今季の巨人投手陣はケガ人続出で、8勝(7月4日現在)の戸郷翔征がひとりで奮闘している状態だ。エース・菅野智之は2月下旬に首の寝違いからフォームを崩し、その後、右ヒジの張りを訴え、開幕から2カ月以上も二軍調整を強いられた。

 その菅野は6月11日のソフトバンク戦で今季初登板を果たすと、5回4安打、2失点で勝利投手となり、復活への狼煙をあげたかに思えた。だが、同18日の楽天戦は6回3安打、2失点で負け投手に。そして7月1日の阪神戦は、今季最多の110球を投げて7回2安打、1失点。黒星は喫したものの、「粘りの投球ができていた」と首脳陣は及第点を与えた。

 ただ巨人OBで球界の大御所である広岡達朗は、強く異を唱える。

菅野智之は復活できるか 広岡達朗は期待するからこそ辛辣「5億...の画像はこちら >>

開幕前からケガに苦しみ、6月にようやく今季初登板を果たした巨人・菅野智之

【4番への失投があまりにも目立つ】

「よく投げただって? バカを言え。なんとか頭を使いながらいいピッチングをしていると思ったら、お決まりのポカによる一発。

2アウトランナーなしで、相手の4番に対してなぜあんな甘い球を投げてしまうんだ。チームの中心バッターに対しては、徹底して厳しく攻めるのが常識だ。とにかく菅野は被弾率が高く、とくに4番への失投があまりにも目立つ。慎重さに欠けているなによりの証拠だ」

 たしかに菅野のピッチングを振り返ると、「ここぞ」という場面での一発で試合の流れを持っていかれるケースがあった。ただ、菅野にも気の毒な面はある。菅野が投げている試合は打線の援護がないのだ。

これは今季に限った話ではない。

 全盛期の菅野は味方の援護がなくても獅子奮迅の活躍を見せ、まさに球界のエースと呼ぶにふさわしいピッチング内容だった。

 2012年にドラフト1位で入団した菅野は、今季プロ11年目。過去10年の成績を見ると、全シーズン100イニング以上投げ(150イニング以上は6度)、防御率1点台は3回、2点台が3回、3点台が4回。最も悪い防御率が2019年の3.89で、その次が2021年の3.19だから、相当な数字である。

 しかも2ケタ勝利は8回を記録し、昨年までの通算勝率は.650と、近代プロ野球においてこれだけ長い期間を投げて、コンスタントに勝ち星を挙げるピッチャーはほかにいない。

 広岡はこれまでの菅野を評価しつつも、今シーズンのピッチングについてこう指摘する。

「菅野はメジャーに行こうとしていたみたいだが、つくづく行かなくてよかったと思う。行っていたら、藤浪(晋太郎)みたいになっていただろうな。今季の菅野を見ると、ストレートをほとんど投げずに、変化球でかわしている。それ自体は年齢的な衰えもあり仕方のないことかもしれないが、気になるのは締まらない体つきだ。そこから放たれる球はキレも伸びもない。

 経験で身につけた投球テクニックだけで打者を打ちとっている印象で、上体だけで投げているようにしか見えない。速球派にとってモデルチェンジは宿命であり、菅野も緩い変化球でミートポイントをずらすピッチングを磨いていくことになるだろうが、それにしてももっと体を絞らないと......あっという間にダメになるぞ。これまで積み重ねてきた功績もあって今季の年俸は5億円だそうだが、現状はまったくその価値はなしだ」

 広岡は菅野のピッチング自体を否定しているのではない。モデルチェンジをするなら肉体改造も視野に入れ、年齢からくる衰えと戦わなければならない。はたして、その覚悟が菅野自身にあるのかどうか、広岡はそこを問うているのだ。

【菅野には給料分は働けと言いたい】

 現状、巨人のエースは戸郷であり、これに新外国人のフォスター・グリフィン、山﨑伊織が三本柱だろう。

菅野に全盛期の力を求めるのは酷であり、ローテーション投手として5、6回を投げ、試合をつくってくれれば御の字だ。

「2年前のシーズン、後半戦から先発ローテーション投手を中5日で回し、ほかが全滅するなか、菅野と戸郷だけは安定したピッチングを見せていた。結局、巨人は菅野と戸郷がやらないとダメなんだ。戸郷はWBCからフル回転しているんだから、せめて菅野には給料分は働けと言いたい」

 2021年シーズンは、東京オリンピックの中断期間もあってか、9月に入ってから菅野、山口俊、戸郷、高橋優貴、C.C.メルセデスの5人が中5日のローテーションでマウンドに上がり続けた。原辰徳監督は常々、中6日、100球をメドにしたローテーションに異を唱えていた。これに関しては、広岡も同意見だ。

「中6日で100球なんて過保護すぎる。だったら130球くらい投げろと言いたい。100球だったら、中5日で十分だ。それくらいしないと、強いピッチャーなんて育つわけがない」

 楽天の田中将大ニューヨーク・ヤンキースに移籍した時、「慣れてしまえば登板間隔はさほど問題ではないと思う」と語っていたように、日本では中6日で投げていた投手が、メジャーの中4、5日に順応している。要は、調整のやり方に慣れていないだけの問題にすぎない。

「菅野は誰よりも負けん気が強く、中5日を志願しても不思議ではないと関係者は言っていたが、ここまで何もしていないんだからフル回転は当たり前だ。菅野が計算できるようになれば、チームは間違いなくいい方向に進む。これでまた故障や不調を理由に登板回避するようなら、いよいよ考えないといけない」

 いつになく厳しい言葉が続いたが、菅野の復活によって巨人が浮上することは間違いない。もはや打線に頼れない状況だけに、投手陣の整備は上位争いを演じるためにも不可欠である。

「阪神がもたついた感があって勢いを止めるチャンスがあったのに、できなかった。だから巨人はいつまでたっても大きな貯金をつくれずにいる。これからの戦いはチームにとっても、菅野にとっても正念場になるだろうな」

 はたして、菅野は以前のようなピッチングを取り戻すことができるのか、注目したい。