安藤勝己選定「3歳牝馬番付」(前編)

安藤勝己の「3歳牝馬番付」 苦悩の末に選び抜いたクラシックの...の画像はこちら >>
 3歳クラシックがいよいよ開幕する。まずは、牝馬クラシック第1弾のGI桜花賞(4月13日/阪神・芝1600m)である。

 有力視されているのは、GI阪神ジュベナイルフィリーズ(12月8日/京都・芝1600m)を勝って2歳女王に輝いたアルマヴェローチェ(牝3歳)。年明けからの前哨戦やトライアルで強烈な新星が登場していないこともあって、桜花賞では一冠達成濃厚と見られている。

 だが、若き乙女たちの戦い。何が起こるかわからない。第2弾のGIオークス(5月25日/東京・芝2400m)まで見据えれば、意外な存在の台頭も十分に考えられる。

 となれば、ここは競走馬の分析に長けた安藤勝己氏に話を聞くべきだろう。はたして、今年の3歳牝馬クラシックで躍動するのは、どの馬なのか。安藤氏独自の視点で、桜花賞、オークスでの活躍が期待できる3歳牝馬の番付を選定してもらった――。

 今年の3歳牝馬は、かなりの混戦だ。とはいえ、芝1600mのレースにおいて1分32秒~33秒台で走る馬が数多くいて、そのレベルは決して低くない。よく、ずば抜けた馬がいる年は全体のレベルは高くないと言われるけれど、今年はその逆。突出した存在はいないものの、強そうな馬が何頭もいる。

 また、近年の傾向でもあるが、トライアルを勝ってきた馬より、年末年始の重賞からぶっつけでクラシックに臨んでくる馬に素質のありそうな馬がそろっている、というのも今年の特徴。そういったなかで、有力馬の力量に大きな差はなく、それらをランクづけするのは、かなり難しい作業だった......。

前頭筆頭:ウォーターガーベラ(牝3歳)
(父レイデオロ/戦績:7戦1勝、2着2回、3着1回、着外3回)

 最近の傾向として、クラシックで有力視されている馬はトライアルに出走しなくなっている。今年もその傾向が強く、それゆえ、トライアル組の評価はあまり高くない。

 そうした状況にあって、今年はGIIチューリップ賞(3月2日/阪神・芝1600m)で「ひょっとしたら......」と思わせる馬を見つけた。2着のウォーターガーベラだ。勝ったのはクリノメイ(牝3歳)だが、レース内容からそれ以上の魅力をこの馬に感じた。

 7枠11番と外目の枠からの発走で、最後は外から追い込んでくると思っていたが、4コーナー手前で進路をうまく内にとって、そこからスルスルと抜けてきた。結果はハナ差惜敗も、ゴール前では一瞬、「こっちが勝ったか」と思わせるシーンもあった。

 正直、この2着は恵まれた感が強い。それでも、"内をスルスル"という芸当はどんな馬にもできることではない。クラシック本番では、さすがに勝ち負けまではどうか? というイメージがあるかもしれないが、混戦になったとき、上位に食い込むのはこういうタイプの馬だと思う。

小結:トワイライトシティ(牝3歳)
(父エピファネイア/戦績:2戦2勝)

 トライアル組では、リステッド競走のアネモネS(3月15日/中山・芝1600m)を勝ったトワイライトシティも楽しみな存在。というのも、その一戦でのレースぶりに見どころがあった。

 最後の直線で最内の狭いところに押し込められて、「もうダメか」と思ったところから、馬群を割って伸びてきた。抜け出したときの脚もしっかりしていて、あのしぶとさと勝負根性は評価したい。2戦2勝と負けていないのもいい。

 アネモネSはこれまで桜花賞とはあまり縁がなかったけれど、今やチューリップ賞をはじめ、いわゆる王道とされるトライアルと桜花賞との関係が大きく変わりつつある。それを思えば、関東のトライアル、アネモネSからそろそろ上位を脅かすような馬が出てきてもおかしくない。この馬には、その期待が持てる。

 ただ、課題もある。アネモネSの勝ち時計は1分35秒7。それを、どこまで詰められるかだ。


関脇:ビップデイジー(牝3歳)
(父サトノダイヤモンド/戦績:4戦2勝、2着1回、3着1回)

 ビップデイジーは阪神JFが2着で、前走のチューリップ賞が3着。

その戦績から、今年のクラシック戦線では上位の部類に入る一頭と言えるだろう。

 前々走と比べて相手関係がきつくなったわけではないのに、前走で着順を落としているのは気になるところかもしれないが、その点について、自分はマイナスにはならないと見ている。なぜなら、阪神JFでは終(しま)いを生かす競馬をしたが、チューリップ賞では先行して、逃げ馬の番手につける競馬をしたからだ。

 これは、本番を見据えてのこと。トライアルではよくあることだが、先行してどれだけの脚が使えるのか、試したのだと思う。

 その意味で、チューリップ賞で最もトライアルらしいレースをしたのは、この馬だった。しかも、前々走とはまったく違う競馬をしながら、そこまで大きく負けることはなかった。このトライアルの内容は評価したい。本番ではまた本来の差す競馬をすると思うが、チューリップ賞での経験がどう生かされるのか、楽しみだ。

 唯一の懸念は、430kg台と馬体が小さいこと。前々走から間隔を空けながら、前走でもマイナス体重だったのが気がかり。桜花賞では上位争いできると思うが、その先はどうだろうか......。

(つづく)◆安藤勝己が選定した「3歳牝馬番付」 ハイレベルな世代の女王候補は?>>

安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として精力的に活動している。

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