坂本花織「人が変わったかのように新しい風が吹いた」。全日本選...の画像はこちら >>

全日本選手権ショートプログラム、ノーミスの演技で首位発進した坂本花織

 今季の前半戦を締めくくる全日本選手権が22日、大阪府門真市の東和薬品ラクタブドームで開幕した。女子は昨季の世界女王、坂本花織がノーミス演技の77.79点で首位発進。
大会連覇に向けて好スタートを切った。国際スケート連盟(ISU)非公認ながら、今季のショートプログラム(SP)世界最高得点となる高得点を出した。

「今シーズンのなかで一番自信を持って挑めた大会で、ノーミス演技ができ、課題にしていたステップやスピンでもやっとレベル4に届きましたし、ジャンプも決まったので、自分的には今日は結構、よかったんじゃないかなと思います」

 総合5位に終わったグランプリ(GP)ファイナルから帰国後は、その悔しさを払拭するべく、走り込みなどで体力強化を敢行。しっかり気持ちを切り替え、自分自身を見つめ直して取り組んだ練習で、自信をつけて乗り込んだ全日本選手権だった。

「練習の成果を発揮できた。これと言ったといった理由はないんですけど、イタリアから帰ってきてから、自分的に何かが吹っ切れた感覚になって、すごく前向きな気持ちが生まれていました。

本当に人が変わったかのようにすごい新しい風が吹いたという感じだったので、それが来たならそれに乗るしかないと思って、(帰国して全日本まで)1週間しかない練習を精いっぱい頑張ることができたので、充実していました」

 この日のSP『ジャネット・ジャクソンメドレー』では、本来のスピード感あるスケーティングも復調しており、失速しないでジャンプを跳ぶことができていた。出来栄え(GOE)加点で1.41点がついた冒頭のダブルアクセル(2回転半ジャンプ)から豪快なジャンプを見せると波に乗り、不明瞭なエッジ判定がついたものの3回転ルッツも決めて、基礎点に1.1倍がつく後半の3回転フリップ+3回転トーループも2点近いGOE加点がついた。ステップも3つのスピンもすべてレベル4判定となり、演技後の笑顔がほぼ完璧な演技ができたことを物語っていた。

【復活したチャレンジャー精神】

「今日は最後まで集中力を切らさずにできたので、久しぶりにいい試合だったなという感じでした。ジャンプも思いきり、跳び上がる踏み込みがこの1週間できるようになっていたので、それで勢いよく跳ぶことができたんじゃないかなと思います。走り込みを2日やったあとくらいには心肺機能的に余裕が出てきて、呼吸が落ち着いていると脚がしんどくても落ち着いてできる。

それが日に日によくなってきていたので、だんだん不安がなくなって試合でできたのかなと思います」

 世界女王として臨んだ今季は、知らず知らずのうちに自分にプレッシャーをかけていたが、ここまでの戦いやGPファイナルでの敗戦に、チャレンジャー精神が復活したようだ。

「ファイナルから帰ってきて、早く全日本がしたいみたいな感じで、試合に対して意欲的になっていた。昨年の大会みたいな前向きな自分になっていて、人が変わったというか、今までの自分に戻れたなという感覚で、試合が楽しみな気持ちもよみがえってきたので、練習も楽しかったです(笑)」

 24日のフリーに向けては、プログラム後半でのジャンプミスが目立っていた課題をクリアして、ジャンプをしっかり決めることを目標に掲げ、自分の本来のスケートを取り戻すと意気込む。そして「やるで! やる気満々やで!」と、力強く宣言した。
 
 その坂本を追うのは、同門の先輩で12月のGPファイナル女王の三原舞依。首位とは3.09点差の74.70点で2位につけた。

SP『戦場のメリークリスマス』の厳かな旋律に乗った優美な演技で観客を魅了。冒頭のダブルアクセルを鮮やかに決めると、3回転フリップ、ルッツ+トーループの連続3回転ジャンプも成功させて、全てのジャンプでGOE加点がついた。3つのスピンとステップはすべてレベル4判定となり、ノーミス演技でガッツポーズも飛び出した会心の出来だった。

