フットサル日本代表 金山友紀引退インタビュー 前編

後編「稀有な選手キャリア」>>

元フットサル日本代表の金山友紀が、45歳となった今シーズン限りで現役引退を発表した。ゴール前に体ごと突っ込むようにボールを押し込む「ファー詰め」という得点パターンでゴールを量産。

そのスタイルが代名詞となった人気選手だ。

得点パターンわずか2種類でゴール量産の45歳Fリーガーが引退...の画像はこちら >>

2008年にブラジルで行なわれたフットサルワールドカップに出場した時の金山友紀

【「ファー詰め」が代名詞に】

「ファー詰め」という言葉をご存知だろうか。

 サイドからゴール前に送られてくるパスに対して、逆サイドのポストの前、いわゆるファーポストの前に詰めておいて、来たボールをゴールに送り込むフットサルのプレーを指す言葉だ。

 今シーズン限りで現役引退を表明した、Fリーグのペスカドーラ町田所属、元フットサル日本代表FP(フィールドプレーヤー)金山友紀の代名詞的プレーである。

 金山は身長163cm、体重61kg。サッカーほど体格が問われないフットサルでも、非常に小柄だ。しかし、爆発的なスピードを持つ金山は、このハンディになるようにも思える体型をも生かし、45歳という年齢までプレースタイルを変えることなく日本のトップリーグであるFリーグのディビジョン1で戦い続けてきた。

「そんなにパワーがあるわけではないし、そんなに技術が高いわけでもない。そのなかで自分がどういうプレーができるかというと、相手の嫌がるところに入っていくこと。そして、それをひたすら繰り返すこと。それが大事だなと思っていました」

 行きついたプレーの一つが「ファー詰め」だった。

「フットサルのゴールは横3m、高さ2mとすごく狭いけど、そのゴールを広く使えるのがファー詰めです。自分がゴール前に入ることで、速いパスに合わせるだけでなく、味方の打ったシュートが流れてきて自分に当たってゴールに入ったり、自分の動きに相手GKが引っ張られてニアサイドが空いたり。

そういうサポートや手助けができる役割ができれば、ゴールが決まる確率や回数が増えると思っていました」

 相手はファー詰めをされると嫌がるが、ファー詰めをやるほうにもデメリットがある。相手のゴール前まで走り込めば、守備に切り替える時は、自陣に戻る際に走る距離が長くなり、戻りも遅くなるのだ。

「ただ、それは逆の発想」と金山は言い、「20mダッシュしてゴール前まで行ったら、20m戻ればいいだけ。スプリントを繰り返してチームを助けるプレーができたらいいし、そのために準備をしてきました」と、45歳は涼しい顔で言う。

【ほとんどがワンタッチゴール】

 もう一つ、金山が得意としていたのが、味方GKからのロングスローを相手ゴール前で触り、コースを変えてゴールに決めるプレーだった。

「僕が常に狙っていたのは、味方のGKがボールをキャッチするだろうなと思った瞬間です。その瞬間に、自分たちの攻撃に向けて動き出すようにしていました。

GKのスローから点が取れるなら、それが一番効果的だと思っていたんです。そういう常に目の離せないところがフットサルの魅力だと思うし、常に目の離せない選手でありたいというのは自分のなかにはありました」

 Fリーグが開幕したのは2007年だ。この時、すでに30歳だった金山は、ここから40歳となる2018シーズンまで、実に11シーズンに渡ってこのプレースタイルで二桁のゴールを挙げ続けた。

 歴代で10位となるリーグ通算164得点を挙げているが、「僕のゴールの大部分は、GKのスローからとファー詰め。ほとんどがワンタッチゴールだと思います」と言い、「だから決して自分の力だけじゃないことは、自分のなかでもわかっている。そのパスがあってのゴールだから、『ここにいるから(ボールを)出してほしい』という要求は、すごく話してきました。

それは試合に出る人、出ない人、関係なく言っていました」と語った。

 パスの出し手と自分の連携面を突き詰めるのはもちろん重要なことだが、金山がわざわざチーム全員にもそうした話をしてきたのには、別の狙いがあった。

「その(ファー詰めの)景色を共有したかったんです。自分がいるからやるのではなく、自分がいなくなった時にも『でも、そこに行ったら点が入るよね』というイメージを、ボールの出し手が持てるようにしたかった。『こんなに簡単に点を取れる方法があるんだよ』っていうのを伝えていくことができるんじゃないかなと思っていました。

 フットサルは、そこでの得点がすごく多い。

でも、ゴール前に入って行く選手がいなければ、そんなイメージも持てない。逆にボールを出せなくても、ゴール前に入って行く選手がいれば、『今出せばゴールになった』と、その人のなかには残っていく」

