風間八宏のサッカー深堀りSTYLE
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析する。
今回は、悲願のチャンピオンズリーグ(CL)制覇に進むパリ・サンジェルマンにあって、覚醒とも言えるゴール量産を見せているウスマン・デンベレを取り上げる。
【歩幅の広さと足の運びの速さ。両足を自由に使える】
今シーズン、誰も予想していなかった姿に大化けしたのが、パリ・サンジェルマンのフランス代表FWウスマン・デンベレだ。
5月15日に28歳の誕生日を迎えるデンベレは、これまでも世界トップレベルの選手として知られていたが、それは規格外のスピードとドリブルテクニックを武器とする典型的なウインガーとして、だった。ところが、今シーズンの途中、とりわけ今年に入ってからはルイス・エンリケ監督が目を丸くして驚くほどの変貌ぶりでゴールを量産。昨年12月まではリーグ戦16試合で8ゴールだったが、年が明けてからはリーグ戦15試合で何と13ゴールをマークする(第32節終了時点)。
今から10年前に、レンヌでトップデビューを果たしたシーズンにリーグ戦12ゴールを記録したことはあった。しかし、以降はドルトムント時代、バルセロナ時代、そして昨シーズンのパリ・サンジェルマンでもシーズン二桁を数えたことは一度もないのだから、驚きだ。
チャンスメイカーからストライカーへ。CL準決勝のアーセナルとの大一番(第1戦)でも決勝ゴールを決めたデンベレは、今やバロンドール候補との声も聞かれるほどのスーパーな選手に生まれ変わったと言えるだろう。
そんなデンベレの特長と変化のポイントについて、現在南葛SCで監督を務めながら解説者としても活躍する風間八宏氏に解説してもらった。
「デンベレ最大の特長は、歩幅の広さと足の運びの速さにあります。
歩幅が普通の選手とは違うので、すぐにボールに追いつける。足の運びも速いから体からボールが離れない。相手をかわすドリブルをすることもありますが、ほとんどは突破するためのドリブルをします。それは、普通は届かない場所にボールがあるように見えても、デンベレにとっては余裕で自分が届く範囲に置けているからです。対峙する相手とは、その歩幅と速さの違いが大きいので、簡単に飛び込めませんし、ボールを奪えません。
加えて、左右両足を高いレベルで使えることが、その武器をより強力なものにしています。どちらに行くにも両足が同じレベルで使えるのでスピードも落ちないうえ、対峙する相手にとってはどちらか一方だけを切って守ればいいというわけにはいきません。そういう意味では、守る側の準備がすごく難しい選手ですね」
確かにデンベレは独特なプレースタイルの持ち主だ。デビュー当時から最大の武器とされているドリブル突破は、風間氏が指摘したように、歩幅の違いや両足を自由に使えるという特長があってこそのスタイルと言えるだろう。
【シュートコースを見つけ、決める技術が備わってきた】
では、そんなデンベレがなぜ突如としてゴールを量産するようになったのか。風間氏に、その変化のポイントについて聞いてみた。
「もちろん、感覚的なところは本人にしかわからない部分だと思いますが、外から見ていても明らかに以前と違っている点はありますね。
そのように切り出した風間氏は、まずシュートを覚えたという部分について、具体的に説明してくれた。
「シュートがうまい選手は、シュートコースを見つけるのがうまいのと、見つけた場所に正確にボールを蹴る、つまりシュートを決める技術を持っています。以前のデンベレは力任せにボールを蹴って枠を外していた印象がありましたが、それはシュートではなく、キックしていたからだと思います。でも、現在のデンベレはシュートコースを見つけられるようになって、そこにシュートする技術も伴ってきました。
実はシュートでいちばん難しいのは、一瞬で狙う場所を決めることなんです。狙う場所とは、基本的にはGKが最も止めるのが難しいゴールの四隅で、特に四隅の下のほうの2カ所に正確にシュートを決められるかは、本物のストライカーになれるかどうかのカギになります。
現在のデンベレのシュートシーンを見ていると、ベストなシュートコースを見つけて、そこに決める技術も備わっている。それは、シュートを覚えたということです」
【ゴールを決めるためにプレーするようになっている】
続いて、デンベレがゴールを決めるためにプレーをするようになった点についても解説してくれた。
「ゴールに近い真ん中でプレーする機会が増えたというポジション的な影響もありますが、やはりシュートを覚えたことによって、左右に流れてプレーするなかでも、ゴールを決めるためのプレーをするようになった印象を受けます。
昨シーズンまではチームにキリアン・エムバペという絶対的なストライカーがいたので、ポジション的なテリトリーの問題もありますし、彼にゴールを決めてもらうチャンスメイクのためにプレーすることが多かったと思います。バルセロナ時代も、リオネル・メッシやルイス・スアレスといった点取り屋がいたので、そのようなプレー選択をするのは当然でしょう。
ただ、今シーズンのパリ・サンジェルマンには絶対的なストライカーがいるわけではないので、シュートを覚えたことによって、自分で決めることを最優先に考えるようになったと思いますし、それがプレースタイルの変化にもつながっています。
それは、ボールの運び方ひとつを見てもわかりますし、ポジションの取り方もそうです。多くのプレーや動きがゴールを決めるための選択になっていて、その部分も以前とは違っています。そういう意味では、相手に捕まらないうえに、左右両足で正確にシュートを決める技術も備わったので、ますます相手にとっては厄介な選手になったと思います。
いずれにしても、シュートを覚えた選手でなければ1シーズンで20ゴール以上を決めることはできないので、本物のストライカーになったと言っていいでしょう」
パリ・サンジェルマンが悲願とするCL制覇のためには、どうやらデンベレのゴールがカギとなりそうだ。