ウナギ・サヤカ 東京ドームへの道 vol.1
■後編
(前編:WWE帰りの里村明衣子の引退会見に「マジかよ!」 即ワンマッチを決断し、リング上で愛を感じた>>)
2月16日、後楽園ホールでワンマッチ興行を開催したウナギ・サヤカ。対戦相手は、4月29日に引退することを表明している"女子プロレス界の横綱"里村明衣子だった。
【『極悪女王』ブームの裏で感じていた絶望】
――里村選手との試合後は、ウナギさんのマイクも素晴らしかったです。昔のプロレスラーのすごさを讃えたうえで、「今こうやってリングの上で生きてプロレスをしているのは、今の現役レスラーなんですよ」っていう。
ウナギ:Netflixで『極悪女王』が大ヒットした時、私の感覚なんですけど......、あれに出てくるようなレジェンドの人たちが、今の現役レスラーにバトンを渡してくれるもんだと勝手に思ったんですよ。でも、あの時にちゃんと得をしたのは、作品に出てきたレスラーだけなんです。
――バトンを渡してくれなかった?
ウナギ:うん、誰も渡してくれなくて。プロレスラーってそういうもんだと思うけど、「あ、このバトンすらも渡してくれないんだ」って思って、私は絶望というか......見損なったというか。これは絶対、私たちが超えなきゃいけないなというのは、あの時、確信に変わりましたね。だって、現役レスラーは誰もブームに乗っかれなかったじゃないですか。
――どうすればよかったんだろう......。
ウナギ:わかんないです。わかんないですけど......、絶対、渡そうとしてなかった。
――結局、"80年代女子プロレスブーム"で終わってしまった感はありますね。
ウナギ:昔がすごかったのは事実だけど、今には、今しかできない超え方が絶対にあると思うんですよ。熱狂を生むって正義だと思うけど、「こいつらを倒さないと、あの時代は作れないんだな」ってすごく感じました。超えないことには、始まらない。
――そう考えると、ウナギさんがいろいろなレジェンドの選手と試合をしてきたのも、すごく意味があることですよね。
ウナギ:いつかはみんな、やめていくじゃないですか。その前に、その人が背負ってきたものとかを感じたいと思っていて。すべてリングの上に出ると思っているから。確かにレジェンドは強いしすごいけど、それは過去の話。今一番すごいのはウチらでないといけないし、そこで圧倒的に勝たないと、本当の意味で勝てないと思ってて。だから......勝ちたいですね。
【長与千種は絶対的だが「私はいつでもひっくり返したい」】
――里村選手とのワンマッチ興行のバックステージで、「今まで闘ってくれた人たちの気持ちも一緒にリングに上がっている」とおっしゃっていたのが、素敵だなあと思いました。
ウナギ:今まで闘ってくれた人たちもそうだし、アメリカで小橋(建太)さんと試合を観ながら1時間くらいずっとしゃべったことがあるんですよ。
初めて電流爆破をやる前に、長与千種に「マジでやりたくない」って言ったんですよ。そしたら「この方向で受けたら火傷するから気をつけろ」とか、「爆破がバンってなる瞬間、絶対見ちゃダメだよ」とか、いろいろ教えてくれて。そういうのを含めて、私は今リングに立っているかな。
――先日、長与さんにインタビューした時、「ウナギ・サヤカが好きなんです」とおっしゃっていましたよ。
ウナギ:えー! マジ!? うれしい!
――頭が切れるから好き、と言ってたかな。
ウナギ:マーベラスの選手って、全員「長与千種すげえ」って心から思ってるし、"マーベラス=長与千種"じゃないですか。そのイコールを自分に変えなきゃいけないはずなのに、そこまでの概念で思えてないんだろうな。絶対的すぎて。
――あまりにも偉大ですからね。
ウナギ:いい意味で、長与がいるからマーベラスがあるし、だからこそ「絶対に覆らない」ってみんなが当たり前に思っているけど、私はいつでもひっくり返したいと思ってる。
――長与さんもうれしいんじゃないかな。みんなに崇め奉られているなか、ウナギさんだけが対等に話してくれて。
ウナギ:その感じは、他のレジェンドの方たちからも感じますね。なんでこんな偉そうにできるのか自分でもわからないですけど。
【彩芽蒼空に与えたチャンスと試練】
――マーベラスといえば、4月26日の両国国技館では暁千華選手が第1試合に出場します。対戦相手のXはマーベラスの誰か(取材時点では未定)ですが、ウナギさんは2月24日の試合で勝利した彩芽蒼空選手に「(対戦を)自分でつかみ取れ」と言ったわけですよね。誕生日プレゼントとして、最高のチャンスと試練を与えた。
ウナギ:蒼空は千華と同じタイミングで入門して、ずっと一緒に練習していたのを見てきたけど、どこかで弱さがあった。体とか心だけじゃなくて、やっぱりひとつ負けちゃってるんですよね、千華に。
――何が負けてるんだろう......。
ウナギ:全部、ちょっとずつだと思います。体も気持ちもそうだけど、運も。そういう意味では、千華ってむちゃくちゃ運がいいと思うんですよ。それは、もともと持ち合わせているもの。努力してるとか、毎日練習してるとか、そういうことだけが正義ではなくて、やっぱり運をつかまなきゃいけないタイミングはある。運の使い方、人の使い方......そういうのも全部含めて、私は絶対に必要だと思ってるから。
――彩芽選手は、ウナギさんに憧れてプロレスラーになったんですよね。元「ひつま武士(ウナギのファンの総称)」ということで、やはり思い入れがありますか?
