現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 ラ・リーガは今週末の最終節を残すのみ。現在11位のレアル・ソシエダは、残念ながら来季の欧州カップ戦出場権は獲得できなかった。

 今回はスペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、久保建英の今季のパフォーマンスについて、数字を見ながら総括してもらった。

【チームの不調で数字は伸びず】

 久保建英の今シーズンを評価するのは簡単ではない。ひと言で言うなら、"不安定さ"が顕著に現われたシーズンだった。輝きを放って決定的な役割を果たした瞬間があった一方、違いを生み出せず凡庸な選手になってしまうこともあったからだ。

久保建英は今季孤軍奮闘 スペイン人記者が示す驚愕のデータ「ケ...の画像はこちら >>
 データを見ると、久保の成績は例年に比べて落ち込んだわけではないが、彼が常々語っているような進化という点では、残念ながら思っていた数字を達成できなかったようだ。チームがチャンスを作り出しゴールを決めるのに苦労した影響を、今季は大きく受ける形になった。

 ラ・リーガでは5ゴールを挙げ、その5試合すべてで勝利。このデータを見れば久保がラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)においていかに重要な選手であるかがわかる。

 しかし、近年、久保とラ・レアルの進化を追ってきた私の観点から見ても、イマノル・アルグアシル監督指揮下において、今季のチームは攻撃が停滞し、最もひどいプレーをしたシーズンだった。そんななかで久保が大きな輝きを放ちながら進化を続けるなど不可能だ。チームの状況は久保に直接的なダメージを与えた。それ以外に説明などできない。

 今季のラ・レアルの攻撃は久保にボールを渡し、彼が個人技で打開するという戦術に頼っていたため、対戦相手に簡単に読まれていた。

久保の特徴を熟知した相手にとって、彼を抑えるのは比較的容易だった。ドリブルさせないようにマーカーをふたりつけ、必要ならばファウルを連発して潰すだけで十分だったのだ。

 そのため、彼のパフォーマンスを評価・分析する際、「チームの不調により久保の成績も期待どおりとならなかった」という点を根底に話さないと、非常に不公平なものになる。

 そうしたなか、今季の久保について強調したいのは、彼がどんな状況であっても決して姿を消さなかったということだ。

 今季の久保は献身的にトライし続けた。これまでラ・リーガでドリブルを131回仕掛けており、パスは828本中634本を成功させ、失敗は194本しかない。彼にとってベストシーズンではなかったが、これらの数字は常にプレーに関与してきたことを表わしているし、チームがいいシーズンを送れなかった原因が彼にあるのではないと再確認できるものになっている。

【ラ・リーガでアシストを一度も記録していない】

 また、久保に関して最も驚かされるデータがある。それはラ・リーガでアシストを一度も記録していないことだ。これは久保だけでなく、ラ・レアルにとってもネガティブなデータである。

 クロスを77本上げているが、1本もゴールにつながっていない。それはなぜだろうか? 久保が狙いを定め、意図のあるクロスをいくつも入れているにもかかわらず、誰もシュートを決められなかったことを私は覚えている。その理由を説明するのは簡単だ。

ラ・レアルはシーズンを通じて決定力のあるストライカー不在に苦しんできた。

 キャプテンのミケル・オヤルサバルはこれまで多くのゴールを決めてきた選手だが、生粋のセンターフォワードではなく、ラ・リーガでは久保のクロスやパスをものにできていない。そしてオーリ・オスカルソンは今季、爆発的な活躍を見せられなかった。つまり、久保がラ・リーガで1アシストも記録できていないのは、チームの決定力不足が原因である。

 チームメートのセルヒオ・ゴメスも――ラ・リーガでも特にキックの精度が高い選手のひとりだが――なぜアシストランキングでトップに立てていないのか、とクラブ内で冗談交じりに話されている(5アシストで22位)。ボールを非常にうまく蹴ることができる彼の正確で美しいクロスであっても、誰もゴールを決められないという信じられない事態が、チームの決定力不足を物語っている。

【ラ・リーガで2番目に多いファウルを受けた】

 質の高いボールを蹴ることができるセルヒオ・ゴメスと久保は本来、ラ・リーガのアシストランキングで上位に名を連ねなければいけなかった。しかし、今季はチームの決定力不足が顕著だ。それは前節ジローナ戦でも明らかで、久保のクロスに誰も合わせられなかった。

 また、久保はジローナ戦でタイトなマークを受け、特に後半動きを封じられていたが、彼がラ・リーガで2番目に多い66回ものファウルを受けている選手であることも忘れてはならない。その上にはヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)がいるだけである。久保が今季一度もケガをしなかったのは奇跡のように思える。

 ラ・リーガを代表するドリブラーである久保が、ファウルに苦しめられるのは普通のことだ。そのため、チームメートが彼のプレーをうまくサポートできなかったこと、イマノルが彼にもっと楽な状態でドリブルを仕掛けられるような戦術を組まなかったことが残念だ。もしそれができていたなら久保のシーズンは大きく変わっていただろうし、ラ・レアルのパフォーマンスもはるかにいいものになっていたはずだ。

 以上のことから、久保の今季のパフォーマンスは「悪くはなかった」と言えるし、「もっとできたはず。ワールドクラスの選手として期待されるレベルに達しなかった」とも言うことができるのである。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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