開幕早々に4番・山川穂高の離脱という緊急事態を受け、代わって西武打線の中心に座る中村剛也がすさまじい打棒を炸裂させている。規定打席に到達するや打率.343でリーグ2位に浮上、7本塁打もリーグで2番目に多く、OPS1.091はもちろんリーグトップだ(5月2時点)。

 本拠地ベルーナドームに楽天を迎えた4月28日からの3連戦は、手がつけられない状態だった。3試合で10打数6安打、3本塁打、5打点、3四球。30日は4打数4安打、1四球で全打席出塁という無双ぶりでこのカードを締めた。

「まあまあよかったと思います」

 打撃の手応えを問われると、笑顔で答えてクラブハウスに消えた。中村らしい語録だが、このひと言で終わらせるのはあまりにもったいない。入団22年目、8月に40歳を迎える中村は今、球界で誰より驚異的なバッターであるからだ。

プロ22年目、西武・中村剛也を突き動かす「もうちょっと野球が...の画像はこちら >>

今シーズン、プロ22年目を迎えた西武・中村剛也

【芸術的アーチは練習の賜物】

 田中将大から初回に2ランを放って勝利を呼び込んだカード初戦、中村の好調の秘訣を探るべく記者の輪ができた。

 実績のあるベテランは技術的に高い域に達しており、活躍できるかどうかは肉体面次第になるという話を通算3021試合出場のプロ野球記録を持つ谷繁元信氏(元横浜、中日)がしていたことを思い出し、中村に対して「肉体的にいい状態をつくれていることが好調の裏にあるのか」と質問した。

「体調を整えるのもそうですけど、もうちょっと野球がうまくなりたいなって思っています」

 痺れるセリフだった。本塁打王6度のキングが、まもなく40歳を迎えようとしているなかで「もうちょっとうまくなりたい」と言うのだ。

 中村と言えば、野球ファンの誰もがまず思い浮かべるのはホームランだろう。3本塁打を放った楽天との3連戦で、松井稼頭央監督が「芸術的」と評した一発があった。29日の5回、藤平尚真が投じた148キロの内角高めストレートをレフトポールぎりぎりにたたき込んだ6号本塁打だ。

「あの当たり方だと、切れないですね」

 レフトポールへ引っ張った当たりがファウルにならないのは、好調の証か。そう質問された中村は、打った直後に確信したと明かした。

 それほど完璧な一撃だったが、「あの当たり方」とは何を意味するのか。バッティングの一般論として「前の肩を早く開きすぎるな」「バットを内側から出せ(インサイドアウト)」「インパクトまで手首を返すな」と言われるが、本人の見解を聞きたい。そこで帰り際に解説を求めたら、「解説はできないです」と笑顔で一蹴された。

 漠然とした質問は、あっさりかわしてくるから中村との対話は面白い。

「打ててよかったです」というシンプルな談話が有名だが、取材者が明確に意図を持って聞けば必ず答えてくれる。

 中村は試合前の打撃練習で、誰より丁寧にスイングを重ねている。思いきり振り回す若手を尻目に、手首を返さず、力をそれほど入れずにコンタクトをまずは繰り返していく。そういう延長線上にあるホームランだったのだろうか。

「そういう練習の......」

 そう言って思考を巡らす中村に、「賜物?」と投げかけた。

「賜物......。

そんな、いいものでもないですけど(笑)。まあ練習でやっていないと、できないっていうところもあるので」

 試合前の丁寧な練習こそ、ホームランアーティストをさらに美しくさせているのだろう。

【プロ野球史上初の2000三振】

 中村と言えば、もうひとつついて回るものがある。三振だ。プロ野球史上初の2000三振を記録したこの日の試合後、球場から引き上げるところを記者陣が待ち受けた。

 とりわけホームラン打者にとって、三振は思いきり振りにいく"代償"である。そんな趣旨の質問が投げかけられた。

「そうですね。時と場合にもよると思うんですけど。追い込まれたら、なかなかヒットを打つのは難しいし。追い込まれた時に、どうせ打てないんだったらしっかり振ろうかなと。だって、すごくいいバッターでも、追い込まれたら2割打てればいいとかじゃないですか」

