激闘来たる!カタールW杯特集
稲本潤一が語るカタールW杯(前編)

 カタールワールドカップで世界から称賛された森保ジャパンの活躍を、日本代表OBはどのように感じたのだろうか。20年前の日韓ワールドカップで衝撃的な2ゴールを記録し、同じように"時の人"となった稲本潤一選手(43歳/南葛SC)に、"後輩"たちのプレーについて聞いた。

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「柴崎を使ってほしかった」「守田と田中の能力ならもっとやれる...の画像はこちら >>

柴崎岳がカタールのピッチに立つことはなかった

── 残念ながらベスト8進出はなりませんでしたが、今大会の日本代表の戦いぶりを稲本選手はどのように評価していますか?

「難しいグループに入りながら、下馬評を覆してスペインとドイツに勝ったことは、すごく評価できると思います。2位通過でさえ厳しいと見られていたなかで、1位通過ですからね。グループリーグに関しては理想的だったと思います」

── 目標を達成できなかったなかでも、よくやったという見解ですか?

「そうですね。ワールドカップの優勝経験のあるチームに、あの舞台で2回も勝つというのはなかなかできないこと。そこはすごく評価できることですし、あのグループのなかで本当に価値のある結果を出したと感じます」

── 戦い方についてはどうでしょうか。守ってカウンターという戦略には、批判的な声もありました。

「まず、ドイツ相手に勝ったことが大きかったと思います。あそこで戦い方がある程度、確立されたんでしょう。もうちょっと前から行っていたら、また結果は違ったかもしれないですから。

 今回のチームに関しては、あの戦い方が合っていたと思います。過去の日本代表があのやり方で勝てたかどうかと言えば、難しかったはず。今の代表のメンバーだからこそ機能した戦術だったと思います。

 ただ、日本のレベルが上がっていると感じる一方で、これから先につなげていくためには、もっともっとやれることがあったんじゃないか。それは戦った選手たちが一番実感しているはずです」

── いい流れできていたなかで、今回もベスト8にたどり着くことはできませんでした。その壁を越えるために、何が必要だったと思いますか。

「僕なりのいち意見にすぎないですが、いろんな戦い方ができるチームではなかった、ということですね。ドイツとスペインに勝った戦い方をクロアチアの時にもやっていたと思うんですけど、前半のうちに先制点を取ったことで逆に難しくなってしまった。

 クロアチアが細かくつなぐことを捨てて、長いボールやクロスを多用するようになった。

日本にとって嫌なやり方に変えてきたことで、相手の流れになってしまいましたね。

 そこで日本にも別のやり方があればよかったんですが、変化をつけられなかった。そういう意味では、プレーの幅であったり、戦術の幅というのが足りないなと、純粋に日本の勝利を願う立場から見ていて感じましたね」

── 敗れたコスタリカ戦でも、ボールを持った時にどうやって崩していくか、というところが課題として浮かび上がりました。

「やろうと思えばやれると思うんですけど、勇気であったり、やろうという姿勢があまり見られなかったなと。どうしてもリスクの少ないほうを選んでしまったイメージがあります。前につければいい場面でも、横パスに逃げていたシーンもありました。

そこは意識として変えていかなければいけないと思います。

 やっぱり、5-4-1のブロックを敷けば、どんな相手でもある程度、守ることはできます。そこからどうやって自分たちの時間を長くしていくかと、いうところは、改善していく必要があるでしょうし、これから日本サッカーがもっともっと取り組んでいかなければいけないところだと思います」

── 今回のインタビューでは、稲本選手と同じボランチの選手について深堀りできればと考えています。今大会では、遠藤航選手(シュツットガルト)、守田英正選手(スポルティング)、田中碧選手(デュッセルドルフ)の3人がボランチとしてピッチに立ちましたが、それぞれのパフォーマンスはどのように映りましたか?

「遠藤選手に関しては、大会を通じてすごくパフォーマンスはよかったですし、自分の特長を出せていたと思います。特にディフェンスの部分に関しては、ドイツでやっているふだん通りのプレーができたんじゃないでしょうか。

 逆に守田選手と田中選手は、最近のヨーロッパでのプレーをしっかりと観ているわけではないですけど、フロンターレの時やアジア予選の時はもっと前にパスを当てていたし、間、間でボールを受けて、そこでさばいたり、ターンをして前を向くというイメージだったんですが、そういうプレーはあまり見られませんでした。

 ふたりとも初めてのワールドカップなので、これまでとは違うプレッシャーがあったと思いますし、戦術の問題もあったと思います。ただ、ふたりの能力を考えれば、特に攻撃の部分で期待が大きかったので、もっとやれることはあったのかなと感じました」

── 守備的な戦略のなかで、ふたりの持ち味が埋没してしまった印象です。

「たしかに難しかったと思いますよ。ドイツとスペインに勝った以外の戦い方がなかったわけですから。コスタリカ戦が象徴的でしたよね。そこで違う引き出しがあれば、彼らのパフォーマンスも違ったはず。

その引き出しが日本にはなくて、クロアチアにはあった。その差はすごく大きいのかなと感じます」

── たとえばボランチの意識や動きで、流れを変えられることはできるのでしょうか。

「もちろん攻撃の意識が高ければ、縦につけるパスも増えるだろうし、相手の嫌なところに入ったり、ディフェンスラインと中盤のラインの間でボールを受ける機会も増えるはず。ボランチだけではなく中盤の選手も含め、彼らがより前を向いて、前にパスが出せるかどうかというのは、意識次第で変わってきますし、改善はできる部分だと思います。

 ただ、彼らだけではなく、周りの意識も変わらないと、それは難しい。チームとしてそういう意識を持つことが必要だったと思います」

── 今回のやり方では、難しかったわけですね。

「遠藤選手もディフェンスでは貢献しているけど、縦パスを出すところでは物足りなかったですし、守田選手もフロンターレでやれていたようなことが、そこまでできていなかった。でも、仮にヤット(遠藤保仁)や(中村)憲剛がいたとしても、難しかったと思いますよ。本人だけの責任ではないですし、チームとしてどう戦うかというところですから」

── 前回大会では活躍した柴崎岳選手(レガネス)がピッチに立てなかったのも、守備的な戦いを選択したことが影響しているわけですね。

「まずはディフェンスありきだったと思うので、ハードワークできる選手の優先順位が高くなったことは間違いないでしょう。『いい守備からいい攻撃』という戦い方をイメージすれば、柴崎選手を使うのは難しかったのかなと。ただ、個人的には使ってほしかったですね。特にコスタリカ戦では、柴崎選手のようなタイプが必要だったと思いますから」

◆稲本潤一・後編に続く>>「鎌田大地のボランチ起用は?」「4年後に期待できる若手は?」


【profile】
稲本潤一(いなもと・じゅんいち)
1979年9月18日生まれ、大阪府堺市出身。1997年、ガンバ大阪の下部組織からトップチームに昇格し、当時最年少の17歳6カ月でJリーグ初出場を果たす。2001年のアーセナル移籍を皮切りにヨーロッパで9年間プレーしたのち、2010年に川崎フロンターレに加入。その後、北海道コンサドーレ札幌→SC相模原を経て、2022年より関東サッカーリーグ1部・南葛SCに所属する。日本代表として2000年から2010年まで82試合に出場。ポジション=MF。181cm、77kg。