうが適切か。例えばパリ・サンジェルマンのDFティモテ・ペンペレは昨シーズン、リーグ戦はわずか6試合の出場にとどまっている。

 OAも苦肉の策だろう。

メキシコリーグで活躍するFWアンドレ=ピエール・ジニャック、MFフロリアン・トヴァン(ともにティグレス)は実力者だが、「第一線を退いた」とも言える元代表選手。MFテジ・サヴァニエ(モンペリエ)に至ってはリーグアンで実績を積んできたが、代表歴は一度もない。

 ドイツも、状況はフランスに似ている。

 1990年代、ドイツ代表FWだったステファン・クンツ監督が率い、U-21欧州選手権では2019年準優勝、2021年優勝と結果を残してきた。戦力的にはスペインと並び、この世代ではトップランクで、すでにフル代表にも選手を輩出している。しかし東京五輪メンバー構成は、控えめに言っても1.5軍だ。

 カイ・ハベルツ(チェルシー)、ルーカス・クロスターマン(ライプツィヒ)などユーロ2020を戦った選手の選出は論外。センターバックには、フェリックス・ウドゥオカイ(アウクスブルク)、アモス・ピーパー(ビーレフェルト)と、所属クラブで定位置を確保した2人が入ったが、多くの選手が所属先でポジションを確定できていない。「U-21欧州選手権2021の優勝メンバーが多く入った」と聞くと豪勢だが、つまりは年代的にひとつ下のチームなのだ。

 OAにも助っ人感はない。MFマキシミリアン・アーノルド(ヴォルフスブルク)は代表歴1回。マックス・クルーゼはドイツ代表としても期待された実力者で、昨シーズンもウニオン・ベルリンで11得点と結果を残しているが、数々の不祥事で代表からは遠ざかった"いわくつき"の選手でもある。

 ルーマニアも事情は変わらない。U-21欧州選手権で活躍した点取り屋、ゲオルゲ・プスカシュ(レディング)は招集できず。国の英雄ゲオルゲ・ハジの息子、MFヤニス・ハジ(レンジャーズ)も外さざるを得なかった。国内の若手だけのチームでは、厳しい戦いが予想される。

 そんな中、唯一、ドリームチームのような陣容を組んだのが、スペインである。マンチェスター・シティにはロドリ、フェラン・トーレスの招集を拒否されて断念したが、国内クラブのバックアップを取りつけることができ、ほぼベストメンバーをそろえた。

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 なんとユーロ2020に出場したスペイン代表から、GKウナイ・シモン(ビルバオ)、DFパウ・トーレス(ビジャレアル)、エリク・ガルシア(バルセロナ)、MFペドリ(バルセロナ)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)、FWミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)と6人も選出されたのだ。ちなみに準決勝イタリア戦ではこのうち5人が先発し、トーレスも途中出場している。これだけでも突出したメンバーと言える。

 さらにOAも、マルコ・アセンシオ(レアル・マドリード)、ダニ・セバージョス(レアル・マドリード)、ミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)とフル代表クラスの選手たちが結集した。

 今回は各クラブに打診のないなかでの招集で、バルサなどはあからさまに難色を示した。例えばペドリはユーロ2020ではチームトップの走行距離を記録し、疲労からくるケガなども懸念される。さらに、五輪参加の後は2週間のオフが選手会から義務付けられたことから、シーズン開幕に間に合わない可能性もあるのだ。

 しかし、本人の参加意思は強く、ユーロ組は6人とも17日のU-24日本代表戦に向けた日程が組まれているという。

 他にも、すでにリーガで場数を踏んだ選手を擁する。久保建英と同じバルサ育ちで、ヘタフェで同僚だった左利きマルク・ククレジャ、岡崎慎司と2トップを組んだラファ・ミル(ウエスカ)、乾貴士から定位置を奪ったドリブラー、ブライアン・ヒル(エイバル)と多士済々。マルティン・スビメンディ(レアル・ソシエダ)は次世代のスペインを担うプレーメーカーだ。

 MVP候補にはアセンシオを推したい。レアル・マドリードの次期エースと期待されながら伸び悩み、ユーロ2020メンバーも落選した。しかし潜在能力は怪物級。繊細さと豪快さを同時に併せ持つ左足を持ち、サッカーIQもすこぶる高い。

 五輪サッカーに23歳以下の制限がかかった92年のバルセロナ五輪以降、欧州勢で優勝経験があるのはスペインのみだ。