 三振という切り口から、どうやって中村のすごさを伝えるのか。彼を囲んだ記者陣がそれぞれ質問していくなか、「三振もアウトのひとつにすぎない」と割りきれているのではないかと思い、聞いてみた。

「まあそうなんですけど、基本、誰もが三振したくないので......。でも崩されて、当てにいくようなバッティングもしたくない。けっこう難しいんですよね。当てたらヒットになる確率も上がる。難しいところですね。まあ、追いかけていきます」

 追いかけていく──。

 できれば三振したくないが、リスクを負わなければビッグリターンは得られない。同時に、三振してはいけない場面もある。その狭間で打者は戦っていて、中村自身、若手の頃は迷いもあったという。

 そうした求道者の真髄を図らずも見せたのが、翌日、カード最終戦だった。

 まずは4点先行された2回裏に先頭打者で1打席目に入ると、7号ソロを左中間に突き刺した。楽天のルーキー・荘司康誠が2ボールから投じた146キロのストレートが真ん中低めにやや甘く入ると、中村はひと振りで仕留めた。反撃の狼煙を上げる、見事な一発だった。

「おかわり、おかわり、もう一杯!」

 中村がホームランを放つと、以降の打席でレフトスタンドのライオンズファンはそう期待して大きな声援を送った。対して、中村は3本のシングルヒットと四球で応えた。

 そのなかで4点を追いかける7回無死一、三塁から選んだフォアボールもすばらしかったが、2点差に迫った9回一死からレフト前に放ったヒットはとりわけ見事だった。単打狙いに見えたが、追いつくには最低2点が必要になるから出塁を優先してスイングしたのか。

「それも考えましたし。相手のクローザーなので、なんとか打てるようにと思って」

 勢いのあるストレートと鋭いフォークを投げていた松井裕樹に対し、どうすれば塁に出られるか。中村はそう考え、2球目に内角高めに投じられた149キロのストレートをレフトへ弾き返した。

 今、自分はどんなバッティングをすべきか。フルスイングを繰り返した若手時代から、思うように打てなくなった30代前半を経て、復活を果たした30代後半の進化だった。

【史上9人目の500本塁打も視野】

 中村剛也の真髄を目の当たりにし、どうしても聞きたいことがあった。「もうちょっと野球がうまくなりたい」というモチベーションについてだ。

 3連戦を終えたあと、1対1で話を聞くチャンスが訪れた。心の内を知るべく、ストレートに聞いた。「もうちょっと野球がうまくなりたい」という思いは、野球を始めた頃から今まで変わらないものか、それとも膨らんでいるのか。

「年々、膨らんでいるかもしれないですね。ここ最近、ピッチャーの投げる球も速くなっているし、いろんな球種もあるので、うまくならないと対応できないし。そういうことを思っていますね」

 中村に限らず、キャリアを重ねた選手が語られる際には、入団年数や年齢がついて回る。活躍すれば「ベテランの星」と称えられる一方、打てなければ「年齢が要因」と指摘される。そうした周囲の固定概念に、抗ってやるという気持ちはあるのだろうか。

「結果が出なかったら、そう言われるし。結果が出ていたら、そういうふうに言われないし。ましてや去年、あまりよくなかったし、そういうふうに見られると思うんですけど。なんて言うんですかね。抗う......。でも、それに近いかもしれないですね。いつでも、毎年、毎年やってやろうと思っていますけどね」

 中村は今季、まもなく2000試合出場に到達する。通算500本塁打も視界に捉える大記録だ。

 数々の金字塔を打ち立ててきた中村はもしかして今、長いキャリアで全盛期にいるのかもしれない。「もうちょっと野球がうまりなりたい」と言うホームランアーティストは、そう思わせるくらい、すさまじい打棒を発揮している。