横浜F・マリノスが、ようやく今季J1で2勝目を手にした。クラブ史上ワーストの連敗記録も、どうにか7でストップ、である。
それでも横浜FMは、依然として最下位。シーズンの折り返し地点が目前に迫った第18節での2勝目は、あまりに時間がかかりすぎたと言うしかない。
だが、今の横浜FMにとって、勝ち点3に勝る収穫はない。残された試合でひとつでも多くの勝ち点を積み上げていくことでしか、失地回復はできないのも確かである。
それを考えれば、首位・鹿島アントラーズから手にした勝利は、今後の反転攻勢へ向けた足掛かりとなり得るものだったのではないだろうか。
前節まで7連敗で最下位に沈む横浜FMとは対照的に、相手の鹿島は7連勝中の首位。これほど明暗分かれる対戦も珍しく、連敗中の最下位チームにとっては、あまりに酷な顔合わせだったと言ってもいいかもしれない。ところが、ふたを開けてみると、横浜FMが前半27分までに3点をリードするゴールラッシュ。これで目を覚ました鹿島が前半36分に1点を返すも、その後はスコアが動かず、横浜FMが3-1で勝利した。
「いいゴールだけでなく、いいサッカーをしていた。ハードワークを見せられた」
今季途中に就任したパトリック・キスノーボ監督の言葉どおり、この試合では、横浜FMの選手たちの前向きに鹿島へと挑む姿勢が際立っていた。
それを示すひとつの要素が、高く保たれたDFラインだっただろう。
指揮官の言葉を借りれば、「ハイラインはこれまでも求めていた部分であり、他の試合でもやっていきたかったが、できているときと、できていないときがあった」。敗戦が続く苦しい状況では、選手たちの意識がどうしてもゴールを守ろうとする方向に傾き、DFラインが後退しがちになるのも無理はなかった。
だがこの日は、右サイドバックの加藤蓮いわく、「この前(4日前に行なわれたJ1第13節)のヴィッセル神戸戦も、すごくラインが低い状態での失点だったので、(相手の)FKのときも含めて全体的にラインを押し上げようと意識していた」。
最終ラインを高く設定することで、高い位置でコンパクトな陣形を保ち、前から相手にプレッシャーをかける。その戦い方が、鹿島に対して有効だったのはもちろんだが、連敗中で弱気になりかねない自らの士気を高めることにもつながっていたに違いない。
「もともと去年も(DFラインを高く保つ)アグレッシブラインを引いていたので、怖さはない。選手自身もみんな(やり方は)わかっている」(加藤)
「センターバックのラインコントロールがすばらしかった。僕ら(ボランチ)もただ引くだけでなく、(相手の出方を)うかがいながらけん制するのが大事だった」(山根陸)
とはいえ、首位を走るチームを相手に3点をリードした試合が、"出来すぎ"だったのも事実だろう。
数少ない攻撃機会のほとんどすべてを決定機につなげ、前半だけで3つものゴールを生み出す。そんな試合は、そうそうあるものではない。
実際、今季の横浜FMは、第12節の清水エスパルス戦で後半途中まで2点をリードしながら、そこから3点を失い、逆転負けを喫しているのである。
「(リードしてから)あそこで引いちゃいけないし、とにかく相手が嫌なことをやっていかないといけないなかで、後手に回ったとしても粘り強く守るところは徹底した」
そう振り返る山根が、「3点入ったのはデカかった。
危機的状況にあるなか、ひとつの勝利に過度な期待を寄せるのは禁物だ。
それでも、この勝利で悪い流れが変わるかもしれない。鹿島戦が、そうした機運を高める試合だったことは間違いない。
今季リーグ戦初勝利を挙げた第6節のガンバ大阪戦では、結果とは裏腹に、ピッチ上の選手たちには迷いや戸惑いがうかがえ、選手全員の矢印が同じ方向を向いているようには感じられなかった。だが、2勝目は違った。
植中朝日が、「今までやってきたマリノスのサッカーが今はできていないが、そういう割りきりも大事」と語るように、意地やプライドをかなぐり捨て、腹をくくったチームは、ようやく針路が定まったように見える。
「次の試合が、勝ったあとの試合が、すごく大事。もっともっとチーム全体でよくしていければいい」(加藤)
「ここで満足する人はいない。いかに連勝できるかがカギになってくるので、次の試合もいい準備をしてやっていきたい」(植中)
横浜FMは今、J2降格圏から抜け出す大きなチャンスを迎えている。
シーズンが終わり、今季を振り返ったとき、ここが重要な分岐点だったと語られるであろう、勝負のときである。