その歩みは、間違いなく力強い。
J1リーグ序盤戦で、湘南ベルマーレが主役に躍り出ている。
開幕節で鬼木達新監督を迎えた鹿島アントラーズから、ホームで1-0の白星をつかんだ。2節はセレッソ大阪とのアウェーゲームに臨み、2-1で競り勝った。続く3節では、浦和レッズを2-1で退けた。開幕3連勝はJ1ではクラブ初である。
4節は横浜F・マリノスと1-1で引き分け、連勝はひとまず止まった。それでも3勝1分の勝ち点10は、柏レイソル、サンフレッチェ広島と並ぶ。得失点差で柏に次ぐ2位につけている。
好調なチームを牽引するのが、ここまで3ゴールの鈴木章斗(21歳)だ。加入4年目のストライカーは、好調の要因をこう語る。「去年のシーズンから積み上げてきたものがあって、それを全員が体現できています。やるべきことが明確になっていて、全員が自信を持ってプレーできていると思いますね」
昨シーズンの湘南は15位でフィニッシュしたが、32節から鹿島、東京ヴェルディ、広島、FC東京を連破した。J1リーグでは1998年以来となる4連勝を含む終盤の戦いが、今シーズンの土台となっているのだ。
プロ入りから「29」を着けてきた鈴木だが、今シーズンは「10」を背負う。「9」と「10」が空き番だったことからクラブから変更を提案され、エースナンバーを選んだ。
この時点ですでに、「守備も攻撃も誰よりもがんばる」との決意を胸に刻んだ。「これまで以上に結果の責任を負う」との覚悟も固めた。
チームの先頭に立つ姿勢を鮮明にした21歳は、さらなるタスクを担う。キャプテンに指名されたのだ。
「キャンプから帰ってきたところで、智さん(山口智監督)に呼ばれて『やってくれ』と言われました。その前に10番を着けることにしていたので、さらに大きな責任というか、もっとやらなきゃいけないって思いました」
不安はあった、と言う。
「自分で大丈夫なのかな、というのはありました」
けれど、迷いはなかった。
「それは全然なくて。キャプテンとして何をやるべきなのか......ということは考えましたけど、もうホントにやるしかないっていう気持ちに切り替わりました」
【昨年は自身初のふたケタ得点に到達】
背番号10を背負い、左腕に腕章を巻いてピッチに立つ。昨シーズンまでとは明らかに異なる種類の重圧を、全方位から受けているはずだ。
そのなかで、2節のC大阪戦では2ゴールを叩き出し、3節の浦和戦でも決勝点となるヘディングシュートを突き刺した。
得点ランキング首位タイに並ぶが、21歳の語調は落ち着いている。
「まだ始まったばかりですので。それに、去年のシーズンもこの段階では取れていたから。ここからもコンスタントに取れればいいですけど、点を取っていけばマークは必ず厳しくなります。調子がよくないタイミングもあると思う。だからこそ今日、何ができるかということだけを考えています」
鈴木自身が話しているように、昨シーズンも序盤4試合で3得点をマークした。しかし、その後は得点から遠ざかり、ケガも重なってリーグ戦で得点をあげられない日々を過ごした。
チームの勝利のために、何をすべきなのか──。自問自答を繰り返し、守備面での貢献度を高め、8月から再びギアが入る。そして最終的に、自身初のふたケタ得点に到達したのだった。
3-1-4-2のシステムで2トップの一角を担う鈴木は、守備の局面で前線から果敢にプレッシャーをかけていく。守備のスイッチを入れ、二度、三度とボールをチェイスしていく。
「そこは一番と言っていいぐらい意識しています。僕らがしっかりプレッシャーにいってスイッチが入れば、うしろの選手もついてきてくれるし、チームとしていい守備ができると感じる。そこはチームとしても、すごく大事にしているところです」
昨シーズンまで攻撃に変化をもたらしてきたMF阿部浩之が、現役から退いた。2019年途中から背番号10を担ったMF山田直輝は、J3のFC岐阜へ移籍した。多くの気づきを与えくれた経験者への感謝も、鈴木を衝き動かしている。
「阿部くんもヤーマン(山田)もそうですし、町野くんであったり大橋くんであったりに、成長した姿を見せられればなと思います」
【海外へ挑戦するのは必要なこと】
FW町野修斗は2021年から2023年夏まで在籍し、2022年のカタールワールドカップのメンバー入りを果たした。その後も日本代表に招集され、現在はドイツ1部(ホルシュタイン・キール)で戦う海外組である。
町野の後継としてベルマーレの得点源となった大橋祐紀は、2023年のJ1で自身初のふたケタ得点を記録した。翌2024年は広島へ移籍し、夏にイングランド1部のブラックバーンへと渡った。同年11月には、日本代表の一員としてワールドカップ・アジア最終予選に出場している。
2022年加入の鈴木は、町野とも大橋とも2トップを組んでいる。彼らのステップアップを目の当たりにして、刺激を受けないはずはない。
「ああいうプレーができれば(海外に)行けるんだ──という基準みたいなものを、ふたりに見せてもらいました。代表に入るためには海外へ挑戦するのは必要なことだと思いますし、自分も目標にしています。けれど、今はホントにチームで活躍すること、勝利に貢献することが一番大事です。このチームでもっともっと、上にいきたいんです」
最後のフレーズは、ずっと育んできた彼の「芯」である。
「プロになってから、タイトルを獲りたいとずっと思ってきました。必ず獲れるチームに今、仕上がってきていると感じるし、そこへ近づくためには、ホントに目の前の試合に集中することが大事です」
どんな質問にも語調を変えることはなく、鈴木は落ち着いて、しっかりと答えた。そして、一つひとつの言葉には、はっきりとした野心が編み込まれている。