3月2日、ラ・リーガ第26節。マジョルカのFW浅野拓磨は、アラベス戦でスペイン挑戦初ゴールを決めている。
「浅野がアラベス戦で名誉を回復した!」
スペイン大手スポーツ紙『アス』はそんな見出しを付けている。すでにリーグ戦は折り返しており、3月で初ゴールという事実をどう評価すべきか。FWとしてゴールが求められていたのは間違いない。これで"出発点に立った"と言ったところか―――。
今シーズン、ブンデスリーガのボーフムから移籍してきた浅野は、開幕から右アタッカーで先発の座を勝ち取り、上々の滑り出しだった。開幕のレアル・マドリード戦で、浅野はスピードを生かして裏を狙い、ダイナミズムを生み出した。右サイドで対峙したフェルラン・メンディを苦しめ、終了間際にはレッドカードで退場処分に追い込んでいる。第2節のオサスナ戦では、セットプレーの流れから右大外でフリーになってヘディングを叩きつけるなど、右サイドでボールを呼び込む力も見せつけていた。
「Profundidad」
スペイン語で言う「奥行き」があることは、間違いなく彼の武器と言える。
しかし、浅野は9月下旬に膝のケガで戦線を離脱。
この1ゴールは、相応の価値がある。実に浅野らしいスーパーゴールだった。カタールW杯のドイツ戦のゴールや昨シーズンのバイエルン戦の得点のように、大一番で難しいシュートを決めるのは"持っている"FW、ということなのだろう。
何より、ラ・リーガで得点するのは簡単ではない。
過去、ラ・リーガに挑戦した日本人FWでは、城彰二(バジャドリード)が2得点、西澤明訓(エスパニョール)が0得点、大久保嘉人(マジョルカ)が5得点、ハーフナー・マイク(コルドバ)が0得点、岡崎慎司(ウエスカ)が1得点、武藤嘉紀(エイバル)が1得点。全員が日本代表で、Jリーグでは有数のFWだった。他の国のリーグでは実績がある選手もいたが、苦戦を余儀なくされている。
それぞれ半年から1年半と在籍期間は異なるが、1得点がどれだけ尊いか。何しろスペインは、2部でも福田健二が2006-07シーズンに記録した二けた得点が、岡崎がやって来るまで破られることはなかった。その後、二けた得点者はひとりもいない。
【守備での貢献も大きい】
最近は、久保建英が得点を積み重ねて「ゴールしたら負けない」という不敗伝説まで作り上げている。それだけに、「浅野はまだ1点?」と物足りなさを感じることもあるだろう。しかし、久保は特別な例である。ちなみに、日本が誇る中村俊輔(エスパニョール)、家長昭博(マジョルカ)、清武弘嗣(セビージャ)という中盤のファンタジスタも、まったく歯が立たなかった。
浅野は初ゴールで、今後が問われることになる。
アラベス戦の浅野は4-4-2の右サイドハーフのようなポジションでプレーした。サイドで堅実に敵にふたをし、粘り強くプレスバック。守備の役割を果たす一方、左にボールがある時は大外のストライカーとなり、右サイドバックの積極的な攻め上がりに反応すると、今度は中に位置取りする。変幻のポジショニングが求められたが、戦術的動きが整備されたチームでそれはスムーズだった。
森保ジャパンにおける浅野は、縦を突っ切るスピードや献身性ばかりがクローズアップされる。マジョルカでも、本質的なところは変わっていないが、チームとして、ひとりひとりがどこに立ち、いつ動くか、どこにボールを入れるか、より論理的な落とし込みがされている。おかげで、攻守両面で力を発揮できるのだろう。
アラベス戦も、浅野は周囲との連係守備から有機的にボールを奪っていた。そしてパサーであるセルジ・ダルデルに迅速にパスを送ると、カウンターから、ベダト・ムリキが決定機を得ていた。道筋がはっきりと見えるプレーだった。
マジョルカは1試合平均1点にも満たない得点数ながら現在8位と、久保を擁するレアル・ソシエダ(9位)をも上回る。ひとりも傑出した選手はいない。攻守でやるべき仕事を果たすことで選手はピッチに立ち、チームの強さも出るのだ。
浅野はケガで10試合欠場も、15試合に出場し、うち8試合で先発している。チームに必要なひとりである証左だろう。ラ・リーガ1年目で、その数字は特筆に値する。シーズン最後までポジションに定着し、もし5点を奪えたら、ブンデスリーガの15点、フランスリーグの20点、スコットランドリーグの30点に相当するはずだ。
次節、マジョルカは敵地で4位アスレティック・ビルバオと対戦する。ここで勝ち点を拾うことができれば、チームの目標である残留が確定に近づく。
後半戦の浅野の"反撃"が期待される。