山﨑武司インタビュー 後編

対決が嫌だった投手

(前編:2年目の佐藤輝明、同級生の清宮・安田などスラッガーを診断>>)

 中日、オリックス、楽天とセ・パ3球団を渡り歩き、2249試合出場、403本塁打を積み重ねた山﨑武司氏。27年間のプロ生活のなかで、数多の好敵手と対峙してきた。

そんな山﨑氏が思う好投手の条件、対戦して嫌だった5人の投手について聞いた。

山﨑武司が厳選した「対決が嫌だった」投手5人。野村克也監督に...の画像はこちら >>

同世代で活躍した松坂大輔(左)と杉内俊哉

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【5位:佐々木主浩(横浜、シアトルマリナーズ)】

"大魔神"は、とにかくあのフォーク。あれだけ落差があるボールは、プロ生活のなかでも他に見たことがなかった。普通の投手がフォークを投げた場合、バッターがスイングを始めようと思った段階で顔の高さにボールがきていたら、落ちきらなくてボール球になるんです。それが佐々木だと全部ストライクになるんですよ......。

 だからバッターは高めのボールも振らないといけないですし、低めにきたらワンバウンドになって空振り(笑)。
ストライクゾーンの上下の幅がすごく広く感じました。だから、球種がストレートかフォークの2種類でも、いろんな組み立てができるわけです。

 彼がホームランを打たれるのは、下位打線に気が抜けたようなストレートを投げた時、というイメージです。でも、主軸のバッターに対してはフォークばかり投げて全力で抑えにくる。だから聞くバッターによって印象が違うんじゃないでしょうか。僕の場合は、あのフォークの多投で強烈なインパクトが残っています。


【4位:新垣渚(ソフトバンク、ヤクルト)】

 佐々木のことを話したあとで今さらですが、今回は選ぶのが難しかったです。それほど、いい投手とたくさん対戦してきましたからね。斉藤和巳ダルビッシュ有、金子千尋も打てなかったし、西武の大沼幸二も嫌な投手だった。それでも"対戦が嫌だった投手"という意味では新垣の名前が挙がりますね。

 何が嫌って、ボールが"怖い"んですよ。彼のボールは荒れ球で、どこに来るかわからない。
プロのバッターはケガをしたくないから、そういう投手と対峙するとなかなか踏み込めないこともあるんです。本来、僕は「イチ、ニ、サン」でバットが振れるようなタイプのピッチャーは苦にしませんでしたが、新垣は別。ホームランを打った記憶もありますけど、デッドボールもあったはず。彼は決め球のスライダーもよかったですからね。球が速くて、荒れ球だけど、決め球がある投手は嫌ですよ。新垣の場合は、"恐怖心"という意味でも頭に残ってるかな。

【3位:斎藤雅樹(巨人)】

 斎藤さんの場合は何といってもスライダーです。大袈裟ではなく2回曲がるんですよ。斎藤藤さんと対峙するバッターは、よく外の"クソボール"を空振りしていたように見えたと思いますが、それだけあのスライダーが特殊なボールだったから。

 プロのバッターからすると、曲がりが大きい=打ちにくいとはならない。それよりも大事なのは質です。たとえば、曲がりが大きくても山なりに曲がるような球なら、軌道を感覚的に調節できる。

ただ、斎藤さんのスライダーは曲がり始めてから、もうひと段階クッと手元で大きく逃げていくんです。普通、バッターは第一段階の曲がりを見て打つポイントを判断しますから、さらにそこから曲がったら打てませんよね。そんなボールを打つ練習をしていないわけですから(笑)。佐々木のフォークもそうですが、すごくインパクトがあったボールでした。

【2位:松坂大輔(西武、レッドソックスなど)】

 大輔の場合は特定の球種がいいというよりは、すべてのボールがすごかった。スライダーやストレートがクローズアップされますが、他の変化球も一級品でしたね。
たとえば追い込まれた時に、待つボールを2種類に絞れるか、5つの球種を待たないといけないかでは、確率に大きな差が出ます。

 なかでも、僕が一番嫌だったのはフォーシームですね。大輔のフォーシームは他の投手と回転が違いました。普通の投手だと、「真っスラ」という言葉もあるように回転して(右打者から見ると)逃げていくことがあって、これはラクに対処できます。でも、大輔の場合は変な回転をして、ほどよく外へ逃げていくんです。しかも150キロオーバーでスピードもあるから対応できない。スライダーの曲がりもエグかったですね......。対戦している数自体は、次に紹介する1位の投手よりは少ないんですが、大輔も強烈な印象が残っている投手です。

【1位:杉内俊哉(ソフトバンク、巨人)】

 杉内は真っ先に思い浮かびました。正直、現役時代は顔を見るのも嫌で、まったく打てる気がしませんでした。楽天時代には、杉内が先発する試合前に、野村(克也)監督に「今日は外して下さい」と頼んだこともあります(笑)。それくらい打てなかった。チェンジアップの抜け球や、スライダーが浮いたボールといった失投くらいしか打てた記憶がありません。

 杉内はフォームに力感がないからか、差し込まれて振り遅れてしまう。急速表示は140キロ台半ばですが、こちらの体感的には常に150キロオーバー。あんなに優しい顔をして、ピッチングはガンガン内角をエグってきて強気でしたしね(笑)。

 変化球も、スライダーはアウトコースのボールゾーンから、インコースまで食い込んでくるキレがあった。あと、チェンジアップは全然"ボールが来ない"。ストレートと合わせて組み立てられると、お手上げでしたね。プロ生活のなかで「打席に立ちたくない」と思った投手は杉内だけです。