宇野昌磨は「安定しており実力的に一歩抜けている」 本田武史が...の画像はこちら >>

安定した演技で世界選手権でも優勝を目指す宇野昌磨

 2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向けたスタートのシーズンとなる今季。男子シングルは、前回の北京五輪まで君臨してきた世界の2トップ、羽生結弦とネイサン・チェンが第一線を退いた一方、日本のエースとなった宇野昌磨が名実ともに世界のトップスケーターに成長した戦いぶりを見せ、クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を史上初めて成功させたイリア・マリニン(アメリカ)が新たに出現した。

 また、強豪ロシア勢が不在の女子シングルでは、世界女王の坂本花織や三原舞依ら"ミス・パーフェクト"たちの活躍が際立つ一方、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器に鮮烈デビューを飾った渡辺倫果ら大技のジャンプを跳ぶ新鋭が現われ、メダル争いが展開されている。

 ペアやアイスダンスも含めて、日本勢の活躍が大きな話題になった今季の最終戦、世界選手権が、いよいよ22日からさいたまスーパーアリーナで開幕する。男女のシングルについて、プロスケーターでコーチ、解説者としても活動する本田武史氏に展望を聞いた。

「まず女子は、坂本選手と三原選手の演技に安定感があるので、表彰台に絡んでくると思います。ふたりに対抗してきそうな選手としては、まず海外試合でも結果が出るようになってきたキム・チェヨン選手、キム・イェリム選手、イ・ヘイン選手ら韓国勢でしょう。また、今季シニアに転向して成長著しい若手として、16歳のイザボー・レヴィト選手(アメリカ)が伏兵となりそうです。

さらに上位争いには22年世界選手権銀メダルのルナ・ヘンドリックス選手(ベルギー)も顔を出してくるはずで、メダル獲得の戦いは、大きなミスで順位がガラッと変わってしまう展開になりそうです。

 注目の選手としては、やはり世界女王の坂本選手です。彼女の演技には、スケートの伸びやかさとパワフルさがあって、あれだけスピードに乗ってジャンプを跳べる選手はほかにはいない。それこそが彼女の個性なので、そのスケーティングやジャンプの質や技術に対してしっかりと点数が出てほしいですね。

 今季は女子では、トリプルアクセルを跳ぶ選手が渡辺選手のほかには、数人しかいないんです。もちろん、不在のロシア勢が跳んでいた高難度の4回転ジャンプを跳ぶ選手も見当たらない。

そこはちょっと寂しい気がします。

【男子の3位争いはし烈】

 男子では、宇野選手が安定しており、実力的に一歩、抜けていると思います。トップ争いに絡んできそうなのはやはりマリニン選手。急成長中の彼がショートプログラム(SP)とフリーをしっかりまとめてきた時に、どういう結果になるかを見てみたいですね。また、今季のグランプリ(GP)大会では4回転アクセルを成功させていますが、世界選手権で成功した者はまだいないので、そこにも注目が集まるでしょう。

 順当にいけば金メダル争いは昌磨選手とマリニン選手のふたりに絞られそうですが、3位争いはし烈を極めるでしょう。

先日の四大陸選手権で銀メダルのキーガン・メッシング選手(カナダ)もよかったですし、山本草太選手と友野一希選手の日本勢も含めて、SPとフリーをそろえて決められた選手がメダルを手にできると思います。

 男子の戦いで注目点は、やはり4回転ということになります。その種類の多さが目立つと思いますが、難易度の高いジャンプ構成を組みながら、スピンやステップなど、まとまった演技ができるかが勝負の大事なポイントになってくるはずです。その点で言えば、女子以上にハラハラドキドキするような展開が繰り広げられるでしょう。

 もちろん、『りくりゅう』(三浦璃来、木原龍一組)カップルのペア優勝も見たいし、アイスダンスの村元哉中選手、髙橋大輔選手にも頑張ってほしいですね」

 五輪を頂点とする4年サイクルの最初のシーズンでもある今シーズンは、いくつかルールの変更があった。その影響についても聞いた。

「得点の傾向について言うと、今季前半戦の試合では、大きなミスがあるとコンポーネンツ(演技構成点)が下がる傾向がありました。ただし、5つから3つに項目が少なくなった演技構成点ですが、ファクター(係数)が上がっているので、それほど大きな差は出ていないです。

 今季の男子で、合計300点超えは昌磨選手だけでした。その点ではやはり高得点が出にくくなっていると思います。点数の出し方がちょっと違ってきたように感じます。演技構成点で9点台後半が出にくくなっていることもあり、SP100点、フリー200点という得点がなかなか出にくくなっている。

各項目で9.5点以上が出ないと、なかなか高得点につながらないと思うので、全体的には点数の出し方が厳しくなっているのかなと思います。

 スピンのルールもちょっと変わりましたが、それによってスピンの個性がなくなってしまった感じがします。ほとんどの選手がスピンの出方を、「ニースライド」といって、膝で滑っていく技にしています。その技でレベルが1個取れてしまうからです。正直に言うと簡単なので、多くの選手がやっているのを見ると、ちょっと個性がなくなったかなというのは感じます。

 解説をしていても、レベルを取っていくやり方(技)が決まってくるので、また同じことを喋らないといけないのかなと思ってしまうところもあります。

イーグル、スパイラル、イナバウアーなどを組み合わせるコレオシークエンスも然りですね。ルールが細かくなりすぎて、個性を出して自由に表現して勝負するフリーではなくなっている感じがしています。

 ただし、いまのルールではSPで出遅れてもフリーで高得点を出せば表彰台のトップに立つことができるようになっています。最後まで勝負の行方がわからないという面白さがあるので、そういう展開を期待したいですね」