最終的にリーグ3位につけたものの、開幕9連敗でスタートするなど苦しい戦いが続いた今季の阪神。チームの立て直しと2005年以来のリーグ優勝を目指すため、15年ぶりに復帰した岡田彰布新監督にかかる期待は大きい。



 第一次岡田政権時(2004~2008年)、複数のポジションを守れる内野手として、リーグ優勝に貢献するなど主力として活躍した関本賢太郎氏に、現在の阪神の課題や、岡田監督に期待することなどを聞いた。

岡田彰布監督の采配を知る関本賢太郎が阪神の課題を語る。立て直...の画像はこちら >>

サードで固定させることを明言している佐藤輝明(右)の守備練習を見る岡田監督

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――今季もエラーの多さは改善されず、失策数は12球団ワーストの86個。一方、盗塁数(110個)はリーグ断トツで、防御率はリーグ唯一となる2点台など、いい部分もありました。現状、最も改善すべき課題はどのあたりになりますか?

関本賢太郎(以下:関本) やはり守備力ですね。判断の基準になるのは、甲子園という本拠地球場の特性です。セ・リーグの球場の中でも広くてホームランが出にくい球場なので、やはり守備をまず整備すべきだと思います。
「いかに失点を抑えるか」を追求していくためには、ピッチャーも当然ですが、確実にアウトを取れる内野手、広い外野でもしっかり守れる足の速い外野手を起用するなど、守れる選手が重要です。

――リリーフ陣の防御率が2.39でありながら、彼らの勝敗数を合計すると14勝23敗。これは終盤にエラーが多いことを示唆している?

関本 それについては、7回以降の得点数が関わってくるのではないかと。もし逆転する力があれば、リリーフ陣に負けはつかないわけですから。得点力を一番期待していた外国人助っ人たちが不振だったことも痛かったです。

(ジェリー・)サンズが抜けたところで、(ジェフリー・)マルテと(メル・)ロハス・ジュニアに期待していましたが、2人のホームランを足しても10本(マルテ1本、ロハス・ジュニア9本)。
ヤクルトで8番を務めていた長岡秀樹選手(9本)とほとんど変わらないわけですから。

令和版のJFKが作られる?

――開幕からつまずいた主な理由として考えられることは?

関本 (カイル・)ケラーはコロナ禍で来日が遅れていて調整不足でした。それでもクローザーはケラーでいくという感じでしたし、調子というよりもプランを優先したところがあったと思います。岩崎優投手もキャンプで出遅れていて決して万全ではありませんでしたし......。リリーフ陣を臨機応変に適材適所で起用していくことが、シーズン当初はできていなかったのかなと思います。

 岡田監督が(第一次政権の時に)作ったJFK(ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之)の影響もあって、阪神は2003年ぐらいから「終盤の7、8、9回はそれぞれ決まったピッチャーが投げる」という流れがありました。ですが、コロナ禍が始まった頃あたりから、NPB全体では「勝ちパターンは3人では回らない」という流れになってきていますよね。



 今年優勝したオリックスにしてもヤクルトにしても、3人だけではなく5、6人ぐらいのリリーフ投手で3イニングをつないでいます。1試合ですべてのリリーフ投手を使うわけではなく、状況に合わせて臨機応変に起用し、2人ぐらいは残しておくというスタイルにちょっとずつ変わってきています。

――岡田監督はJFKのように、勝ちパターンのリリーフ陣の形を作っていく?

関本 作っていくと思いますが、先ほども話したように3人ではなく、5、6人で整備していくでしょう。リリーフのピッチャーはベンチに6人入るのですが、当時は勝ちパターンで登板させるのが3人、ビハインドの展開が3人というように分けていました。来年はおそらく6人のうちのひとりぐらいをロングリリーフ要員にして、残りの5人でやり繰りするんだろうと予想しています。

――7、8、9回、それぞれの回に登板させるピッチャーを固定する必要はないということでしょうか。


関本 固定するとすれば、9回の湯浅京己投手だけ。例えばヤクルト戦の場合、村上宗隆選手に打席が回るのが7回なのか8回なのかで岩崎投手の出しどころが変わってくるので、そこは固める必要はないんじゃないかなと。9回の湯浅につなぐために、残りのピッチャーをどうやりくりするかだと思います。

――岡田監督はそのあたりのやり繰りに長けている?

関本 長けていますね。ただ、1年間を5、6人で回すことは不可能ですし、二軍との入れ替えもあります。もしかしたら、岩崎投手が離脱することだって考えられる。

3連投するピッチャーもいれば、中2日空いているピッチャーもいたりするでしょうし、誰かを休ませないといけない日もある......そういうことを考えると、何がなんでも7回がこのピッチャー、8回がこのピッチャーみたいにしてしまうと、いずれ歪みが生じてくるんです。

 阪神のリリーフ陣は、リードしている展開でもビハインドの展開でも投げるピッチャーの力量がそんなに変わらない。そういうことも含めて、固めないでいくんじゃないかと見ています。

