【身の丈に合った演技ができた】

 宇野昌磨(トヨタ自動車)は、グランプリ(GP)ファイナル(12月7~10日)のショートプログラム(SP)で今季の自己最高得点である106.02点をマーク。冒頭で4回転アクセルを決めたイリア・マリニン(アメリカ)に0.88点の僅差の2位で発進した。

 だが、フリーでは4回転アクセルを含む4回転5種類6本の構成にしてきたマリニンに圧倒された。

宇野は自身の演技終了後、少し苦笑していた。

「6分間練習から全然よくないというか。アクセルは跳んでいたけどあやしいな、不安定な部分がたぶん出るなと思ったので本番はスピードを落として、『できることを』と。そこはうまく調整できたし、身の丈にあった演技ができたと思います。今の自分に対しては100点をあげたいと思うし、NHK杯が終わってからの練習を振り返ってみると、今回の演技も妥当だったかなという感想もあります」

 いい状態をつくり上げられていた11月下旬のNHK杯に比べると、やはり調子がやや落ちていた。連続ジャンプの予定だった最初のトリプルアクセルが単発になると、次の3連続ジャンプ予定のトリプルアクセルはシングルになった。
他にも4本目の4回転フリップと後半の単発の4回転トーループ。さらに、リカバリーで跳んだトリプルアクセルからの3連続ジャンプの、最後の3回転フリップがともに回転不足と判定された。

「今回は『q』(4分の1の回転不足)が3つついていたけど、NHK杯より全然よくなかった。ただ今回の度合いだったら修正というか、調子いい時のジャンプなら問題ないかなという感想で。それよりスピンとかステップが全然(ダメ)でした。もうフラフラだったので、そういうところに練習(の調子)が出たなと思います。
それに、表現をもうちょっとできたよなというのもあって。点数にもならなくても、もうちょっとできたよね、と」

 課題を残す演技だったが、ステファン・ランビエールコーチの評価に喜びもあった。「最後の3連続(ジャンプ)は、いろいろ考えながら演技はしていたんですけど、跳びにいったことに『すごくうれしかった』と(ランビエールコーチが)言ってくれたので。それができてうれしかったのは僕も同じです」と宇野は話した。

宇野昌磨の競う喜びと勝算「マリニン君にジャンプで敵う人は数十...の画像はこちら >>
 フリーの結果は、191.32点。演技構成点ではトップだった。
合計はシーズンベストの297.34点で2位。マリニンが合計314.66点の高得点でGPファイナル初優勝を決めた。

【マリニン1強になる可能性が高い】

 宇野は、「NHK杯の時は悲しかったけど、今回は悔しくないですね」と言う。

「競技をやる以上は順位を、というのは絶対出てくると思います。今回の演技はもっと表現を頑張れたなって思うけど、結局、ジャンプを跳ばない限りは(得点が上がらない)というのはあって。マリニン君と僕の演技構成点の差は6.10点だけど、それはもうジャンプお手つき分くらいなんです。(マリニンは)あれだけジャンプをきれいに跳べる。

そして一番確率よく跳んでいるので、彼に勝つには同じぐらいのジャンプを跳ばないと、たぶん今後は勝てる人がいなくなってしまうのが現状だとは思います」

 だが宇野は、自分が4回転ジャンプを増やす構想はないとも言う。それ以前に、まだまだやるべき演技がある、と。そう考える理由のひとつに、NHK杯で納得できる滑りができたことがある。4回転ジャンプ4本の「q」判定に加え、4回転トーループが2回転になったミスがあったものの、そのミスがなければフリーは200点台に乗せられ、SPとの合計も310点台は確実になるからだ。

「ジャンプのスキルでマリニン君に敵(かな)う人は、下手したら数十年いないと思うくらい飛躍しすぎていると思うので、来年以降はマリニン君が1強になる可能性は高いですね。でも今年ならギリギリ戦えると思います。
彼がこれからどういう思いを持ってフィギュアスケート界を引っ張っていくかはわからないですけど、僕は追いかける立場になったつもりはないですし、一緒に引っ張っていければなとは思います。マリニン君と今年一杯は、戦える存在でいたいと思います」

 GPシリーズ3戦を終えた今、宇野は「シーズンに入る前はここまでハイレベルな戦いになると思ってなかったので、けっこう楽しいです」と笑顔を見せた。

「やっぱり競い合いながら、お互いが切磋琢磨してより高いところを目指し合える環境はすごく楽しい。そうやって僕は、ネイサン・チェン選手やユヅ君(羽生結弦)と一緒にやってきた。まあ僕は置いていかれていましたけど、今回は置いてかれないように頑張りたいなと思っています」

【己と戦い続けるスポーツ】

 GPファイナルSPのあと、フリーでどのくらいの得点差まで逆転が可能かと記者から質問され、宇野は「何点でも(逆転は)あると思います」と答え、こう続けた。

「そこ(得点差)まで考えすぎると、相手が失敗するというのが要素としてまず入ってこなければいけないとかもあるけど、フィギュアスケートは対人スポーツとは違う。

相手のいやがることをするスポーツとはまた違って、己とずっと戦い続けます。他の選手もライバルであり、どちらかというと仲間だと僕は思っている。もちろん点数をハイレベルで競い合うのはすごく楽しいことだし、見ている人たちもそのほうが楽しいと思うけど、あまりそこに固執しすぎずに。『今回は負けちゃった。でも次は勝ちたいな』みたいなことを、直接相手と言い合えるくらいの仲で、そういう意識でこのスポーツに取り組みたいと思っています。今回出ている6人は、全員そういうメンタルの持ち主だと思っているのですごく居心地いいですね」

 心地いい戦いの場で、自分をどう高め、どう納得できる演技をつくり上げていくか。

「自分の場合は、他の選手よりもスケートがすごく好きではないんです。スポーツとして小さい頃からやっていることだからこうやって一生懸命で。僕は性格上、やるって決めるとたぶん人よりも真剣にやってしまう性格なので、それでこういうところまで来られたのだと思います」

 今は尊敬するランビエールコーチとともに、自分が進むべき道を楽しみながら探求しているようだ。