オリックスの宮崎キャンプは清武総合運動公園で行なわれ、一軍、二軍関係なく全選手がこの丘陵に造られたふたつの球場とサブグラウンド、室内練習場で汗を流す。

 ある日の午後、メイン球場では一軍メンバーと目される選手たち4人がひとグルーブになって、「打撃」「守備」「走塁」「バント」の練習をローテーションでこなしていく。

 そのグループ分けを見ると、どういう理由で「その4人」になったのか、なんとなくわかるメンバー構成になっている。

 森友哉、頓宮裕真に新加入の西川龍馬、コーディ・トーマスの「A班」。ここはクリーンアップ候補で、高いレベルでの競争が期待される4人。

 紅林弘太郎、太田椋、渡部遼人、池田陵真の「B班」。ここは紅林と太田、渡部と池田という同じポジション、同じタイプの選手を競わせている。自ずと意識し、刺激し合えるメンバー構成である。

 そして「D班のメンバーを見て、思わず「オッ」と声が出た。

 6年目の内野手・宜保翔、2年目の外野手・杉澤龍のあとに、内藤鵬と横山聖哉の名前があったからだ。

投手力だけじゃない! 未来のスラッガー候補の雄大な打球に「強...の画像はこちら >>

【コーチが絶賛した横山聖哉の強肩】

 高卒2年目の内藤と、将来のクリーンアップ候補として昨年秋のドラフトで1位指名の横山。どうりで第二球場に姿がなかったわけだ。オリックスのキャンプ地は、駐車場から上り道を歩いてくると、まず若手選手が練習する「第二球場」があり、そこからさらに一段高い場所に主力メンバーが汗を流す「SOKKENスタジアム」がある。おそらく"一軍研修"的な合流だったのだろう。

 まず内藤だが、日本航空石川高時代に圧倒的な長打力を目の当たりにしている。

「のと里山空港」のすぐ隣にグラウンドがあり、左翼100mのフェンスのさらに向こうにあるブルペンの屋根に、内藤が放った打球が次々と着弾。そのたびにものすごい音がするのだが、選手たちは驚く様子もなく、淡々と練習に取り組んでいる。

「見飽きていますから。珍しくないです」

 チームメイトが教えてくれた。これまで何人も高校生スラッガーを見てきたが、飛距離においてはトップクラスだ。

 そして横山は、大学生投手が豊作と言われた昨年のドラフトで、オリックスが単独1位指名したショートの逸材だ。

「強肩とは聞いていたけど、とんでもない肩をしていますよ。三遊間の深い位置から、ショートバウンドかなと思った送球が、そこからホップしてくる。ダイレクトで投げているのに、一塁手が捕り損なう」

 あるコーチは「自分の球歴のなかで、初めて見る強肩」と絶賛する。

 昨年秋、ドラフトまで1カ月に迫った頃、取材で学校のグラウンドを訪れた。ノックを見ていると、捕球→送球の一連の動きに乱れがあっても、どの角度からでもレーザービーム級の一塁送球で解決してしまう「猛肩」に目を奪われたものだ。

 打撃でも、ライト後方に流れる千曲川の河川敷を目がけて、立て続けに120m級の打球がフェンスを超えていく。

明らかに飛ばそうと気負った打ち方になっているのに、打ち損じが少ない。ただのパワーヒッターじゃない。インパクトの感覚も鋭いものを持っている選手だと見た。

【4番しか似合わない内藤鵬の存在感】

 先にバッティングゲージに入ったのは横山。考えてみれば、まだ卒業前の高校生だ。とてもそうは見えない落ち着き。

3年連続パ・リーグを制したメンバーに囲まれても、堂々とバットを構えている。まず、そこがすごい。

 そしてボールに合わせてスイングするのではなく、しっかり自分が振りたいように振り切っている。気負って、力んで、打ち損じもあるが、だからといって周りの視線を気にしたり、ミート中心に変えようしたりはしない。実直に、愚直に、投げ込まれるボールを全身で弾き返していく。

 タイミングが合った時のライナー性の打球は、なかなか落下せずに右中間のフェンスに何本も直撃している。

横山は打球を上げようとするタイプではなく、強烈に叩いてバックスピンをかけるスイング。自分から踏み込んで攻めていくスイングスタイルだから、プロの変化球に慣れるまで少々時間がかかるかもしれないが、それでもツーベース、スリーベース量産型の中距離ヒッター。それが横山の「未来予想図」だ。

 その横山とは対照的に、「ボールを呼び込んでドカン!」と打つタイプの内藤。高校時代はもっと軸足体重で構えていたように思うが、150キロを超すプロの剛球に木製バットで立ち向かうには、体重移動と下半身主導のスイングが必須条件なのだろう。

 右足の足首からねじり上げて、その下半身のアクションの反動でバットが振られる。バットのヘッドが最後に出てくるため、遠心力を利用して遠くまで飛ばすことができる。腕っぷしの強さだけで、強引に飛ばそうとする意識は皆無。全身の連動でサラッとバットを振り抜いて、雄大な放物線を描いてスタンドイン。

 高校時代から「4番」しか似合わない選手だった。高校通算53本塁打の飛ばし屋だったが、「4番らしさ」の理由は、本塁打だけじゃない。

 指揮官が望むのは、タイムリーが打てるポイントゲッターとしての勝負強さだろうし、相手投手を怯ませる威圧感であり、存在感だろう。

「チームで一番野球がうまいのに、いつも(内藤)鵬が最後まで練習している。あの大きな体で守備もうまいし、ディレードスチールも仕掛けられる。すべてにおいて、すごいっすよ、鵬は」

 あるチームメイトはこんな話をしてくれ、「鵬はオレたちの誇りです」と締めてくれた。

「もうやめろと言っても聞かないんですよ」と、日本航空石川の中村隆監督もあきれるほど練習していた手は、どんなものかと見せてもらったら、"サザエ"みたいになっていたから驚いた。マメがつぶれて、そのなかに新しいマメができ、そのマメがゴツゴツにとんがっていた。

 そこまでやらなくても......と、見ているこっちが心配になったが、「自分で決めたことですから」とひと言。高校生にして、この覚悟はなんなのだろうかと思ったものだ。この時から、私のなかの4番打者の条件に「敬意」という条項がひとつ加わった。

 なんだか、近未来のオリックスの若きクリーンアップの競演を見せてもらったような気がした。もちろん、途方もない「先物買い」であることは十分理解している。プロには準備されたポジションなどなく、相手チームと戦う前にまずはチームメイトたちとの戦いが待っている。

「下がだいぶ決まってきたね!」

 打撃練習が終わったところで内藤に声をかけたら、真ん丸の顔がうれしそうに輝いた。

 だが2月末の練習試合で、守備の際に左肩を脱臼し手術。復帰までのかなりの時間を要するそうだが、まだ2年目。焦らず、ゆっくり治してもらいたい。

 今や球界屈指の投手力を誇るオリックスだが、フレッシュコンビの雄大な打球を見て、「強打のオリックス」の看板を掲げる日はそう遠くないと確信した。