大山、佐藤はポジション・打順を固定で

――岡田監督は外から阪神の試合を長く見てきて、チームの課題、その解決の道筋も見えていそうですね。

関本 その最たる部分として、岡田監督は大山悠輔選手のファースト、佐藤輝明選手のサード固定という方針を早くから明言していましたね。ただ、固定といっても「レギュラーとして安泰」という意味ではなく、打たなかったらバサッといかれると思うので、プレッシャーも大きいでしょうね。

 あと、大山選手も佐藤選手もクリーンナップでの起用を示唆していますが、守備のポジションを固定するということは、守備に対する不安要素を取り除いて、打撃に集中させる意図もあると思います。



――第一次岡田政権の頃も多くの選手がポジションを固定されていました。複数ポジションを守っていたユーティリティープレーヤーは関本さんぐらいだったかと記憶しています。

関本 そういう選手は絶対に必要です。ただ、主軸の選手の場合は話が違う。当時でいえば金本知憲さんや今岡真訪さんが毎日打順もポジションも違ったら、チームがグラついてしまいます。主軸の選手が不安を抱いていた場合も、それが他の選手に波及してしまうのは避けたいところです。

――今年、大山選手がファーストやサード、レフト、ライト。佐藤選手がファーストやサード、ライトと複数ポジションを守っていたことについてはどう見ていましたか?

関本 気にはなっていました。ただ、そうしなければチームが回らなかったこともわかっています。言い換えれば、それぐらい他の選手が頼りなかったということ。本当はポジションを動かしたくなかったはずですが、外国人助っ人が計算したポジション、打順で機能しないからそうなってしまったんだと思います。

――中野拓夢選手のセカンドへのコンバートや、日本ハムとのトレードにより渡邉諒選手を獲得するなど、二遊間へのテコ入れも進んでいます。

関本 開幕までには固めるでしょうけど、それがシーズン通して続くとは思っていません。何人かに二遊間を守らせて、当然入れ替えもあると思いますし、夏場ぐらいに「気づいたら固まっていた」という感じになるんじゃないかと。

投打で期待の若手は?

――ショートの候補である木浪聖也選手や小幡竜平選手はどう見ていますか?

関本 小幡選手に関してはレギュラーを獲るチャンスですし、逆に「来年を逃したらもうチャンスがないかもしれない」という覚悟はあると思います。木浪選手は1度レギュラーから外されている立場ということで、期するものは当然あるでしょう。

 ただ、打線には左バッターが多いので、右バッターのほうが有利だと思います。渡邉選手だったり、ドラフトでも右バッターを指名していますが、「同じ守備力だったら右バッターが試合に出るだろう」というのは内野手全員がわかっているはず。そこに関してはすごく敏感になっていると思います。

 あと、左ピッチャー王国のDeNA戦の対戦成績をよくしていかないといけませんし、中日の大野雄大投手をはじめ、要所要所でやはり左ピッチャーに抑えられてきているという意味からも右バッターが重要です。

――右バッターといえば、ドラフト1位の森下翔太選手も注目です。

関本 振る力があって、パンチ力もあります。大山選手や佐藤選手の前後の打順に入って、打点を稼いでくれるようなバッターになってくれたらいいなと思っています。大きな期待をしすぎかもしれませんが、期待したくなりますよね。

――来季の阪神で投打のキーマンを挙げるとすれば?

関本 投げるほうでは西純矢投手と才木浩人投手。このあたりの若手ピッチャーがいかに貯金できるかが、チームの勝敗数を大きく左右すると考えています。

 打つほうは梅野隆太郎選手です。優勝しているチームはキャッチャーがそれなりに打っていますし、もし梅野選手が7番を打ってくれたら8番に若い選手を使える。逆に梅野選手の打撃の状態が上がらず、不動の8番でいられてしまうと、やはり若い選手は6番や7番では使いにくい。今季は打撃が低調でしたが、打率.250、50打点ぐらいの成績を残してくれると助かりますね。

――若い選手に8番を打たせるというのは、プレッシャーを考えてですか?

関本 実績がなくてバッティングはまだまだだけど、とりあえず守りはできる選手を8番で使えることは、チームにとってかなりプラスの影響があります。とりあえず8番でデビューして、力がついてきたら羽ばたいてもらうのが理想。ヤクルトの長岡選手がいい例です。ヤクルトはキャッチャーの中村悠平選手が打ってくれるから、長岡が8番で使えるんですよね。

 守備も打力も両方整わないと一軍のレギュラーになれないというのは難しいこと。梅野選手がある程度打ってくれれば、優勝にも近づくし、若手の底上げにもつながるんです。そういった意味合いから、梅野選手はキーマンのひとりだと思います。

 来季、岡田監督がどんな選手起用、采配を見せてくれるか期待しています。

【プロフィール】
関本賢太郎(せきもと・けんたろう)

1978年8月26日生まれ、奈良県出身。天理高校3年時に夏の甲子園大会に出場。1996年のドラフト2位で阪神タイガースに指名され、4年目の2000年に1軍初出場。2004年には2番打者として定着し、打率.316の高打率を記録した。2007年には804連続守備機会無失策のセ・リーグ新記録を樹立。2010年以降は勝負強さを買われ代打の神様として勝負所で起用される。2015年限りで現役を引退後、解説者などで活躍している。通算1272試合に出場、807安打、48本塁打、312打点。