 というわけで、金山は練習の時から、自分がゴール前に走り込むべき時は、その動きを怠らなかった。そして、ボールが出てこなかった時も、ファー詰めをする自分の姿が見えていたかをパスの出し手に必ず確認したという。

【スライディングでパンツが溶ける】

 その甲斐もあり、最近では「見えていた?」と聞く前に、若い選手から「友紀さん、見えていました!」という声が出るようになったと、金山は目を細める。

「僕がファーポストのところに、サーって滑り込んで、その動きにGKがつられたのを見逃さずに、ニアサイドにシュートを決めた選手がいたんです。1カ月前の練習で、彼に『ファーを見ておけ』『見えていたか?』と聞いていたんですが、今日は逆にシュートを決めた彼から『見えていました!』って言ってきた。そうやって見ることで、選択肢も増えると思うし、得点にもつながると思います。

逆に僕が引退してから、同じような状況になった時にファー詰めする選手がいなかったら、ボールを持った選手から『あそこまで入れ!』と要求する声が出ると思う。そうなっていけば、嬉しいですね」

 職人芸と言える金山の「ファー詰め」だが、独特な悩みがあった。ファーポスト際にスライディングをすることも多いが、その際に地面と擦れるためにパンツは溶けて、シューズも傷むのだ。

「シューズはまずアウトサイドが溶けるんですよ。あとはソックスのくるぶしのところ、短パンの左側がだいたい溶けますね。みんなには『GK以外でパンツが溶ける人いない』って言われるんですけどね」

 ゴール前にスライディングをすると、速いボールを足先の点で合わせることをイメージしがちだ。ところが、実際は面を作るイメージなのだという。

得点パターンわずか2種類でゴール量産の45歳Fリーガーが引退 フットサル界稀代のワンタッチゴーラーにその極意を聞いてきた

金山友紀が得意としていた「ファー詰め」のかたちのゴールシーン

「スライディングする時は、足を畳んでやりますね。野球のスライディングに似ています。右からのボールに対しても、左足を畳んで右足で行くことが多いですね。しかも、畳みながら体を伸ばして面を作る。それでファーポストに滑りこんで、ボールが来た時は、自分の体ごとボールをゴールに流し込むんです。面を作っておいて、右足を伸ばして体に当ててそのまま流し込む。そのタイミングで滑りますね。シューズは1カ月くらい持ちますが、短パンは一発で溶けます」

 選手たちに支給される短パンは、シーズンを通じて二着のみ。通常、選手たちは前半に一枚、後半に一枚履くのだという。金山はパンツに穴が開いた場合、「入場の時に穴が開いていると恥ずかしいから」とそのパンツを後半用にするのだという。

【全日本フットサル選手権が最後の舞台】

 金山がチームメイトたちと連携を高め、パンツやソックスに数々の穴を開けてまで磨き上げてきた「ファー詰め」を見ることができるのも、あとわずかだ。

 3月11日に開幕する第28回全日本フットサル選手権が、金山の現役最後の舞台となる。

「毎年、毎年、『勝負の年』と位置づけてやってきましたが、40歳を超えてから2桁得点を取れなくなったのは、一つの指標になりました。二桁取れているうちは、現役でやろうと思っていたなかで、12年目のシーズンに取れなくて、あと1年だなと思っていたんです」

 しかし、そのタイミングでチームはスペイン人のルイス・ベルナット監督が就任する。「スペイン人監督のもとでプレーしてみたい」という思いもあり、現役を続行していった結果、16シーズン目を迎えていた。

 今シーズンもコンディションはよかったが、シーズンで初めて大きな負傷を二度経験。これが引退を決断する決め手となった。

「一度、戻してようやくまたプレーできるという時に、またケガをしたんです。その時に『また来年も』とは思えなかった。自分は練習から常に全力だったので、ケガをしないようにと気にしながら練習するのも結構きつい。背中で後輩たちに見せられるものがあれば、何か感じてもらえるものがあればと思ってやっていたのが、ちょっと違うなとなりました。辞めるタイミングなんて、これまでもいくらでもあったけど、本当に辞める時が来たなというのが今シーズンだったんです」

 若かった頃のように、長時間、ピッチに立つことはない。それでもピッチに立つ短い時間で、確実に爪痕を残す。45歳のスピードスターのラストダンスは、絶対に目を離せない。

金山友紀 
かなやま・ゆうき/1977年9月2日生まれ。島根県浜田市出身。社会人チームでのサッカー活動から2000年にカスカヴェウ(現Fリーグ・ペスカドーラ町田)に加入。2007年のFリーグ発足以降もチームの中心としてプレーしてきた。フットサル日本代表では2004年と2008年のフットサルワールドカップに出場している。