セルジオ越後の「新・サッカー一蹴両断」(9)

セルジオ越後に聞く、今季の欧州組の評価「三笘のプレミア2桁得...の画像はこちら >>

 欧州各国リーグのシーズンが終了。今季も多くの日本人選手がプレーしたなか、評価をグッと上げた選手は? 一方で来季に向けて不安を残した選手は? ご意見番のセルジオ越後氏に聞いた。

【目指すべきはソン・フンミンのレベル】

 全体的に見れば、いいシーズンだったんじゃないかな。

 まず、所属しているクラブがタイトルを獲った選手が多かったね。遠藤航(リバプール)がプレミアリーグで優勝。出番は少ないながらも、持ち味を発揮した。同じくイングランドの鎌田大地(クリスタル・パレス)はクラブ史上初のFA杯優勝に貢献。彼も今季は苦しい時間が長かったものの、決勝ではスタメンに名を連ねた。

 また、ドイツの伊藤洋輝(バイエルン)、ポルトガルの守田英正(スポルティング)、ベルギーの町田浩樹(ユニオン・サンジロワーズ)、イングランド2部(チャンピオンシップ)の田中碧(リーズ)もリーグ優勝。伊藤は故障でシーズンの大半を棒に振った一方で、田中はリーグの年間ベストイレブン選出と、それぞれの活躍度は違うけど、タイトルを獲得できた経験は貴重だ。

 あとは、おなじみのスコットランド勢だね。前田大然と旗手怜央(いずれもセルティック)がリーグ優勝。まあ、チームは4連覇だし、リーグ内のレベル差を考えると驚きはない。ただ、それでもふたりとも主力としてシーズンを通して活躍した。特に、前田の年間リーグMVPは評価していいんじゃないかな。

 こんなに日本の選手が所属するクラブがタイトルを獲得したシーズンは過去に記憶がないし、明るいニュースを届けてくれたと思う。

 また、いわゆる5大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス)で2桁得点を挙げた選手が4人出たことも話題になった。

 三笘薫(ブライトン)は相手に研究されたこともあってか、ドリブル突破は減ったものの、決定力は高かった。レベルの高いプレミアで、しかもFWではなくウイングが10点取るのは立派だよ。同じくサイドでプレーする堂安律(フライブルク)も10点。もともと技術が高く、頭のいい選手だけど、守備の役割を果たしながら、ゴールという目に見える結果も出した。

 中村敬斗(スタッド・ランス)、町野修斗(キール)も、それぞれ下位に低迷するチームでチャンスも少ないなか、11点ずつ決めたのは大したものだ。ふたりともシュートがうまい。特に、FWの町野はこれまでなかなか日本代表に招集されず、たまに招集されても出番がほとんどなかっただけに、いいアピールになった。さすがに森保一監督も彼の扱いを変えるだろう。

 ただ、町野に限らず、来季も同じような活躍ができるかどうかが大事。4人はいずれも今オフの移籍の可能性が取りざたされている。

よりレベルの高いチームに移籍しても、2桁得点を決められるか。僕はそこを求めたい。

 もちろん、5大リーグで2桁得点を挙げることは1シーズンだけでも大変なんだけど、たとえば同じアジア人で、韓国代表のソン・フンミン(トッテナム)みたいな選手がいるわけでしょ。彼は今季こそいまいちだったけど、昨季までプレミアで8季連続2桁得点を挙げ、2021-22シーズンには得点王になっている。

 仮にもワールドカップ優勝を目標に掲げる国の代表選手なら、そういうレベルを目指さないといけないということ。当然、選手たちもそう思っているだろうね。だから、メディアもファンも「日本人最多得点だ」などと言って喜ぶのではなく、もっと高いところを求めるべき。今の日本代表の攻撃の中心である久保建英(レアル・ソシエダ)にも移籍の噂があるけど、彼も含めて、攻撃的なポジションの選手が、来季、どこのチームでどんな結果を出すのか。

 かつてヒデ(中田英寿)も香川真司もビッグクラブ(それぞれローマ、マンチェスター・ユナイテッド)に移籍して、そこでは思うように活躍できなかった。常に数字を求められるポジションの選手はそれだけ競争が激しくて大変なわけだけど、そろそろその壁を乗り越える選手に出てきてほしいね。

【守備的なポジションの選手はよくも悪くも安定している】

 攻撃的なポジションのそのほかの選手に関して言えば、前田にもプレミア移籍の噂がある。リーグMVPなのだから当然だろう。

でも、彼に関して言えば、よい条件のオファーが届かなければ、慌てて移籍する必要はないと思う。

 チーム選びを間違えると、今季途中にセルティックからレンヌに移籍して出場機会を失った古橋亨梧の二の舞になる。ワールドカップ前のシーズンにそれは避けたい。セルティックは国内リーグのレベルはともかく、チャンピオンズリーグに出られるので、そこでアピールを続けるのは悪くないと思う。

 あと、個人的に心配しているのは伊東純也(スタッド・ランス)。低迷するチームで酷使されたせいもあるのか、今季のパフォーマンスは明らかによくなかった。32歳という年齢を考えても、北中米ワールドカップ出場へ向けて来季は正念場。かなり心配だよ。

 一方、守備的なポジションの日本人選手は相変わらず安定している。真面目な国民性で、規律正しくプレーできるので評価もされやすい。よくも悪くも、ある程度の計算が立つ。

 ただ、そのなかでも、GKの鈴木彩艶(パルマ)はすごく伸びた。

リーグ優勝したナポリを無得点に抑えた試合もあったね。パルマは弱いチームだからたくさんシュートを受けて、それがいい練習になったのかな。まあ、それは冗談だけど、以前は少しおどおどした感じもあったのが、今は落ち着いているように見える。まだ22歳だから将来が楽しみだ。

 また、6月のワールドカップ最終予選に招集された佐野海舟(マインツ)はリーグ戦全34試合でスタメン入りし、そのうち32試合にフル出場。遠藤の後継者候補だね。

 その遠藤に関して言えば、リバプールでは出番が少ないし、個人的には日本メディアの「クローザー」という妙な褒め方も気になる。ただ、戦力外というわけではないし、ステップアップの考えにくい32歳という年齢、来年にワールドカップがあることを考えると、今の立ち位置は悪くないので、残留すべきだろう。

(10)>>サッカー日本代表の最新メンバーに、セルジオ越後「特に期待したいのは町野と藤田」「長友はいつ使うのか」

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