先日、DeNAが阪神との3連戦で、3試合とも違う捕手をスタメンで起用して見事3連勝を飾った。3戦とも違うキャッチャーというのは珍しいが、近年はほとんどのチームが複数人の捕手を併用しながら戦っている。

今や球界の常識となった「捕手併用」は、本当に最善の策なのか。日本ハムとソフトバンクで19年間プレーし、7度のリーグ優勝に貢献した鶴岡慎也氏に訊いた。

ダルビッシュ有の元専属捕手・鶴岡慎也に訊く「捕手併用は本当に...の画像はこちら >>

捕手だけではなく、代打、外野手として出場することもあるヤクルト・内山壮真

【捕手の打撃の比重は高まっている】

── まず捕手に必要な要素を教えてください。

鶴岡 ボールを捕る、投げる、ワンバウンドの球を止める、投手をリードする......そこにプラス、打つです。最近は"打つ"ことの比重が高くなっているように思います。リード、配球は実際に試合に出ないとなかなか覚えられませんが、それ以前に「試合で使いたい」と思わせる打撃が重要な要素になります。現代の野球は「捕手が打たなくても勝てる時代」ではなくなっています。

その筆頭がオリックスの森友哉選手であり、どのチームも彼のような"打てる捕手"を育てたいと思っているはずです。

── いまは投手によって、もしくは対戦相手によってスタメン捕手を変えるケースが多くなっているように思います。

鶴岡 私が在籍した日本ハムもソフトバンクも"捕手併用"のチームでした。だから私は、現役19年間で規定打席に到達したことは一度もありません。しかし、リーグ優勝は日本ハムで4回、ソフトバンクで3回経験させていただきました。

 先述したように、最近は捕手の打撃が重要視されています。

現在(6月28日時点)、12球団で規定打席に到達している捕手は、森選手、坂倉将吾選手(広島)、大城卓三選手(巨人)の3人です。

 昨今のプロ野球において、レギュラー捕手に休養を与える意味も込めて、1週間ずっとマスクを被り続ける捕手は少なくなりました。森選手にしても若月健矢選手との併用であり、坂倉選手も會澤翼選手との併用です。森選手、坂倉選手、大城選手の打撃はすばらしいものがあります。また、規定打席に達していませんが、甲斐拓也選手(ソフトバンク)や中村悠平選手(ヤクルト)はしぶとい打撃を披露し、捕手の打撃の重要性を証明しています。

── 鶴岡さんは最後を締める"抑え投手"ならぬ"抑え捕手"の経験もあります。

鶴岡 一軍に出始めた頃はダルビッシュ有投手の"専属捕手"的存在でしたが、"抑え捕手"も100試合以上経験しています。その時は、武田久投手とよくバッテリーを組みました。シュート、カットボール、スライダーを投げ分ける投手でしたが、ストレートが絶対的ということでもなかったので、打者の狙い球を外すために、事前に入念な打ち合わせをしていました。

 ソフトバンクではデニス・サファテ投手とよく組みました。サファテ投手は傑出したストレートがあり、最終的に空振り三振をとるため、その前にどれだけ変化球を見せられるかを考えてリードしていました。

── 捕手併用の理由として、バッテリーの"相性"は関係するのでしょうか。

鶴岡 プロである以上、誰と組んでも100%の力を発揮しなくてはいけないと思いますが、そこは人間同士の組み合わせですから、配球や感性が合わないことは当然あります。そういう場合は捕手が投手に合わせていきますし、何度かバッテリーを組むことでお互いの信頼関係を築き上げていきます。

【多様化する捕手の役割】

── 野村克也氏は、正捕手に代打を送った時の交代捕手、その捕手が万が一、ケガをした時の交代要員として「捕手は3人必要だ」とおっしゃっていました。

鶴岡 ただ、複数の捕手を使うといっても、昔と今では内容はまったく違います。昔は、緊急事態用の"第3捕手"が試合に出ることはほとんどありませんでした。でも今はそれぞれに役割があって、ベンチにいるだけの捕手は少なくなったと思います。

── 最近は本職の捕手ではなく、違うポジション、役割で出場する選手が多い印象です。

鶴岡 捕手登録のオリックス・頓宮裕真(とんぐう・ゆうま)選手は一塁を守って、現在パ・リーグの首位打者を独走するなど大活躍です。またソフトバンクの谷川原健太選手は俊足、日本ハムの郡拓也選手は内外野守れますし、ヤクルトの内山壮真選手は類まれな打撃を生かして外野手で出場したこともありました。

── 先日、DeNAが阪神との3連戦で3試合ともスタメンマスクは違いました。

鶴岡 ほかにも楽天や西武が捕手3人制で戦っています。おそらく、絶対的な存在の捕手がいないから、そうした戦いになっていると思います。

── 複数の捕手でシーズンを戦うメリット、デメリットはどこにありますか。

鶴岡 捕手を併用することで、配球パターンが読まれにくいメリットはあると思います。ただ先述したように、本職が捕手の選手がほかの役割をこなすようなチーム編成になっています。かつてのように、ひとりの捕手でシーズンを乗り切るという考えはないのかもしれません。それがいいとか、悪いとかではなく、野球自体がそういう戦い方になっているのでしょう。それぞれの捕手の特長を把握しながらうまく起用しているチームが、優勝をたぐり寄せるのではないでしょうか。


鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代に2度甲子園出場。三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2002年ドラフト8巡目で日本ハムに入団。2005年に一軍入りを果たすと、その後、4度のリーグ優勝に貢献。2014年にFAでソフトバンクに移籍。2014、15年と連続日本一を達成。2017年オフに再取得したFAで日本ハムに復帰。2021年オフに日本ハムを退団した。