「最初の音が鳴ってから、今までの人生をしっかりと込めて、最後の最後まで意識したいところをひとつひとつ振り返って考えて滑れたので、すごくよかったなと思います。全日本のショートを最後の音まで滑りきることができたのは、先生方、家族、友達、会場に来てくださったお客様がいなかったらここまで来られていないので、感謝の気持ちでいっぱいです」

【14歳の島田麻央、全日本選手権デビュー】

 いつもどおり、周囲への感謝を忘れなかった三原。地元関西での「凱旋」となる全日本は格別の思いを秘めて臨んでいる。

逆転優勝も視界に捉える絶好のチャンスだが、「順位は気にしない」と平静さを見せつつ、気合いの入った顔つきは隠せなかった。

「フリーでは、今日(のSP)とはガラッと違った雰囲気で、強い女性の真っ赤な演技をしたいなと思っています。今シーズンいままで滑ってきた試合のなかでも、最高なフリーをしたいなと思っているので、しっかりケアをしてコンディションを整えて臨めるようにしたいなと思っています。そして試合では、思いきって悔いなく終えることができるようなプログラムにしたいです」

 この日のSPでは、トップシニア勢に負けず劣らず、可憐な演技で魅せたジュニア勢が躍進した。17歳の千葉百音が71.06点の3位となり、4位には70.28点で14歳の島田麻央が食い込んだ。なかでも先日のジュニアGPファイナルで初優勝した島田は、今年の全日本ジュニア選手権を制し、推薦出場で全日本初出場となった逸材。

全日本デビューとなった次世代の有望株は試合後、初々しい小さな声でこう振り返った。

「緊張したなかでもいい演技ができ、いい得点をいただけたことはすごく嬉しいです。絶対やりきる気持ちがありました。少し緊張してスピード感はあまり出せなかったかなと思いましたけど、緊張したなかでまとめることができたのはよかったかなと思います」

 SPでは『ライオンキング』の壮大な曲に乗って、キレのあるジャンプと軽快な動きで華やいだ演技を見せた。冒頭の3回転フリップを決めるなど全てのジャンプでGOE加点がつき、ポジションが美しい得意の高速スピンで観客から大きな拍手をもらうなど、会心のノーミス演技だった。出場した29選手中、技術点の41.21点は全体トップ。

ISU非公認ながら、自己ベストの71.49点に迫る得点を出した。

「最後のポーズを取るまで緊張していましたが、この大きな舞台でショートが70点を超えたことは自分でもいい手応えになったかなと思います」

 首位の坂本に7.51点差だが、フリーで跳ぶ予定の4回転トーループとトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の大技ジャンプを成功させれば、表彰台、さらには逆転優勝も視野に入ってくる。

「フリーはショートよりもっと楽しくやりたいです。今季は挑戦すると決めたシーズンなので、今年最後の大会も挑戦する姿を見てもらいたいです。フリーは楽しみな部分もあるんですけど、レベルが違いすぎるので不安もあります。それでも、ジャンプだけじゃなくて、スピンも重点的に練習してきたので、逃げずに挑戦する姿を見てもらいたいです」

 一方、優勝候補のひとりでGPファイナル4位の渡辺倫果は、武器のトリプルアクセルが不発でジャンプミスを連発して18位と大きく出遅れた。悔し涙を流しながら「めちゃめちゃ気負いがあった」と、空回りした演技を振り返った。また、8年連続出場の本田真凜は、3回転フリップで転倒するなどで得点が伸び悩み26位と低迷。思い入れの強い全日本の舞台だったが、今年はフリーに進むことができなかった。

 女子フリーは24日夕方17時から行なわれる。