高木豊インタビュー 前編

 まだシーズンは序盤だが、すでに一軍の舞台で活躍しているルーキーが多い。今後のさらなる飛躍も期待されるセ・パのルーキーの評価を、かつて大洋(現DeNA)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に聞いた。

高木豊がセ・パのルーキーを評価 「井端弘和より上にいくかも」...の画像はこちら >>

高木氏が注目のルーキーとして語った(左から)日本ハムの矢澤、中日の福永、ロッテの友杉

【「初めて井端を見た時を思い出した」】

――今シーズンのここまでで、最も注目しているルーキーは?

高木豊(以下:高木) 真っ先に頭に浮かぶのはロッテの友杉篤輝です。彼は実戦向きですね。この場面ではこれをしたほうがいい、ここは積極的にいったほうがいい、ここはじっくり見たほうがいい、というように野球をよく知っているというか、プレーが"賢い"です。

 セーフティーバントをしたら面白いな、という場面でポーンとやってみたりもしますし、最低でもランナーを進めることが求められる場面ではしっかりと右打ちをしています。頭でイメージをしていても、それができない選手は多いのですが、友杉は違う。バッティングは非力ですが、初めて井端弘和(元中日など)を見た時を思い出しました。

――打撃も守備も井端さんに似ている?

高木 そうですね。

あと、井端より足が速い。もしかすると井端よりも上にいくかもわかりませんよ。

――盗塁、走塁の技術に関してはいかがですか?

高木 盗塁も走塁も、うまさを感じますね。課題としては、先ほども言ったように非力なところ。これから力をつけていって、ロッテでいえば打撃面で荻野貴司のようになってくれるといいなと。友杉は、打席数は少ないですが打率もいいですし(打率.306、出塁率.366/4月30日時点、以下同)、いい選手を獲ったなと思います。


――先発で起用される場合は2番で出ていますが、作戦の幅も広がる?

高木 2番を打つために生まれてきたような選手ですね。もちろん1番を打たせてもいいですけど、何でもできるということを考えると、2番が適任だと思います。これからまだ成長していくと思いますし、ショートのライバルである藤岡裕大にも「負けられない」という競争心が生まれて、藤岡の状態もよくなっている。吉井理人監督の起用法が功を奏している形です。

【内野手に注目ルーキーがズラリ。二刀流の矢澤は「心配」】

――実戦向きという点で、他に注目しているルーキーはいますか?

高木 中日の福永裕基ですね。

吸収力がある感じがしますし、友杉と同じように「この打席はこうしたほうがいい」とか、プレーに意図を感じるんです。勝負強さもありますし、4月9日のDeNA戦でセンター桑原将志の頭の上を超えていった打球などは、桑原が一瞬前に出てきてたような感じでしたし、力もありますね。

 同じルーキーの田中幹也が故障した後に抜擢されたので、その悔しさを胸に秘めてやっているのかな、という部分も見えます。それが、いい働きができている要因かもしれません。

――課題を挙げるとすれば?

高木 守備です。セカンドを守る上でのフットワークは全然できていない。
ただ、吸収力はあると思いますし、覚えていくのも早いんじゃないですかね。いい指導をしたらどんどん伸びていくタイプだと思います。

 主に起用されている6番は、ポイントゲッターとしての働きが期待される打順でもあります。立浪和義監督も一定の評価をしているということだと思いますよ。

――西武の児玉亮涼選手はいかがでしょうか? 開幕3戦目でショートのスタメンに起用され、以降も出場を続けています。

高木 オープン戦の時に全然打てなかったんですよ。
一軍での起用も、最初は「源田壮亮がいないから仕方ないのかな」と見ていましたけど、試合に出る毎に慣れてきていますね。バッティングの対応力もなかなかいい。オリックスの山本由伸からも普通に打ったりしていましたし、おそらく器用なんでしょう。守備もそつがなく、まとまっている選手です。

 オリックスの外野手、茶野篤政もいいですね。育成4位入団から、開幕前に支配下登録を勝ち取って、走攻守でいいところを見せています。
1番で起用されることもありますが、足もありますし、使いたくなる選手だと思います。

――ここまで内野手が多いですが、DeNAの林琢真選手はどう見ていますか?

