日本代表が第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の第3戦でチェコ代表と対戦し、10対2で下して3連勝を飾った。初回にエラーが絡んで1点を先制された日本だが、3回に5番・吉田正尚、6番・山田哲人の連続タイムリーで3点を奪って逆転。
投げては、先発の佐々木朗希が球数制限を迎えた4回途中まで1失点と好投。4回二死から登板した宇田川優希が打者1人をきっちり抑えると、5回から登板した第2先発の宮城大弥が5回1失点で最後まで投げきった。試合のポイントはどこにあったのか。1984年ロサンゼルス五輪金メダリストで、ヤクルトなどで活躍した秦真司氏に聞いた。
WBC初戦の中国戦から好調な近藤健介
【近藤と吉田の突出した選球眼】
チェコの先発オンジェイ・サトリア投手は、真っすぐは120キロ台後半と見た目のすごみはありませんでしたが、チェンジアップがすごくよかったです。腕の振りがすばらしく、ボールがなかなか来ないので、日本の打者は「打ちたい」という心理から強引さが出てしまいました。そこに緩い球がうまくはまり、序盤は打ちあぐねます。
3回、そうした状況を打開したのが近藤選手と吉田選手でした。一死から近藤選手がライトへの二塁打で出塁し、4番の村上宗隆選手が四球で出たあと、吉田選手がレフト線に2点タイムリーを放って逆転しました。
近藤選手と吉田選手は選球眼が突出して高く、追い込まれても粘りの打撃ができるので、相手は非常に嫌なのではないかと感じました。開幕前に鈴木誠也選手がケガで辞退となったなか、1番のラーズ・ヌートバー選手、3番・大谷選手という好調の両者の間に入る近藤選手は、選球眼だけでなくバッティング技術の高さが光ります。
5番の吉田選手は積極性を持って、素直なバッティングができています。ランナーがいない時はチャンスメイクをし、得点圏ではしっかり還す。ふだんより力みやすい国際大会で、吉田選手のいい面が存分に発揮されています。
そんななか吉田選手の前を打つ4番の村上選手は、チェコ戦の最終打席で大会初ヒットを放ったとはいえ、構えの状態から明らかに力みを感じます。
村上選手の場合、前を打つ3番の大谷選手が強烈な打球を飛ばしています。
大活躍をしている大谷選手は遊び心を持ちながら、WBCでも楽しんでプレーしている姿が印象的です。村上選手もそうした感覚で打席に立てば、落ち着きが出てくると思います。
いま受けているのは、並大抵のプレッシャーではないでしょうが、たとえば「つなぎの役割でいい」と考えるのも一手です。シーズン中はそうした気持ちで打席に入っていたそうなので、日本代表でも「自分は吉田選手につなげればいい」と、少しでもラクな気持ちになれる考え方をしたほうがいい気がします。
あとはファーストストライクを積極的に振っていくことです。
これまでの村上選手を見ていると、ファーストストライクを見逃し、ボール球を振らされているという悪循環が続いています。結果を出したいという気持ちが強すぎて慎重になっているのか、それとも迷いがあって手が出ないのかわかりませんが、とにかく積極的に振るということを意識してほしいですね。
【WBC球にアジャストした宮城大弥】
一方、投手陣はすばらしいピッチングを見せてくれました。
真っすぐのスピードもすごかったですが、フォークがとくによかった。落差が大きく、しっかりコントロールもできていました。しかも球速は140キロ台中盤ですから、バッターにとってはものすごく対応が難しい球だったと思います。打ちとった11個のアウトのうち8個が三振という見事なピッチングでした。
5回から3番手で登板し、最後まで投げきった宮城投手は、強化試合では不安な内容でしたが、本番ではWBCの公式球にアジャストしてきました。しっかり緩急を使えていましたし、コントロールも安定していました。マウンドに上がった直後は連打を浴びましたが、すぐに自分本来のピッチングを取り戻したのも宮城投手らしかったですね。
2番手で登板した宇田川投手も含め、日本の投手陣のレベルは相当高いと思います。それぞれのピッチャーが、相手打者を攻めながら三振を奪っていく姿に勇気をもらえます。
1次リーグ最後のオーストラリア戦は、首位突破をかけた一戦になりました。準々決勝で対戦するグループAの1、2位がどうなるかは最後までわかりませんが、日本としては首位通過したいところでしょう。
先発は山本由伸投手で、今大会まだ登板していない投手もいます。準々決勝以降の戦いを見据え、栗山監督がどんな継投をするのかも楽しみです。そして打線に関しては、村上選手が完全復調できるかどうか。その一点だと思います。