3月3日、パリ五輪男子マラソン代表のラスト1枠を決める東京マラソンがスタートする。東京マラソンは、昨年12月の福岡国際マラソン、今年2月の大阪マラソンとともに男子マラソン代表を決めるMGCファイナルチャレンジの指定大会で、その最終戦になっている。
パリ五輪男子マラソン代表は、昨年のMGCで優勝した小山直城(ホンダ)、2位の赤﨑暁(九電工)がすでに代表内定を決めている。東京マラソンで設定タイムを切れない場合は、MGC3位の大迫傑(NIKE)が、そのままパリ五輪マラソン代表になる。 これまですでに福岡国際マラソンと大阪マラソンが行なわれたが、結果はどうだったのか。
福岡国際マラソンは、2時間06分35秒のタイムを持つ細谷恭平(黒崎播磨)が出場した。
大阪マラソンは、吉田祐也(GMO)、土方英和(旭化成)、大塚祥平(九電工)、聞谷賢人(トヨタ紡織)、鎧坂哲哉(旭化成)らMGCを駆けた選手が多数出走した。
レースが動いたのは29キロ過ぎ。
ここまで2レースは、設定タイムを越える選手はおらず、依然として大迫がパリに一番近いところにいる。
では、東京マラソンで誰が2時間05分50秒を切って、優勝するのだろうか。
出場ランナーを見てみると、マラソン日本歴代トップ5のうち、3名がエントリーしている。日本最速の鈴木健吾(富士通・2時間04分56秒)、山下一貴(三菱重工・2時間05分51秒)、其田健也(JR東日本・2時間05分59秒)だ。さらに細谷、西山和弥(トヨタ・2時間06分45秒)、西山雄介(トヨタ・2時間07分47秒)ら多くの選手が出走する。
昨年のMGCは大雨の中、気温が下がり、鈴木、其田を始め、転倒した細谷も途中棄権に終わった。とくに鈴木が12キロで途中棄権したのは衝撃的だった。
鈴木を追うのは、山下だ。MGCは、ブタペスト世界陸上から1カ月半しか余裕がなかったが、それを言い訳にせず最後まで走り切って32位で終えた。レース後は「2週間前に足が痛くなって、3日間ほど休んだんですけど戻らなかったですね」と苦笑いを浮かべていたが、同じ轍は踏まない。昨年の世界選手権は、暑さでリタイヤする選手が続出する中、一時は40キロ地点で5位まで順位を上げ、世界と戦えることを証明した。大舞台にも強く、昨年の東京マラソンで自己ベストを更新して日本人トップ。コースを熟知しているアドバンテージは大きく、今回も自己ベスト更新でパリ行きを決める可能性は十分ある。
MGCでは15キロ手前で途中棄権した其田も持ちタイム(2時間05分59秒)から設定タイムを越えられる可能性がある選手のひとりだ。「夢の舞台」というパリ五輪を走るために、課題のスタミナを走り込むことでしっかりと強化してきた。トップでゴールした自分の姿を常にイメージして練習をこなしているが、それを実現するだけの力は十分に備わっている。
不気味な存在が西山雄介(トヨタ・2時間07分47秒)だ。MGCは準備万端、自信をもって臨んだが、46位に沈んだ。レース後は悔し涙が止まらず、ミックスゾーンではスタッフに抱えられ、泣きながら無言で通り過ぎた。MGCのショックから立ち直るのに少し時間はかかったが、このまま終わるわけにはいかない。「パリしか考えていない。その先のことは考えられない」と、相当の覚悟を持って臨んでくるだろう。
また、MGCで粘って5位になった作田直也(JR東日本)、さらに福岡国際マラソン設定タイムを切れず、悔しさを抱えてラストチャンスに懸ける細谷など、注目すべき選手は多い。
今回のレースは、鈴木、山下を軸に展開することになるだろう。
キプチョゲらが形成する先頭集団から離れ、おそらく第2集団でのレース展開になりそうだ。昨年のMGCで大逃げをしようとした川内優輝(あいおい生命)のような選手は出ないだろう。また、当日は快晴の予定で気温12度前後というコンディションなので、昨年のMGCのような雨と寒さと戦うサバイバルレースにはならないはずだ。
オーソドックスな展開になり、選手は冷静にタイムを追いながら終盤の勝負に備えていくだろう。勝負は、田町を折り返して東京タワー前、増上寺付近から動き出し、40キロの西新橋からラストの競り合いが起こりそうだ。日比谷を越えると、残りは1キロ。ここで誰が生き残っているのか。そして、設定タイムを越えるタイムで走れているのか。練習を積んできた自信の裏付けからの余裕と、そこで得られた強いメンタルを保持する選手が、東京駅前のゴールを駆け抜け、パリ行きのチケットを獲得することになるだろう。