松永浩美が気になる若手バッター

パ・リーグ

セ・リーグ編:阪神・佐藤輝明は「全然ダメ」なスイング 評価するのは、あの高卒4年目の左打者「進化していきそう」>>)

 長らく阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)の主力として活躍した松永浩美氏に聞く、気になる若手バッターのパ・リーグ編。松永氏がプロ入り当初から高く評価しているというバッター2人について聞いた。



松永浩美が「絶対に使っていくべき」と猛プッシュするパ・リーグ...の画像はこちら >>

ブレイクが待たれるオリックスの来田

***

――パ・リーグで気になる若手バッターはいますか?

松永浩美(以下:松永) オリックスの来田涼斗のバッティングは、プロ入り当初から評価しています。私は2021年(プロ1年目)から、自分のYou Tubeチャンネルでも「なんで来田を使わないの?」と言っているんですよ。

――来田選手は高卒3年目の左打者ですね。どういったところが優れているんですか?

松永 まず、バットの出方が正しい。左バッターがバットを振り出してボールにアプローチする時は、右手の手首を返すタイミングがある。その時にバットが外側にいく(体から遠ざかる)のが自然な動きなのですが、多くのバッターは手首を返しながら内側へバットをもっていこう(体に近づける)と腕を動かすんです。
そうすると、前が小さくなって(フォロースルーが小さくなる)、力強いスイングができません。

 バットが外側にいく自然の動作を活かすためには、右手の手首を返す際に無理して内側に持っていこうと腕を動かさず、腰を回転させるんです。それができれば、あまり腕を動かさなくても前が大きくなり(フォロースルーが大きくなる)、力強いスイングができるようになります。来田は、プロ1年目の時点でそれができていたんです。

――遠心力を活かしたスイングができるようになる?

松永 たとえば、車に乗っていてカーブを曲がる時って、外側に振られますよね。それが遠心力じゃないですか。
ということは、バットの遠心力を最大化するには、バットが外側にいこうとしている自然の動きに反発してはいけないわけです。

 気をつけたいのは、一歩間違えればドアスイング(両腕が真っ直ぐに伸びた状態でスイングすること)になりかねないということ。だから、多くの選手が内側へバットを持っていこうと腕を動かしているんです。

 腕を動かしすぎると、意外とヘッドも出ていかなくなるんですよ。ヘッドを走らせるには、インパクトの瞬間に手首を返さないといけないのですが、手首を返しつつ、バットを内側へもっていこうと腕を動かすと、ヘッドは走りません。

――そんなバットの動きだと、コースの対応も難しくなりそうですね。



松永 そうですね。最初にインコースのボールを打ったとすると、次にアウトコースを打とうとした時に、自分の体の動きがベースの幅ぐらい動いているような感覚になると思います。つまり、それぐらい動かないとアウトコースは打てない、と感じるはず。

 ただ、来田のような腕の使い方をしていれば、インコースを打つ時とアウトコースを打つ時の幅をあまり感じることなく、ほとんど同じような感覚で打てるはずです。引っ張るばかりで逆方向に流せないバッターは、来田のような腕の使い方ができていないんですよ。同じオリックスの紅林弘太郎は、まだうまくできていません。


――松永さんは、1年目からそのバッティングに注目していたんですね。

松永 「手首や腕をうまく使っている選手だな」と思って見ていましたよ。ここまでは一軍でプレーする機会が少ない(昨年までの2年で33試合、今年は6月14日時点で2試合)ですが、なるべく早く一軍でたくさん経験を積ませたほうがいいと思います。

【日本ハム矢澤の遠心力の効いたバッティングは阪神・佐藤より上】

――他に気になる若手バッターはいますか?

松永 やはり左打者の、日本ハムの矢澤宏太です。投球モーションでピッチャーが足を上げてテイクバックに入る時に、彼もテイクバックに入っている。トップを作るのが早いので、先ほど(セ・リーグ編)も話しましたが、"間"に余裕があります。



 あと、バットを振り終わったあとの左手の伸びがいいのですが、それは前が大きい(フォロースルーが大きい)証拠。バットコントロールもうまいと思うし、足や肩もある。彼は投手もやりますが、打って走って守るのは、野球選手の基本ですから。

――来田選手と同じように、手首や腕の使い方がいい?

松永 そうですね。腰を回転する時の腕の使い方がうまくて、遠心力も効いています。バッティングフォームを見る限り、あまり大崩れしないタイプだと思います。

こういう選手はあまり指導しなくても勝手に伸びますよ。

 やはり心配なのは、(セ・リーグ編で話した)阪神の佐藤輝明です。トップを作るのが遅くて、左の軸足に体重がしっかりと乗っていない。下半身をうまく使えていないので、速いボールにも腕だけで対応せざるをえない形になってしまっているんです。

 ポテンシャルという点では、矢澤より佐藤のほうが上だと思いますが、ボールに力をうまく伝えるための体の使い方、遠心力の効いたバッティングに関しては矢澤のほうが数段上だと見ています。

――矢澤選手は、6月3日の巨人戦で本塁にヘッドスライディングをした際、左手小指付け根と右膝を負傷。現在は出場登録を抹消されていますが、今後は積極的に起用するべき?

松永 絶対に使っていったほうがいいです。当然ですが、使っていかないと経験値も増えないですから。ひとつひとつ壁を乗り越えていくことで、選手としての幅が広がっていくわけですからね。

矢澤は成績はまだまだ(打率.184 )ですけど、首脳陣はポテンシャルのある選手を見極めて、我慢して使っていく覚悟が必要だと思います。使われる側の選手は、失敗を糧にしながらどんどん成長していってほしいですね。

【プロフィール】
松永浩美(まつなが・ひろみ)

1960年9月27日生まれ、福岡県出身。高校2年時に中退し、1978年に練習生として阪急に入団。1981年に1軍初出場を果たすと、俊足のスイッチヒッターとして活躍した。その後、FA制度の導入を提案し、阪神時代の1993年に自ら日本球界初のFA移籍第1号となってダイエーに移籍。1997年に退団するまで、現役生活で盗塁王1回、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回などさまざまなタイトルを手にした。メジャーリーグへの挑戦を経て1998年に現役引退。引退後は、小中学生を中心とした野球塾を設立し、BCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスでもコーチを務めた。2019年にはYouTubeチャンネルも開設するなど活躍の場を広げている。