【全日本選手権に9年連続エントリー】

 12月20日、長野。本田真凜(22歳/JAL)は、フィギュアスケート全日本選手権開幕前日の公式練習のリンクに立っていた。やや緊張した面持ちで、ひとつに束ねた長い黒髪が揺れる。

白い上着を脱ぐと、全身黒いシルエットになった。

「ジュニア1年目から全日本に勝ち進んで、今まであっという間。いよいよ、学生最後の挑戦になりました。たくさんの応援に感謝していますし、その気持ちはスケートで返すしかないと思っています」

 本田は言う。今大会が、ひとつの集大成であることは間違いないだろう。彼女にとって特別な舞台、全日本が幕を開けようとしていた。


 今年11月、青森・八戸で行なわれた東日本選手権、本田は9年連続での全日本出場を決めている(※最高成績は2016年の4位、2020年は体調不良で棄権)。それは小さな勲章と言える。

本田真凜、全日本で「人生を表現したい」「感謝の気持ちはスケー...の画像はこちら >>
 2016年には世界ジュニア選手権で優勝、2017年は準優勝し、その愛らしい容姿もあって一躍、人気者になった。好む好まざるにかかわらず、「天才少女」と騒がれた。失意と挫折を経験する機会も少なくなかったはずだが......。

 彼女は氷の上に立ち続けた。

【2歳の時からスケート中心の生活】

 東日本のショートプログラム(SP)ではトーループを失敗したが、3回転ループ+2回転トーループやダブルアクセルを成功させ、4位の好位置につけた。スピンはすべてレベル4だった。東京選手権と比べて、スケーティングは見違えるほどに改善していた。

「東日本は1年のなかでも一番緊張する大会で、1カ月前から夢に出るほど。スケート21年目で、一番緊張したフリーでした。ネガティブな感情がたくさん出てしまって」

 フリーではジャンプに回転不足がつき、3回転サルコウが2回転、ダブルアクセルがシングルになるなど苦戦を強いられることになった。それでも演技構成点は上位で、粘り強く滑り続けて5位。

総合でも5位と僅差で全日本出場枠内に入った。最後は、全日本の常連フィギュアスケーターとしての意地だったかもしれない。

「2歳の時から、どんな時でもスケート中心の生活を続けてきました。小さい時から何百回も試合を経験し、そのたびに毎回、新しい気持ちで」

 東日本選手権での取材で、本田はそう心境を明かしている。

「小学4年の野辺山合宿からずっと一緒にやってきた同期も、今日明日で現役最後になるかもしれないって状況で。そういうのを話す、大学4年生になりました。
だから、(全日本では)今までやってきたことをすべて出しきれるように、と思っています」

【スケート人生を表現するプログラム】

 全日本を前にした曲かけ練習では、本田はSPの『Faded』を滑っている。3本ともジャンプはパスしたが、ステップの艶やかさが随所に目立った。

「(SPのテーマは)スケート人生の光と影というか、自分の小さな頃からの思いを曲に込めて滑りたいです。ハッピーなだけでなく、悲しい気持ちも混ざっているんですが。滑っていても気持ちが入り込み、滑りやすいプログラムで。自分のスケート人生を表現したいですね」

 本田は言う。

思い入れが強いプログラムだ。

 一方、フリーは映画『マーメイド』でアリエルというキャラクターを演じる。今夏には人気アニメ『ワンピース』のアイスショーでビビというキャラクターを演じ、人気を博した。キャラクターを自分のものにできるのは異能と言えるだろう。

「『ワンピース・オン・アイス』で得た経験はすごく大きいです。私としては、試合ですごく弱さが出てしまうところがあって、自信がなくなってしまうんです。
(ビビを演じることで)少し、その自信を取り戻すきっかけになりました。キャラになりきることで、その強さまでもらえるというか。自分が滑っていても楽しくて、キラキラしたプログラムなので、みなさんにも楽しんでもらえるようにしたいです」

 コレオシークエンスでのロングスパイラルは美しく、見ものだ。

「長めのスパイラルを、何百回も練習しました。どこから見ても、きれいに見えるように」

 彼女はそう言って、顔をほころばせた。

 スタートポジションでポーズを決めると、スイッチが入る。彼女は女優然としたところがある。アリエルの役柄に没入し、表情が一気に輝く。

「全日本では、フリーをたくさんのお客さんの前で滑って、笑顔で終わるというのが目標です。そこに向けて頑張っていきたい」

 まずはSPで十分にスコアを稼げるか。昨年は26位と低迷し、フリーに進むことができなかった。まずはフリー進出が目標になるか。

 12月22日、女子シングルのSP。本田は9年連続の全日本に挑む。第2グループ、8番目の滑走だ。