高木 今はサードで起用されていますが、彼に適したポジションはショートだと思うんです。フットワークもいいですけど、「距離感が合わないんだろうな」と感じます。彼が最大限の力を出すためには、ショートで試合をスタートするのが一番でしょうね。

――バッティングはいかがでしょうか? 打席数が少ないので判断も難しいと思いますが、現状は打率.154、出塁率.209と苦しんでいます。

高木 最初につまずきましたから、焦りもあるんだと思います。足もありますし、ミート力には非凡なものを感じますが、引っ張った強い打球を打ってほしいですね。これまで6本のヒットを打っていますが、ライトへのヒットが1本もありません(レフト4本、センター1本、内野安打1本)。犠牲フライの方向もレフトでした。

 左バッターで、引っ張れない選手が大成することはあまりないですから。チームバッティングとかいろいろなことを考えても、引っ張れないと使えなくなってくるんです。そのあたりの技術とパワーを習得したいですし、徹底的に教え込んでほしいですね。

 あと、心配なのが日本ハムの矢澤宏太です。

――二刀流での起用も注目されていますが、どのあたりが心配ですか?

高木 バッティングに関して、ものすごくバランスを崩しているというか、「結果を出さなきゃいけない」と思いすぎているのかなと。ピッチャーでのデビューに備えた調整もしていると思うのですが、どっちつかずになっているんじゃないかと......。

――具体的にどのあたりが課題なのでしょうか。

高木 スイングをした後に、バッターボックスの中でものすごく動くんですよ。ボックスの後ろの線から前の線まで動き回っている感じがして、「これでは打てないだろうな」と。

 おそらく、これまで二刀流でやってきて、ひとりでチームを支えてきた感覚があると思うんです。そういうのが染みついているから、「自分が打たなきゃいけない」と焦っているのかもしれない。二刀流でいくのであれば、しっかりやらせてみてもいいかもしれません。

【まだ真価を発揮できていない逸材ピッチャー】

―― 一方で、ピッチャーで注目のルーキーは?

高木 ヤクルトの吉村貢司郎は以前から注目していましたが、ちょっと疲れが見えます。(4月23日の)巨人戦では甘いボールばかりでしたが、本来はあんなに甘いボールを投げるピッチャーではないと思うんです。

――以前、「ふた桁勝てる力がある」と評価されていましたが、いい部分は?

高木 制球力です。それと変化球が多彩なのですが、変化球を投げる時にフォームが緩む癖があるのかなと。いいバッターはフォームの緩みで「変化球だ」と察知しますからね。そのあたりの課題が解消されていき、本来の制球力が戻れば、十分に勝てるピッチャーになっていくはずです。

――ヤクルトは打線が低迷中です。

高木 投打の歯車がしっかりしてくると勝てるピッチャーだと思いますが、経験が浅い中でこれだけ打線が低迷していると、「抑えなきゃいけない」というプレッシャーがかかってきます。「3、4点ぐらいならひっくり返してくれる」という信頼があれば大胆に投げられるでしょうが、現状の打線では厳しいです。

――以前に高木さんが「完成度が高い」と評価されていた投手では、日本ハムの金村尚真投手もそうですね。

高木 変化球が抜群によくて、球に力もありますし、真っ直ぐはスピンがものすごく効いています。開幕ローテーションにも入って、「先発陣の柱としてふた桁は勝つだろうな」と可能性を感じていたのですが、故障してしまいましたね(右肩の張りで4月19日に出場選手登録を抹消)。

 ただ、「あの投げ方で故障するのか?」と不思議なくらい、いい投げ方をしているんです。大学時代(富士大)は8割程度の力で投げていて、ピンチの時などにギアを入れれば勝てたと思うのですが、プロだと全力でいかないと勝負できない場面が多いでしょうから、疲れが溜まったのかもしれません。故障してしまったのは残念ですが、早い復帰を期待しています。

(後編:波乱のパ・リーグの現状。予想外のロッテ首位、ソフトバンク苦戦の理由、日本ハムの「理解できない」起用法も>>)

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に解説したYouTubeチャンネルも人気を博している。