11月8日(現地時間)、FCバルセロナの監督に就任したシャビ・エルナンデスが本拠地カンプ・ノウでサポーターに挨拶をし、最初の記者会見に臨んだ。2024年6月末までの契約で、弟のオスカル・エルナンデスなど7人のスタッフを引き連れての"組閣"となった。
「我々は最高のクラブだ。最高のクラブは勝たなければならない。当然、要求も高くなるが、私はとても楽観的に考えている」
バルセロナ系のスポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』はバルセロナ空港に降り立ったシャビを直撃し、その肉声を引き出していた。6年ぶりの監督としての復帰は祝祭のはずだが......。英雄は厳しい仕事に向き合うことになるだろう。
それに先立つ6日、セルジ・バルファン暫定監督が率いるバルサはセルタと戦い、前半は攻撃がかみ合い、3-0とリードした。
シャビは迷走するバルサを救えるのか?
バルセロナの監督に就任、カンプ・ノウでファンに手を振るシャビ・エルナンデス
ひとつ言えるのは、「シャビは前任者ロナウド・クーマンと違う」という点だろう。
クーマンはバルサスタイルの始祖であるヨハン・クライフのもとでプレーし、ドリームチームの一員だったが、指導者としてはクライフイズムと真逆の立場にいる。ボールありきの能動的サッカーではなく、相手の嫌なことをする受動的なプレースタイルを信奉。
「自分たちがボールを持っていれば、相手は攻撃できない。失うとしても、自分たちのゴールから80メートルは離れた地点だ。失ったら、即座に奪い返して攻撃へ」
そう言うシャビは、クーマンとは対極と言える。就任の記者会見で本人も強調したように、まさにクライフイズムの権化。カタールのアル・サッドをリーグ王者に導き、監督としても理論を実践している。
クーマンは「今のバルサは戦力的に限界がある。チャンピオンズリーグ優勝など奇跡」と吐き捨てたが、バルサにはボールゲームを実現するだけの人材が十分にいる。下部組織ラ・マシアの育成は健在で、MFガビ、ニコ・ゴンサレス、FWアンス・ファティという3人の10代選手はワールドクラスにたどり着けるポテンシャルの持ち主だ。
シャビはラ・マシア育ちだけに、誰よりも才能の用い方を心得ている。
アル・サッドでは4-3-3、4-2-3-1を用いただけでなく、3-4-3の超攻撃的システムを採用していた。中盤4人がダイヤモンド型で密集し、ポゼッションで優位を保ち、ボールを失わない。
試しに現在のバルサに3-4-3を当てはめると、以下のようにリスクの高い布陣となる。
FW ファティ、メンフィス・デパイ、ウスマン・デンベレ
MF ガビ、ペドリ、ニコ、セルヒオ・ブスケッツ(フレンキー・デ・ヨング)
DF ジョルディ・アルバ、ロナルド・アラウホ(ジェラール・ピケ)、エリック・ガルシア
GK マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン
4バックにして、右サイドバックにはオスカル・ミンゲサやセルジ・ロベルトをデンベレの代わりに使い、伝統的な4-3-3にするというのが順当だろう。ただ、それはクーマンやセルジも採用している。
「フォーメーション自体は数字の羅列」
シャビはそう言う。
ひとつの焦点になる選手は、リキ・プッチだろう。
2018-19シーズンにトップデビューを飾り、「アンドレス・イニエスタの再来」と謳われ、スキル、ビジョンはバルサイズムの結晶と言えるが、先発に定着できていない。
シャビが、自らの系譜を継ぐプッチをどう用いるのか。エルネスト・バルベルデ、キケ・セティエン、クーマン、セルジと、歴代監督が使い切れなかっただけに、その起用法は注目だ。
もちろん、1、2試合で成果を判断することがあってはならない。
クライフもフランク・ライカールトもジョゼップ・グアルディオラも、バルサ監督就任当初は苦労した。クライフは2シーズン、選手を大きく入れ替えながら、カップ戦優勝でクビをつなぎ、ドリームチームで栄光を作った。ライカールトの1年目はシーズン折り返し後も中位にとどまり、一時は12位まで落ちたが、2年目に飛躍した。グアルディオラも開幕戦はヌマンシアに敗れ、2戦目も引き分け、「経験不足」という的外れな批判も受けていた。
シャビはバルサ新監督として「プレーデザイン」において正しい。選手の質や勝負の運で勝てない期間はあっても、最強チームを継承できるのは彼しかいないだろう。"戦友"リオネル・メッシの放出は痛いだろうが、後ろは振り返れない。セルタ戦でゴールを決めたファティが大腿二頭筋肉離れで5~6週間の離脱を余儀なくされるなど、ケガ人は10人以上とやりくりは苦しい。視察したバルサBからの"昇格"も考えられるかもしれない。
11月20日、エスパニョールとのカタルーニャダービーが"シャビ・バルサ"の初陣となる。