ウナギ:初めて私のファンの子が、涙を溜めて「プロレスラーになりたい」って言ってきて。それでデビューしたのが初めてだったので、そういうところも含めて、私にとって一番大事な両国の第1試合をまかせたいなと思った。
第1試合ってメインと同じくらい大事なので、今までの自主興行の第1試合は全部自分がやってきたんですけど。そこをまかせたいと思った反面、ただ呼ぶことはいくらでもできるけど、最後は自分でつかみ取ってほしかった。千華という、一度も勝ったことのない相手に勝って、つかんでほしいです。
――勝てるのかな......。暁千華は強いですよ。
ウナギ:今の蒼空に足りないのは、信念だと思うんです。押さえ込みをやったりとか、物理的なパワーで負けることだけが弱さだと思っているかもしれないけど、絶対に自分の闘い方があるし、自分にしかできないものを見つけてほしい。それが今の彼女の課題でもあると思うので、ひとつ越えてほしいなっていう気持ちはありますね。
(※)取材後の4月10日、彩芽蒼空はマーベラス新宿FACE大会で暁千華に勝利。両国の第1試合出場を決めた。
【「レスラーが不幸になる試合はやらなくていい」】
――4月26日の両国のカードで、他に私が注目しているのは、葛西純vsスーパー・ササダンゴ・マシンです。
ウナギ:そうなんだ! 絶対ヤバいですよ! どうなるんだろう?
――ササダンゴ選手、3月に両国出場と賞金50万円を懸けて行なわれたランブル「金の園」では一斗缶を使ったり、裏拳をやったり、かなりアジャコング選手っぽかったです。
ウナギ:確かに。あのふたり、たぶんシングルはやったことないと思うんですよね。楽しみ!
――「悪人顔選手権」にも注目ですね。
ウナギ:ヤバいですよ。マジでビビると思います。
――予想しようとしてるんですけど、悪人顔で、今リングに上がれる大物って誰だろう......?
ウナギ:たぶんこれは、みんな想像できないと思います。それを私はニヤニヤしながら見てます。
――黒潮Tokyoジャンパン&立花誠吾vsシン・広田さくら&刀羅ナツコも驚きました。まさか刀羅ナツコ選手が来るとは!
ウナギ:そこは私が一番見たいです! まずこの先、一生組むことはない。絶対無理だと思ってたけど、めちゃくちゃ強引に誘ったらイケたんですよ。
――最近、シン・広田さくら選手の評価がものすごく高まっている気がして。「シン・○○」と他のレスラーに扮して、昔はただコミカルなイメージでしたけど、「シン・木村花」と「シン・高山善廣」でリングに上がって以降、感動を与えるものになってきているので。
ウナギ:「シン・里村明衣子」も出てきましたけど、その時に「あ、天才だ」と思いましたね。
――この間、広田選手のトークイベントに行った時に、会場のアンケートで「シン・〇〇が見たい」というのがあって。一番多かったのは、「シン・ウナギ・サヤカ」だったみたいですよ。
ウナギ:えー! そうなんだ!? 私もちょっと見たい......。うわ、でもちょっとヤダな。
――細かい表情とかもマネされるじゃないですか。
ウナギ:めっちゃヤダ! 誇張されすぎる!
――ダイソーの商品で作ったコスチュームを着て。フフフ。
ウナギ:あ、それだったら、ウナギ三四郎(髙木三四郎)と3WAYをやりたい。
――髙木さんは休業中だからすぐには難しいかもしれませんが、見たいカードですね。
ウナギ:ウナギ三四郎は私にとって、神的に素晴らしい人なので。
――そして両国のメインイベントは、白使(新崎人生)&一黒者vsウナギ・サヤカ&彩羽匠。白使とやろうと思ったのは、なぜ?
ウナギ:今まで触れてこなかった人で、かつ闘いたい人って誰だろうと考えた時、白使しかいないなと。マジで劣化しなくないですか?
――白使の魅力は?
ウナギ:"清く正しいプロレス"なんですよね。大仁田(厚)とか、めっちゃすごいけど、やっぱり邪道というか。プロレスラーとして生きるための強い悪みたいなのがあって、すごくやりたいって思ったけど、その正反対の人が白使だと思うんですよ。私から一番遠い人なのかなって思います。
――パートナーの一黒者というのは、誰なんですか?
ウナギ:わからないです。この日、新登場!
――この興行を通して、どんなことを実現したい?
ウナギ:4月27日、引退を懸けて闘う地獄のような興行があるじゃないですか(※スターダム横浜アリーナ大会で、中野たむと上谷沙弥が引退を懸けて闘う)。女子プロレス界の歴史を変える興行になると思うんですけど、私はレスラーが不幸になる試合はやらなくていいと思っている。
プロレスで幸せにできる興行をやっていきたいんですよね。もちろん幸せになるばっかりじゃないですけど、やっぱり最後はそれがプロレスの醍醐味というか。何度も立ち上がるレスラーの姿を見て、「明日も生き抜こう」と思ってもらいたいというのが、一番の思いですね。
【プロフィール】
■ウナギ・サヤカ
1986年9月2日、大阪府生まれ。2019年1月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会にて「うなぎひまわり」としてデビュー。2020年11月、スターダムに初参戦。コズミック・エンジェルズを結成し、12月、アーティスト・オブ・スターダム王座を戴冠。2021年7月、フューチャー・オブ・スターダム王座を戴冠。2022年10月よりフリーになり、"ギャン期"と称して他団体に参戦。2023年10月、KITSUNE世界王座の初代王者、2024年1月6日、JTO GIRLS王者、1月7日、アイアンマンヘビーメタル級王者となり、三冠王となる。2024年1月、9月、後楽園ホールにて2度の自主興行を開催。168cm、54kg。X:@unapi0902