3月開催の「2023ワールド・ベースボール・クラシックWBC)」に向け、1月6日に記者会見が行なわれ、侍ジャパン栗山英樹監督が1次メンバーを先行で発表した。事前に参加を表明していた大谷翔平エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)、鈴木誠也カブス)のメジャー組に加え、山本由伸(オリックス)、今永昇太(DeNA)、戸郷翔征(巨人)、佐々木朗希(ロッテ)、甲斐拓也(ソフトバンク)、近藤健介(ソフトバンク)、源田壮亮(西武)、牧秀悟(DeNA)、村上宗隆(ヤクルト)の国内組9人の計12人が選出された。

 さらに、メジャー移籍のため代表を辞退すると見られていた吉田正尚(レッドソックス)や日本人の母を持つカージナルスのラーズ・ヌートバーの参戦も噂されており、過去に例のない超強力打線が完成する可能性がある。

 こうなると関心は「誰が4番に入るのか?」ということだ。もともと栗山監督は「ムネ(村上)はジャパンの4番」と公言してきたが、鈴木、吉田らが入ってくるとなると状況は変わる。そもそも侍ジャパンの4番は、村上にもっとも適した打順なのだろうか。ヤクルト、近鉄などで打撃コーチとして多くの一流打者を育ててきた伊勢孝夫氏の見解はこうだ。

侍ジャパン史上最強打線の4番は村上宗隆で正解か? 伊勢孝夫が...の画像はこちら >>

昨シーズン、史上最年少で三冠王を達成した村上宗隆

【代表の4番という重み】

 結論から言うと、村上の4番起用には善し悪しがつくと思う。昨シーズン、ヤクルトを連覇に導いただけでなく、三冠王に輝くなど名実ともに日本を代表する打者となった。

その彼がアメリカなど列強国と対戦する国際大会で4番に座ることは、戦略的な意味合い以上の重みがある。

 ただ村上には、どうしても気になることがある。昨季終盤、ホームランがピタリと止まった時期があったことだ(※)。本人は「目標を王貞治さんの55本に置き、それを達成してしまい無意識に気が緩んでしまった」と、その理由を述べていたが、わかっていても修正できなくなってしまうのが打撃の難しいところであり、怖さである。
※9月13日の巨人戦で54、55号を打ったのち、最終戦まで14試合本塁打なし

 最終戦で日本人選手シーズン最多本塁打記録となる56号を放ったが、日本シリーズではオリックス投手陣の前に封じられた。ただそのあとに行なわれた11月の強化試合(豪州戦)でのホームランは、復調しているように感じられた。

しかしWBC本番で昨年とは別の緊張感で4番に座った時、豪州戦と同じようにシャープなスイングができるのかどうか、いささか不安なのだ。

 代表合宿の日程は2月17日からのスタートで、本番は3月9日から。例年ならオープン戦の最中で調整はしているだろうが、決して仕上がっている時期ではない。

 村上の持ち味は、言うまでもなく長打だ。だが長打が出なければ、焦りが生じてくる。さらにホームランを求めれば求めるほど、フォームも崩れる。

それでなくとも国際大会は連日相手国が変わり、初めて対戦する投手ばかり。タイミングも軌道もわからないまま戦わなければならない。

 考えすぎかもしれないが、一発勝負の国際大会は"万が一"を頭に入れておかなければならない。そのあたり栗山監督も口には出していないが、想定はしていることだろう。

 能力だけを考えれば、村上の4番に異論はないだろうが、そのような状態に陥ったとしたら、必然的に打順を変える必要が出てくる。その時にどこまで我慢し、決断するのかタイミングが難しい。

これは村上だけに限った話ではないが、4番打者ともなれば、ほかの選手以上に重大な選択になってくる。

【勝つための打順は?】

 あくまで個人的な考えだが、たとえば4番には東京五輪で経験のある鈴木誠也を置き、村上を3番か5番、もしくは6番あたりで使ったほうが打線としての厚みが増し、村上も自身のバッティングに集中できるのではないだろうか。

 村上にも"三冠王"の自負はあるだろうが、栗山監督は常に「勝つことを最優先に考える」といった趣旨の発言を繰り返している。勝つための最善の策が"村上以外の4番"だったとしても、誰も責めはしないだろう。

 その村上に関してだが、2月17日の合宿開始から10日くらい経った頃、ちょうど合宿の打ち上げあたりでバッティングの状態が見えてくるはずだ。好調のバロメーターは、レフトからセンター方向に強い打球がいくスイングができているかどうか。

このスイングが見られれば、私の心配も杞憂で終わるのだが、逆に苦戦しているようだと黄信号点滅といった感じだろうか......。

 これまで国際大会での日本の打者は、 "スロースターター"が多いと言われてきた。初戦、2戦目など大会序盤はなかなか調子が上がらず、慣れてきた準々決勝あたりからようやく本来のバッティングになる傾向が強かった。その原因は諸説あるが、やはり時期の問題が大きいと思っている。

 前述したように3月初旬から中盤は、まだ打者は仕上げの時期ではない。近年は無理やり調子を大会に合わせられる選手も出てきているが、容易なことではない。

村上ならずとも他の打者がどれだけ大会に照準を合わせられるのかは、勝ち上がっていくうえで重要な要素になる。

 合宿期間中はなかなか生きた球を打つ機会は少ない。3月頭には中日や阪神などとの練習試合が組まれているようだが、この時期、エース格の投手は投げないだろうから、打てたとしても参考にしにくい。

 それに他国の投手は、日本人と投げ方が異なり、タイミングの取り方が難しい。このあたり、侍ジャパンの首脳陣がどう合宿でサポートしていくのか。いずれにしても国際大会は経験がものを言う。村上がこうしたハードルをいかにして乗り越えていくのか注目したい。