ドラマの詰まった日本GPを終えて、角田裕毅はそのままバーレーンへと飛んできた。

 気温39度という灼熱。

2004年の建設から一度も再舗装されていない路面は極端に粗い。高速コーナーはほとんどなく、中低速コーナーばかりのストップ&ゴーサーキットという、鈴鹿とは真逆の環境。

 レッドブルでの初めてのレースを終えた角田は、さらにしっかりと地に足を着けて次の一歩を踏み出そうとしている。

【F1】角田裕毅はレッドブルの繊細なマシンを乗りこなせるか「...の画像はこちら >>
「マシンに関してはまだ『OK(悪くない)』という感じですかね。気持ちよく走れているかどうかを語る段階ではないかなと思います。

 でも、今までのドライバーたちが苦しんできたマシンバランスには適応できていると思います。セットアップに関しても、自分がいいと思っていたセットアップに合わせるというより、マックス(・フェルスタッペン)のセットアップでうまく走ることができたので、今のところはとても満足しています」

 日本GPでは53周の決勝レースで多くのことを学んだと語っていた角田だが、最大の予想外と失敗は予選Q2のアタックだった。

 路面温度が下がったQ2後半、タイヤの温度が不十分なままアタックに入り、攻めすぎてリアをスライドさせてしまった。

 レッドブルのマシンは繊細であるがゆえに、タイヤの扱いもレーシングブルズに比べて繊細さが求められる。アプローチの仕方自体が違うのだという。

「ごくシンプルに言えば、レーシングブルズでは『こういうふうにやれ』と言われるのに対して、レッドブルではレース週末を通してチーム側からどんどんアジャストしていく感じです。

 どちらがいい、悪いではなくて、レーシングブルズはドライバーにとってやりやすいアプローチだと言えますし、マックス(・フェルスタッペン)はこのチーム(レッドブル)に9年もいるから何も考えずとも自然にできていますけど、僕自身がもっと自然にそれができるようになるにはどうすればいいのか。

チームも一緒に考えてくれていますので、そこはまだ改善の途上にあるところです」

【フィーリングはいいがタイムは出ない】

 バーレーンGPは、陽が沈んだあとの土曜19時に予選、日曜は18時に決勝のスタートが切られる。同じ時間帯に走行できるのは金曜午後のFP2だけであり、角田にとってその課題に取り組むチャンスは決して多くない。

 だから今週末だけで、そのタイヤアプローチがナチュラルにできるようになるとは考えていない。

 同時に、シミュレーターで感触を確かめていた以上に実走ではリアがトリッキーだったレッドブルのマシン、RB21の扱いにも慣れる必要がある。

 過去のドライバーたちのようにその扱い自体に苦戦するところはないが、速さを最大限に引き出すとなると、話は別だ。フェルスタッペンが鈴鹿で勝利を手繰り寄せた要因でもある、美しいまでの完璧な予選アタックができるようになるためには、マシンを隅々まで理解し、自信を持って攻められるところまで「対話」できるようにならなければならないからだ。

 角田自身にそのドライビング能力があることは、チームもすでに理解したはずだ。しかし、マシンとの対話には、もう少し時間がかかる。

 才能さえあればポンと乗って速く走れたのは、マシンがごくシンプルな"機械"だった20年前や30年前までの話。今のF1は空力だけでなく、ブレーキバランスやディファレンシャル、パワーユニットのエンジンブレーキといった電子制御を駆使して隅から隅まで尖った性能をまとめ上げているマシンだ。当然、そのすべてを手足のようにナチュラルに扱えるようになるには、才能とは別の時間がかかる。

 日本GPでは角田も知識と経験を生かし、RB21を速く走らせるためのトライをいくつも行なった。

 シミュレーター上ではリアのピーキーさを抑えて走るセットアップの感触がよく、フェルスタッペンもそれに賛同してFP1を走行した。

しかし、FP2ではフェルスタッペンはフロント寄りに、角田はさらにリア寄りへと別々の方向をトライしたところ、角田のマシンは「フィーリングはいいがタイムは出ない」という結果になった。

【「シーズン末までユウキを乗せる」】

「レーシングブルズのマシンのパフォーマンスを引き出し、速く走らせるためのマシンバランスやセットアップはわかっていました。でも、このマシンを最も速く走らせる方法論はまだ把握できていません。

 日本GPで『これがいいだろう』と思ってFP2で試したら、マシンのフィーリングとしては気持ちよく走れましたし、FP1より速く走れると感じたんです。だけど、ラップタイムはFP1より遅かった」

 FP3ではフェルスタッペンと同じく、リアのトリッキーさをドライバーの腕で対処しながら、「乗りにくいが速さを発揮できるマシン」へと戻した。

 ただし、これはあくまで現状のマシンに対する「妥協案」でしかなく、本当に目指さなければならないのは、マシン自体の悪癖を解消すること。それはレッドブルの技術陣も認識している。

「つまりRB21は、マシンのトリッキーさがラップタイムにつながっていて、それにうまく対処しながら走る必要があるんです。鈴鹿ではマックスが予選ですばらしいアタックラップを決めましたけど、こういうセットアップにうまく対処しているのはすごいことです。

 ただ、(フェルスタッペンでさえ)このマシンバランスの問題が僕らの足枷(かせ)になっているのは確かですし、現状で最速のマシンではないこともわかっている。セットアップにしてもこれがシーズンを通して進むべき方向でないこともわかっているので、今後に向けてそこを改善しようとしているところです」

 その点に関しては、現状のマシンに苦戦していたリアム・ローソンやセルジオ・ペレスではなく、角田のドライビング能力とフィードバック能力が必要だというのが、レッドブルの判断だ。つまり、フェルスタッペンがひとりで四苦八苦しながら改善策を模索していくのではなく、2台のデータを使って改善を進めていく必要があるというわけだ。

 日本GPの週末の時点で、すでにそれが可能だと判断したヘルムート・マルコは、「シーズン末までユウキを乗せる」と明言している。

【焦ってはいない。一歩ずつ進めていく】

 角田は、自分自身のマシンに対する理解を深めつつ、レッドブル流のタイヤの扱いも身につけつつ、さらにはマシンの根本的改善にも寄与しつつ、そして新たに組むエンジニアたちとのコミュニケーションをさらに改善しつつ、コース上で結果を出していかなければならない。

 しかし、当の角田本人は、そんな難題も特に気にはしていないようだ。

「鈴鹿ではいろんなイベントがたくさんあって、セッションに向けた準備にフルで集中する時間を十分に持てなかった。今週はもっと時間の余裕がありますし、マシンをどうするべきかというアイデアもありますので、さらにマシンの理解を深めることができると思っています。

 焦ってはいないです。一歩ずつ進めていくつもりです。マシンに対する自信という意味では、日本GPを迎えた時によりも深まっているので、今週末のレースに向けてワクワクしています」

 紺色のリバリー(外観)に戻った本来のRB21に乗り込み、常にトップレベルで戦う場所へと歩を進める。その道筋が、今の角田の目には当たり前のように見えている。

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