SVリーグ男子初代王者に輝いたのは、サントリーサンバーズ大阪だった。

 サンバーズの髙橋藍は、チャンピオンシップのMVPに選ばれている。

準決勝のウルフドッグス名古屋戦、決勝のジェイテクトSTINGS愛知戦と、大接戦となった試合で、勝敗を分けるプレーをやってのけた。驚くべき胆力だった。

「負けず嫌い」

 髙橋本人はよく言うが、それは生半可なものではない。負けを嫌う、というよりも、憎んでいるのだろう。勝利に飢えることで、劣勢のイメージを失わない。最悪に近い状態を想定し、そこから立ち直れる。勝負への執着だけでなく、冷徹さも備えているのだ。

【SVリーグ男子】髙橋藍が振り返る優勝までの道筋 「ギアが上...の画像はこちら >>
 決勝のSTINGS戦1試合目、髙橋は1、2セットと、本来の調子ではなかった。3セット目途中には一度、ベンチへ下げられている。しかし、彼は腐ったりしない。極めて論理的なアプローチで、自らのメンタルを再起動した。

「向こうがどのようにブロックするのか、どうブロックをしないといけないのか、冷静に見るきっかけになりました。

コートでは冷静さを欠いてしまうこともあるので。1、2セット目はサーブで崩されていることも多く、対応策を考えていました。1回、コートの外に出たからこそ、フォーカスし直すことができましたね」

 禍を転じて福となす、といったところか。4セット目途中から再びコートに入ると、プレーをアジャストさせていった。そしてファイナルセットはレシーブ成功率が向上。勝利の瞬間は、彼が巧みなサーブで崩し、ドミトリー・ムセルスキーがシャットアウトした。

 最近はスポーツ界でも、ビジネスの世界から入ってきた「マインドセット(心の持ち方、心構え)」という用語を使うことが多くなってきた。それは有用だが、相手があるボールゲームでは、適応できないと意味がない。セットされた状態のまま、アップデートできないとバグを起こす。状況を受け入れ、形を変えていく柔軟さこそが欠かせないのだ。

 コートにおけるメンタルの強さを表現するなら、「しなやかさ」「撓(たわ)み」のほうがふさわしい。

【戦いのなかで強さを増した】

 その点、髙橋は天才的と言える。

なぜなら、相手が怯んだ瞬間、もしくは混乱した隙を決して見逃さないからだ。

 決勝の2試合目、第1セットで象徴的なシーンがあった。サンバーズは、14-15とリードを許していた。第1戦から会場が変わった影響か、自慢のサーブでミスを連発。そのなかで、STINGSの関田誠大がレシーブでベンチサイドに突っ込み、足を痛めるアクシデントがあった。STINGS陣営に「関さん、大丈夫か?」と、わずかながら確実に動揺が走る。

 そこで髙橋は渾身のサーブで襲い掛かり、見事にエースを獲得した。さらに連続でブレイク、逆転に成功する。結局、デュースに持ち込まれることになったが、最後もやはり彼のスパイクが敵ブロックに吸い込まれ、29-27で競り勝った。いつ仕掛け、畳みかけるべきか、そこを知り尽くしているのだ。

「相手が出血したら、その傷口を探して抉れ。そして息の根を止めるまでやめるな」

 欧米のボールスポーツでは、そんな格言がある。

髙橋はそれを実行できる。

「ショートサーブをあれだけうまく打てるのは、(SVリーグで)藍くらい。おかげでほかの選手も生きてくるのですが......あそこで(エースを)取ってくれるのは心強いですね。向こうもアクシデントがあって、難しいところ。勝負を分けたプレーかもしれません。」

 決勝で同じコートに立ったミドルブロッカー、佐藤謙次の証言だ。

 今シーズンを通じ、髙橋は戦いを重ねるなかで強さを増してきた。それは漫画のヒーローの感覚に近い。強敵との対決で磨かれ、実力を底上げ。足首の痛みとも向き合いながら、最大出力を出した。その積み重ねが優勝の栄光だった。

「(パリ五輪後に合流した)チーム作りの段階で、開幕戦はブルテオンに3-0で敗れました。よくないスタートをきったと思います」

 髙橋はそう振り返りながら、優勝した理由をこう続けている。

「長いシーズン、自分たちのバレーを信じてひとつずつ組み立ててきました。(五輪の疲労や足首のケガなど)コンディションを整えながら、(セッターの)大宅(真樹)さんとのコンビを確認し、レセプションでリベロとの関係性を高めてきました。天皇杯優勝という結果で、手ごたえを感じられたのは大きかったです。そこを節目に、レギュラーシーズン2位以上がかかった試合(ブルテオン戦)で結果(連勝)を出し、(チャンピオンシップ)セミファイナルでもギアが上がるのを感じました。取るべきところ、勝たないといけないところで自分たちのパフォーマンスを出せたと思います」

 SVリーグ開幕以来、髙橋はバレーボールの人気向上のため、先頭に立って突っ走ってきた。彼自身の知名度も上がった。同時に風当たりも強くなったが、堂々とSVリーグ初代王者の称号を勝ち取った。それはチームでつかんだものだが、MVPにふさわしい活躍だったことは間違いない。

「バレーボールだけでなく、歴史に残るアスリートになりたい。それがバレーボールにもつながるはずなので」

 髙橋は言う。そのスケール感はほかにはない。新時代を切り拓きつつある男にとって、SVリーグ初代王者も通過点。

次に見せる輝きが楽しみだ。

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