福田正博 フットボール原論
■第18節まで終了したJ1は、ほぼシーズンの半分を消化したことになる。変わらずの混戦模様のなか鹿島アントラーズが首位に立っているが、福田正博氏に今季前半戦で気になるチームに言及してもらった。
【強い鹿島が戻ってきた】
J1は第18節まで終了し、シーズン折り返しが見えてきた。試合日程の関係で1、2試合の差異はあるなかで、首位には鹿島アントラーズが立っている。Jリーグ誕生から2010年代までつねに優勝争いの主役を張ったクラブだが、近年は優勝争いに加わることがあっても、主役を後方から追いかける存在だった。しかし、今シーズンは我々の記憶にある"強い鹿島"が戻ってきた印象だ。
今季から指揮をとる鬼木達監督は、現役時代は"常勝・鹿島"でプレーし、監督としては昨季まで川崎フロンターレを率いて4度のリーグ優勝。勝者のメンタリティーを知る監督のもと、鹿島は忘れかけていたものを取り戻したような戦いぶりを見せている。
新監督のもとで、選手起用などの戦術的な側面が奏功しているのはもちろんある。だがそれ以上に、選手一人ひとりが球際の強さと激しさ、相手の隙をしたたかに狙う姿勢、勝ちにこだわったプレーをピッチのなかで体現していることが、現在の成績につながっていると感じる。
そして、現在の上位争いで触れておきたいのが、2位の柏レイソルと4位の京都サンガF.C.だ。
【ポゼッションサッカーで負けにくい柏】
昨季17位で首の皮一枚J1に踏みとどまった柏は、今季からリカルド・ロドリゲス監督を迎えた。徳島ヴォルティスや浦和レッズを率いた手腕を振り返り、個人的には開幕前から柏にはリカルド監督の志向するサッカーがフィットすると見ていたのだが、それでもこれほどの好成績で進むとは思っていなかった。
リカルド監督がスペイン人で、選手のポジショニングを重視するポゼッションサッカーという部分を切り抜くと、攻撃的なサッカーを志向する監督に思われるかもしれない。だが、実際は彼のポゼッションサッカーは、"失点リスク"を減らすためにある。
それは数字にも表れている。
得点も失点も少ないので、負けない確率が高まっている。柏の引き分け数は7試合で、リーグ最多8試合の川崎に次ぐ。敗戦数2はリーグトップの少なさ。勝ち点1を確実に積み上げて、上位争いに加わっているのだ。
選手起用でもリカルド監督らしいと思うのが、FWの使い方だ。細谷真大という日本代表FWではなく、垣田裕暉や木下康介を重用している。垣田は前線でよく走ってハードワークし、チャンスの時は泥臭くゴールを決める勝負強さがある。そうした選手をフィニッシュワークのところに起用するのは、リカルド監督のサッカー観が実によく表れていると思う。
リカルド監督と垣田は徳島時代に一緒にJ1昇格を勝ち取ったことがあり、信頼関係が構築されている。その点で言えば小泉佳穂を獲得できたのも大きい。
監督としては、自身の志向するサッカーを理解する選手たちがいるのは心強い。彼らが監督の意図をピッチでしっかり体現することは、就任1年目のリカルド監督のサッカーの浸透を助けている面はあるはずだ。
選手個々にフォーカスすれば、熊坂光希の存在は欠くことができないものがある。中盤の底でのインターセプトや相手陣でのパス展開など、彼がリカルド監督の求めるボールの動かし方を成立させていると言えるだろう。
柏はこれから先も得点力で苦しむかもしれないが、ポゼッションができる限り大きく崩れることはないのではと見ている。これからも上位争いをかき回してほしいと思う。
【走力をベースに戦う京都】
京都も昨季は残留争いを意識する戦いとなったが、そこでの打開策となったFWラファエル・エリアスが今季も効いている。昨季は夏のチーム加入以後の15試合で11得点と高い決定力でチームを助けたが、今季は開幕から16試合で8得点。4月は鹿島戦のハットトリックを含む5得点1アシストで月間MVPを受賞した。
5月3日のセレッソ大阪戦では10分で交代となり戦線から離脱したが、その後もムリロ・コスタ、長沢駿といった選手たち奮起して、続く4試合は2勝1分1敗。ラファエル・エリアスの状態は気になるところだが、チーム全員の走力・運動量をベースにして戦うチームだけに、勝ちきれなくとも、負けが込むことはないのではと見ている。
何より京都を率いる曺貴裁監督には、長い指導者キャリアに裏打ちされた豊富な引き出しがあるだけに心配はしていない。
【昨季と似た迷走を繰り返した横浜FM】
一方、心配なのが最下位に沈む横浜F・マリノスだ。第18節終了時(17試合消化)で2勝5分10敗の勝ち点11。19位アルビレックス新潟とは勝ち点で5離されている。
今季はスティーブ・ホーランド新監督のもとで幕を開けたが、キャリアのなかで初めてのトップチーム監督だった。日本での指導経験もなく初めてのJリーグに加え、リーグ戦と並行してACLエリートでの戦いもあるという難しさがあった。
ただ、それらは事前にわかっていたことで、就任から解任される4月までの11試合で1勝5分5敗は、起こるべくして起こった結果とも言えるだろう。後任はホーランド体制でアシスタントコーチをつとめたパトリック・キスノーボ監督が就いたが、リーグ戦は5連敗。前任者からの敗戦を含めればチーム史上初の7連敗。
問題は昨季も似たようなケースでチームが迷走したということだろう。昨季はハリー・キューウェル監督でスタートしたが夏場に解任となり、ジョン・ハッチンソン(現ジュビロ磐田監督)がシーズン終わりまで指揮をとった。
力のある選手が揃うだけに、選手たちがモチベーションを取り戻せれば、7連敗はまずない。
それでも、J1はよくも悪くもトップから下位までの実力差が小さいリーグだ。3月末の時点で横浜FMの少し上にいた浦和レッズは5連勝をマークして一気に順位を4位まで上げた(現在は5位)。横浜FMも選手たちの顔ぶれを見れば5連勝はできる底力はある。時間は限られていると理解して臨んでくれることを期待している。
後編「浦和レッズの今季前半戦」へつづく>>