長く低迷が続く清水エスパルスが、辛うじてJ1残留を決めた。2016年にクラブ初のJ2降格を経験し、わずか1年でJ1復帰を果たしたものの、2018年を除いて毎年下位争いに絡み、今季もまた最終節まで残留争いを演じた。

清水エスパルスがJ1残留争いを演じたのはなぜか。残り4節で示...の画像はこちら >>

最終節で1アシスト、1ゴールの活躍をした西澤健太(右)

 降格圏まで勝ち点3差で迎えたホームでの最終節セレッソ大阪戦は、引き分け以上ならば自力で残留が決まるが、負ければ降格の可能性もある崖っぷちの大一番だった。チームは『自力での残留』を誓って臨み、立ち上がりから押し気味の展開。前半35分に先制点を許したが、同終了間際にMF西澤健太のFKからDF鈴木義宜が押し込んだ同点弾に続き、後半6分に西澤自身が豪快な逆転ミドルシュートを決め、2−1の勝利で宣言どおりに自力残留を勝ち取った。

 最終節まで苦しんだ清水だが、今季は開幕前から高い評価を得ていた。新指揮官にはJ2東京ヴェルディやC大阪で実績を残したミゲル・アンヘル・ロティーナ監督を招聘し、新戦力として日本代表GK権田修一ら各クラブの主力級11選手も加入。その強力な補強はリーグでも話題になり、各メディアの今季リーグ戦の順位予想では、多くが20クラブ中で一桁以内と高評価が並んだ。

 チームの改善点は明確だった。過去2年連続でリーグ最多失点を記録した守備力の強化である。新指揮官も守備の改善には十分な実績があった。C大阪で指揮を執った2019年には、前年から改善させて年間25失点とリーグ最少を記録。その指揮官の下で、清水の最大の課題が改善されることに周囲は大きな期待を寄せた。就任時に守備について問われたロティーナ監督も、改善には自信を覗かせていた。

「攻撃と守備は、分けてトレーニングできるものではない。我々のトレーニングは大半を攻撃に割くが、それは攻撃のほうがより構築に時間がかかるからだ。いい攻撃ができれば守備の時間は短くなるし、それが一番いい守備だと認識している」

 そしてシーズン始動とともに、ロティーナ・サッカーへの構築が始まった。公開された練習で見えてきたのは、緻密な戦術に向けたトレーニングだった。攻撃や守備の場面での立ち位置やタイミング、さらに体の向きなども含め通訳を介した指揮官からの細かな部分の指摘には、選手たちも当初戸惑いを見せていた。

「もちろん目指しているものは間違いないし、徐々に慣れてこれが普通になれば自然と体も動くようになると思うけど、今はどのタイミングで何をすればいいのか、すごく頭が疲れる」

 中堅選手からこんな言葉が聞かれるほど、当初は細かな指示に慣れない状況が続いたが、それでも選手たちは同時に手ごたえも口にし、攻守での改善が徐々に進んだ。

 見える形でロティーナ体制の可能性を示してくれたのが、今季開幕戦だった。苦手としてきた鹿島アントラーズ相手に、しかもアウェーの地で3-1と快勝したのだ。鹿島相手の勝利は6年ぶりだったが、アウェーの地での勝利は2012年以来9年ぶり。試合の主導権を握られ、20本のシュートを浴びながらも、要所を締めた勝利に選手たちは「この1勝は大きいが、ここから続けていくことが大事」と白星先行を誓ったが、理想には遠い厳しい現実が待ち構えていた。

 この勝利以降、第6節で5試合ぶりに柏レイソルから勝利したものの、第7節から9試合連続勝ちなしで降格圏ぎりぎりの16位まで後退。以後は13位まで浮上したのが最高で、終盤まで残留を争うことになった。

 この状況について、ある中堅選手はこんな指摘をした。

「監督の攻守でのやり方は明確だけど、そのやり方に縛られると自分の特長が出しにくくなると思う。試合や練習では監督の戦術を実践することが目的になってしまって、試合に勝つことや相手からボールを奪うことが目的になっていない感じがする」

 同じような指摘が他の選手からもあったが、チームをよく知る解説者も「選手たちの動きがスムーズさを欠いているように見える場面が多い。ちょっと窮屈そうにも見えるし、何が何でも勝ちたいというような気持ちの入ったプレーも少ない気がする」と指摘した。

 シーズンも終盤を迎えた時点での指摘だけに、緻密なサッカーへの浸透はややスムーズさを欠いていたようだが、勝ち点や勝利獲得まであと一歩という試合が多かったのも事実だった。

 プロは結果がすべてだ。

攻守両面で徐々に改善されつつも思うような結果が出ないまま、クラブがロティーナ監督を解任したのは、今季初の3連敗となった11月3日第34節FC東京戦後のことだった。0-4で大敗したことに加え、直近3試合連続で無得点となり、大熊清GMは「新たな変化と熱を入れたい」と、昨年も結果が出せなかったピーター・クラモフスキー監督(現J2山形監督)に代わって指揮を執った、クラブOBの平岡宏章監督が2年連続で新指揮官に就任した。

「アグレッシブさと躍動感という部分で、ロティーナ監督は慎重すぎたのではないか。残りは4試合しかないが、ここから勝利を引き寄せたい」と交代理由を説明した大熊GMに、平岡監督も「選手には犠牲心と一体感を求めたい。きれいなサッカーだけでは難しいと思うので、泥臭くてもいいから勝ち点3がとれるようなプレーを選手に期待したい」と残留への勝ち点の積み上げを強く誓った。

 そしてロティーナ監督の下で培ってきた緻密さをベースにしながらも、「より大胆にシンプルにゴールへ向かうことがあってもいいと思う」と、これまで以上にアグレッシブに闘う姿勢を選手に求めた。

 残り4試合で引き継いだ新指揮官の下、就任から中2日で臨んだ初戦の北海道コンサドーレ札幌戦こそ引き分けで勝ち点1の上乗せにとどまったが、そこから3戦全勝。2018年以来の3連勝で見事に残留へと導いた。平岡監督の持ち合わせた熱い思いが、選手たちにしっかりと伝授された瞬間だった。
 
 例年終盤まで苦しんできた清水に、いったい何が足りなかったのか、そして必要なものは何なのか。平岡監督が崖っぷちで導いた、4試合連続負けなしでの残留達成が示したものは何なのか。

 奇しくも、よりアグレッシブに逆転劇で自力残留を勝ち取ったホーム・アイスタでの最終戦後のセレモニーであいさつに立った主将のGK権田は、スタンドのファン、サポーターにこんな言葉を投げかけた。

「皆さんが今日、スタジアムで感じたこと、それが僕たちがここから進む道だと思っています。

 (今季)終盤はケガ人も多く、監督やクラブは使いたい選手が使えなかったかもしれない。ただサッカーの本質的な部分にこだわって、みんなで残留を決めることができました。絶対に諦めない姿勢、一人ひとりが仲間のために走ること、皆がチームのためにやる姿勢は、もっと評価してほしいプレーだと思っています」

 ロティーナ監督退任後に見せた選手たちの犠牲心と一体感、そしてアグレッシブに躍動感を持って闘う姿勢――。クラブが、そしてチームが来シーズン目指すべき方向性が見えてきたようだ。