五十嵐亮太が分析する2024年のソフトバンク(後編)
前編:「五十嵐亮太が挙げるホークス投手陣のキーマン」の記事はこちら>>
解説者であり、球団OBでもある五十嵐亮太氏による2024年のソフトバンクの戦力分析。前編では小久保裕紀新監督の目指す野球、そしておもに投手陣について語ってもらったが、後編は山川穂高が加入した打線についてうかがった。
【長年の課題がついに解消か!?】
── まず、五十嵐さんが考える「24年型ホークス打線」を教えてください。
五十嵐 まずは1番、2番について考えると、僕の理想としては「1番・周東佑京」がポイントになると思います。で、2番は三森大貴になるのか、牧原大成になるのかといったところですね。今年32歳になる牧原と25歳の三森の争い。三森が定位置を確保できれば、「1番セカンド」でも面白いと思いますが、僕は今年からセカンドに専念するという牧原が一歩リードしているのかなと見ています。
── ではひとまず、「1番・周東、2番・牧原」だとして、山川選手が加わったクリーンアップはどうなりますか?
五十嵐 いや、2番に関していうと、超攻撃的打線を考えるのならば、「2番・近藤健介、3番・柳田悠岐、4番・山川穂高」でいくのもアリですよね。そうなると、5番打者がポイントになってくるけど、僕は栗原陵矢を推したいかな? ただ、そうなるとちょっと問題もあるんですよね。
── 「問題」とは何でしょうか?
五十嵐 そうなると、「1番・周東、2番・近藤、3番・柳田」と左バッターばかりが続くんですよね。2番候補の牧原も三森も左バッターだし、ちょっと単調なラインアップとなってしまう懸念もありますね。それを嫌って、あえて右バッターを挟ませる可能性もあるけど、ホークス打線を見ると、左バッターに好打者が多いので、小久保監督はその辺りは気にせずにオーダーを組む可能性が大きいと思います。
── そうなると、「右の大砲」として、山川選手に対する期待はますます大きくなりますね。
五十嵐 まさにそこです、ポイントは。ここ数年のホークスはずっと右の大砲不足に泣かされてきました。
【ホークス打線は質量ともに大充実】
── 前編では、「山川選手の加入によって、若手へのいい刺激にもなる」という話もありました。その点でも、山川選手の存在は大きいですね。
五十嵐 上位打線が充実したことで、昨年と比べても得点力もアップしているはずだから、巨人から獲得したアダム・ウォーカーを下位におくことができる。
── あらためて、打順とポジションを整理していただけますか?
五十嵐 僕が考える「24年型ホークス打線」は、
1番 周東佑京(センター)
2番 近藤健介(レフト)
3番 柳田悠岐(ライト)
4番 山川穂高(ファースト)
5番 栗原稜矢(サード)
6番 アダム・ウォーカー(DH)
7番 牧原大成(セカンド)
8番 今宮健太(ショート)
9番 甲斐拓也(キャッチャー)
こんな感じになりますかね。ウォーカーの調子次第では、ファーストに中村晃が入って、山川をDHにしてもいいと思いますし、最初に言ったように牧原の代わりに三森を入れてもいい。そのあたりは小久保監督が柔軟に見極めていくことになると思いますね。
【1番・周東佑京がハマるかどうか?】
── このなかで、五十嵐さんが注目する選手、期待する選手は誰でしょうか?
五十嵐 クリーンアップに関してはみんな実績と経験があるので、ある程度の活躍は見込めると思います。そうなると、問題は「1番・周東」になるんじゃないかなって僕は思っていますね。
── その理由を教えてください。
五十嵐 昨シーズンの周東については、開幕前のWBCでの活躍に比べて、ペナントレースでは本領を発揮できなかったと、僕は思います。彼は今年、1日5、6食の「飯トレ」でスピードを維持したままパワーアップして、打撃力の強化に励みました。去年は打率・241でしたけど、これが向上すれば、打って走れるリードオフマンとしての地位を確立できます。彼のあとには強力打線が控えているわけだから、新選手会長となった周東がどこまで活躍できるかがポイントになると思いますね。
── 飛躍の可能性は感じられますか?
五十嵐 十分感じられると、僕は思いますね。
── 育成出身の野手としては初となる月間MVP獲得となりましたが、シーズンを通じて活躍するとなると、周東選手の「足」は他球団にとってもかなりの脅威となりますね。
五十嵐 彼の場合、シングルヒットはツーベースヒットみたいなものですからね(笑)。周東が塁に出てピッチャーにプレッシャーを与えて、大きく空いた一、二塁間を2番の近藤が引っ張ってライト前に運ぶ。
── あらためて最後に、今年のホークスの見どころを教えてください。
五十嵐 戦力的には、投打ともに優勝してもおかしくないメンバーが揃っています。そうなると、あとは監督次第です。前編でも言ったけど、小久保監督が目指している「美しい野球」を選手たちが、どのように理解して試合に臨むことができるのか? その点には注目しています。
── 侍ジャパンの監督時には「エースや4番への絶対的な信頼」を表明していました。「少々の不調では代えない」という選手起用もありました。
五十嵐 きっと、小久保監督自身が、現役時代に当時の王貞治監督から、そのような信頼を受けていたからでしょうね。監督からの信頼というのは選手にも伝わりますから、それを意気に感じて、選手たちが頑張れるかどうか。ただ、長いペナントレースでは選手起用や采配における柔軟性がポイントになることもあります。その判断を誤ると、思ってもみなかった苦境に陥ることもありますからね。
── 3月29日から始まる開幕シリーズは、現在リーグ3連覇中のオリックス・バファローズとの対戦です。開幕早々、大切な試合ですね。
五十嵐 開幕戦については「143分の1だ」という考え方もあるけど、僕はそうは思わない。やっぱり、「絶対に落とせない」という気持ちで両チームがぶつかった時に、それを勝ち切れるかどうかということは、シーズン終盤の短期決戦においても大切なポイントですから。たしかにオリックスは試合巧者ではあるけれど、実力で言えば両者の差はほとんどないと見ていい。開幕シリーズは、今年を占う大きなポイントとなりそうですね。
五十嵐亮太(いがらし・りょうた)/1979年5月28日、北海道生まれ。千葉・敬愛学園から97年ドラフト2位でヤクルトに入団。プロ2年目の99年にリリーフとして頭角を現し、一軍に定着。04年はクローザーとして37セーブを挙げ、最優秀救援投手賞のタイトルを獲得。09年オフにメジャー挑戦を表明し、メッツと契約。12年はブルージェイズ、ヤンキースでプレーし、13年にソフトバンクと契約し日本球界復帰。18年オフに戦力外となるも、ヤクルトと契約。19年は45試合に登板したが、20年10月に現役引退を表明。現在は解説者として活躍している。