「昨年まで日本で、テレビで見ていた光景。今年、自分がそこにいるっていうのは不思議な気持ちでしたけど、本当にいい時間を送れたなとあらためて思いました」

 現地時間7月11日、初のMLBオールスターを終えたニューヨーク・メッツの千賀滉大の言葉には初々しさがあった。

登板不可の投手が出たことによる代役選出とはいえ、スターの祭典に参加した喜びが随所に感じられた。

千賀滉大の「お化けフォーク」はMLBトップクラスの空振り率 ...の画像はこちら >>

「お化けフォーク」を武器にメジャー1年目から活躍するメッツの千賀

 それでも、日本で3度のオールスターを経験している30歳のオールドルーキーは、夢の舞台も堂々と笑顔で過ごしているように見えた。

 オールスター前日の会見では、終始スムーズな受け答えで日米のメディアに対応した。オールスター当日の昼に行なわれるレッドカーペットショーには、薄い茶色のセットアップに白のTシャツ、白のスニーカーで登場。急遽、遠征先で選出を聞いたため、服装に関しては熟考する時間がなかったというが、「楽しく、楽しく、ただ楽しく」と笑顔を見せた。

 後半戦に向けた調整を優先し、結局はオールスター本戦での登板機会はなかった。
それでもゲーム前にはブルペンでの投球練習を行ない、サイ・ヤング賞を3度受賞している左腕・クレイトン・カーショー(ドジャース)からは"お化けフォーク"の握り方を尋ねられたという。

「教えてくれ、というか『こんな感じ』という話をしました。カーショー以外にも、どう投げているのかをいろいろな方から褒めてもらえた。(フォークについて)多くの人に知ってもらえているなと、あらためて思いました」

 アメリカで"Ghost Fork"と呼ばれる、千賀の決め球が高い評価を勝ち得ている証拠だろう。

 オールスター前の千賀は7勝5敗、防御率3.31 はリーグ10位と好成績を残した(成績はオールスター前のもの。以下同)。
奪三振113は同8位、9イニングあたりの奪三振率は11.3で同3位、被打率.204は堂々のリーグトップだ。1年目からこれほどハイレベルのパフォーマンスを続けてこられた背景に、最大の武器であるお化けフォークがあったことは間違いない。

 オールスター前までの千賀は、全投球のうちの22.8%にあたる350球のフォークを投げ、被打率.126(87打数11安打60三振)、長打率.149。フォークを投げて許した長打はわずか2本だけ。空振り率59.6%は、メジャーの全先発投手が投げるすべての球種の中でもトップの数字である。

【名前/球種/空振り率(Whiff %)】

千賀滉大(メッツ)/フォーク/59.6

スペンサー・ストライダー(ブレーブス)/スライダー/56.7

シェーン・マクラナハン(レイズ)/チェンジアップ/52.5

ヘスス・ルサルド(マーリンズ)/スライダー/51.7

トレバー・リチャーズ(ブルージェイズ)/チェンジアップ/46.5

(100打席以上で使用された球種)

「(これほど空振りが取れるとは)まったく予想していなかったです。

前半戦だけなんで、それが後半戦でどうなるのかも自分次第。その球があればこそ、いい内容のピッチングも多くなると思う。そこは、データとの追いかけっこかなと思います」

 オールスター前日の会見時、千賀は控えめながらも伝家の宝刀の効果を認めていた。最速100マイル(約160キロ)の速球と、落差の大きなフォークのコンビーションは世界でも通用する。特にフォークは、球宴の舞台でも「いろいろな方から褒めてもらえた」というほど好評だったことを考えると、今後はさらに注目される球種になりそうだ。

 話題になればなるほど、スカウティングが進むのもこの業界の常。
フォークに関して対策がなされていくだろうが、その際のアジャストメントが成功のカギになることは千賀も理解している。ただ、フォークが馴染みの球種になり、各球団にデータが出揃うことは、「投げるほうにとって、必ずしも悪いばかりではない」という。

「投げていく中で、フォークや他の球種が各チームに浸透すればするほど、こっちも対策が立てやすくなったりする。そこの追いかけっこになると思うんですけど、これから楽しむ部分は増えるなと思います」

 前半戦での千賀はフォークだけではなく、カッター(カットファーストボール)をうまく使っていた。フォークを上回る全体の23.0%の割合でカッターを投げ、被打率は.222とこちらも好成績。決め球になることは少なくとも、カウントを稼ぐ球種になっていた印象があった。

千賀の次のような言葉からも、カッターへの手応えが感じられる。

「フォークばかりにならないようにというのはもちろん、カットボールが日本の時よりいい球になっている。すっぽ抜けたら長打を打たれることはあるんですけど、それがなければ今のところは打たれてない。そこの精度を磨かなきゃなと思っています」

 第3の球種、カッターがメジャーでも通用しているのであれば、後半戦以降の活躍にも期待が持てそうだ。

 もちろんすべてが順調なわけではなく、千賀の1試合あたりの四球率4.72は、規程をクリアしているナ・リーグの投手の中でワーストの数字。四球が多いため球数は増え、投球回数はリーグ30位。
クオリティスタートが16先発中6度と少ないのも四球が原因だろう。

 制球難に関しては、MLB使用球への適応が影響しているのかもしれない。まだまだ慣れとアジャストメントが必要だが、明白な課題があることは、"アップサイド(伸びしろ)"が残っていると考えることもできる。

「(オールスターに)また出たいなと思いました。『そりゃあ今年は選ばれるよね』と言われるようなシーズンを過ごしたい。来年以降もいい成績を残して、またこの舞台に来たいとあらためて思います」

 メジャーでもスターの仲間入りを果たすことで、新たなモチベーションを得た千賀の後半戦が楽しみだ。オールスター後初の先発となった7月15日のドジャース戦は、8勝目とはならなかったが、6回1失点、9奪三振と好投した。

 1年目からいきなり球宴に選ばれるほどの活躍ぶりでも、本当に盛り上がるのはこれから。もともとの持ち球の素晴らしさに加え、意志の強さ、謙虚な姿勢があれば、全米を舞台にした"追いかけっこ"でもいい結果を出し続けられるかもしれない。