現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
レアル・ソシエダはラ・リーガでヘタフェに0-3で敗れ、公式戦3連敗。久保建英は孤軍奮闘の活躍を見せているものの出場時間が調整され、先発だったりベンチスタートだったりしている状況だ。
今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、久保の先発とベンチスタートの成績を比較してもらった。
【久保はチームに必要不可欠な選手となっている】
レアル・ソシエダは今季、際立つようなシーズンを送れていない。ラ・レアル(※レアル・ソシエダの愛称)はイマノル・アルグアシルの監督就任後、21世紀に入ってからのほぼすべての"クラブのシーズン記録"を更新してきた。しかし、サポーターの期待に応え、あらゆるハードルを上げてきた過去5シーズンと比べ、今季のパフォーマンスは明らかに悪化している。
チームが好調なシーズンを送れていた時、久保建英は輝きを放ちながら重要な役割を果たしてきた。そしてチームが落ち込んでいる今、自身の進化と主力選手の退団により、リーダーの資質を示している。以前と変わらずレギュラーのままだが、今は単調な攻撃を打破するため、さらに必要不可欠な選手となっている。イマノルは今、解決しづらい問題に直面しているようだ。ラ・レアルには久保のようにプレーできる選手が他に存在しない。そしてチームは決定力不足という問題を抱えている。しかし、この状況のなか、3日おきに重要な試合をこなさなければならず、指揮官は「常に同じ選手で戦いながら、この日程に耐えられるチームはない」とも言う。
イマノルは長年、選手層の問題によりローテーションをうまく使いこなせていなかったが今季は違う。ここまで約30パターンの異なるスタメンを組んでいる。
そのなかではっきりしているのは、守備陣ではGKアレックス・レミロ、DFイゴール・スベルディアとナイフ・アゲルド、中盤ではマルティン・スビメンディ、前線では久保といった、柱となる選手がいるということだ。他にもたくさん出ている選手はいるが、おそらく絶対的なレギュラーとして皆に認識されてはいないだろう。
ブライス・メンデスは今季、プレーの質とチーム内での重要度を落としている。ジョン・アランブルはチャンスを掴んでいるものの攻撃的なプレーに欠け、アマリ・トラオレは負傷中だ。キャプテンを務めるチーム得点王のミケル・オヤルサバルは、スター選手として加入したオーリ・オスカルソンがいいプレーを見せられていないので、非常に出番が多い。だが、負傷前のようなパフォーマンスを発揮できていない。
【久保の出場時間が調整される理由】
久保は今季ここまでチームトップの公式戦29試合に出場し、欠場は2試合のみ(※その他、ベンチ入りするも出番なしが1度あり)。出場した試合では先発21回、ベンチスタート8回で、フル出場が6回あった。一般的にウイングは、例えばセンターバックやボランチに比べてはるかに交代の多いポジションだ。今季の久保のプレー時間は、チーム7番目の1900分となっている。
これまで見せてきたパフォーマンスから、久保が後半に試合の流れを変えられる特性を備えているのはわかっている。しかし、ベンチスタートよりも先発としての適性が高いことは数字から明らかだ。
スタメン入りした21試合の成績は10勝4分け7敗。その間に4得点3アシストを記録している。本人は得点面の改善が必要であると自覚しているが、他の選手の成績を考えると、まったく悪くない数字だ。一方、途中出場した8試合の成績は3勝5敗、1得点0アシスト。これは、久保が先発すべき選手であることを示している。
チームにおいて非常に重要な存在となっている今、イマノルが久保を常にフレッシュな状態にしておきたいと思っているのは明らかだ。しかし、彼をベンチに置いた試合において、チームが早い段階で勝負を決めることは滅多にない。勝つためには起用せざるを得ないのだ。
それは"矛盾"である。それを解決するためにイマノルは、久保の出場時間をうまく調整しなければならない。
ベンチにはアンデル・バレネチェアやシェラルド・ベッカーのように、チームに新鮮な空気をもたらす能力を備えた選手たちが控えている。今抱えている問題を解決するためにイマノルは、彼らをもっと生かす必要があるだろう。特にベッカーは他の選手とは違うプレーでチームに貢献できるはずだ。
【「恥ずべき試合」でもメンタルの強さを見せた】
ベストメンバーで全力を尽くしたにもかかわらず、ラ・レアルはヨーロッパリーグ(EL)でラツィオに完敗した。まったく攻撃できず、あらゆる面で劣り、なかでもフィジカル面の差が顕著となり、セットプレーでやられてしまったのだ。
アイエン・ムニョスのレッドカードがとどめとなり、イマノルはハーフタイムに敗戦濃厚であることを認め、3本の柱に休養を与える選択をした。そのうちのひとりが、ほとんどボールに触れられなかった久保だった。この交代により、次の古巣ヘタフェ戦で再びスタメンに名を連ねることができた。
ヘタフェ戦での久保はチームが悲惨な状況に陥ったなか、唯一の"オアシス"となった。最初こそ身を隠していたが、前半途中からヒーローのマントを纏って輝きを放ち、チームに数少ない決定機をもたらした。
完璧な3度の切り込み、正確なクロス、ベニャト・トゥリエンテスへの鮮やかなスルーパス......。
しかし、またしても物事はうまくいかなかった。チームはそのまま0-3で敗れ、久保は絶望する。試合後の彼の発言は辛辣だった。うんざりした表情を浮かべた様子はチームの現状を如実に表わしていた。
「僕たちにとって恥ずべき試合だった。サポーターに謝りたい。彼らは拍手を送ってくれるが、僕たちにはその資格がない」とレアレ・アレーナに駆けつけた人々に対する謝罪を口にした。
久保は自分たちのプレーがまったくできなかったことを反省しつつ、「流れを変える必要がある」と前を向く発言をするも、「今日は本当に何もいいところがなかった。チームに何が起こっているのかわからない。先週はとてもよかったのに、今週は3試合とも負けてしまった。これまで以上に団結する必要があるが、3連敗した後だとここに来て話をすることにあまり意味はない」と、やり場のない気持ちも吐露した。
それでも立ち止まっていられない状況に、「木曜日(ELのPAOK戦)は今日よりもいい試合ができるように頑張るよ。悲しんでいる暇はない。サッカーの一番いいところは試合が何度もあること。もし週に1試合しかなければ、僕たちは100%文句を言っているだろう。3つのコンペティションがあることに感謝しているよ。すべてにおいて改善できるように努力しなければならない」と気持ちを切り替えた。
そのメンタルの強さも、彼の魅力のひとつなのだ。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)