福田正博 フットボール原論

■J1開幕当初は下位に沈んでいた浦和レッズだが、4月の5連勝を経て第18節終了時で5位にまで順位を上げた。来月にはクラブワールドカップも控えるなか、チームが好転した要因をOBの福田正博氏に聞いた。

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【渡邊凌磨の復帰】

 リーグ戦において連勝のパワーは圧倒的だ。よくメディアでは「5試合負けなし」という表現を使う。ただ、5試合連続で引き分けでも、1勝4分けでも、5試合負けなしに該当する。5試合引き分けなら勝ち点は「5」で、後者なら「7」になる。だが、5連勝の勝ち点は「15」。これが一気に積み上がったのが浦和レッズだった。

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 今季は開幕から波に乗れず、3月までのリーグ戦7試合は1勝4分2敗で、手にした勝ち点は7だった。それが4~5月の12試合では5連勝を含む7勝2分3敗で、勝ち点23を上積みし、一気に上位争いへと加わってきた。

 チームが大きく改善した要因はいくつかあるが、渡邊凌磨が故障から復帰したのが大きい。得点力が課題のチームにあって、渡邊凌磨はチームでもっともシュートがうまい選手。彼が戦列に戻ったことで、ほかの選手たちへの得点へのプレッシャーが取れたかのように思う。

 マチェイ・スコルジャ監督のシーズン前の計画では、渡邊凌磨をボランチに置いて、彼の前線へ出ていく強みを生かそうとしていた。だが、復帰後はトップ下に置いたことが奏功し、チームが好転した。

渡邊凌磨の高いシュート能力を生かすなら、より相手ゴールに近いほうがいいと思っていただけに、このスコルジャ監督の決断はすばらしかったと思う。

 渡邊凌磨がトップ下になったことで、それまでトップ下をつとめた松本泰志は広島時代もつとめたダブルボランチの一角へ。このポジションのファーストチョイスは安居海渡とサミュエル・グスタフソンだが、ケガや疲労などの負荷が大きいだけに、松本を加えた3選手で回せるようになっているのは心強い。

【松尾佑介のトップ起用】

 チーム好転の要因のもうひとつは、1トップに松尾佑介を起用したことだ。開幕当初はチアゴ・サンタナがスタメン起用されたが、4月からは松尾がスタメンに座った。松尾はチームに復帰1年目の昨季はコンディション面で精彩を欠いたが、今季は復調をアピール。開幕から途中出場で信頼感高まるパフォーマンスを続けてきたことが、スコルジャ監督の決断の後押しになったのだろう。

 5連勝の皮切りとなった4月13日のFC町田ゼルビア戦で持ち味のスピードとキレ味のいいドリブルで中央を突破してゴールを決めた。続く京都サンガF.C.戦、5連勝目となった東京ヴェルディ戦でも得点を奪い、1トップとしての役割を果たした。その後は相手に研究されたりしてゴールはないものの、スコルジャ監督が9番タイプの1トップを置くのをやめる決断ができたのは、松尾という存在があればこそだろう。

 選手起用の面でスコルジャ監督に柔軟性が表れたことで、マテウス・サヴィオを中央に置き、松尾が左サイドでプレーするという選択肢も生まれている。これはチームが長丁場を戦い抜くには大切だ。調子のいい選手を起用しながら戦うには、時には型から出なければいけないこともあるからだ。

 リーグ戦は5連勝の効果もあって、首位の鹿島との勝ち点は7差まで詰まり、選手たちのモチベーションは高い。その状況でいよいよ迎えるのが、FIFAクラブワールドカップだ。各国代表が争うワールドカップとは異なり、世界中から能力の高い選手をかき集めて形成できるクラブが争う今大会は「真の世界一強いサッカーチーム」が決まる大会とも言える。

【クラブW杯の相手は試合巧者ばかり】

 6月14日から7月13日まで(現地時間。以下同)アメリカで開催されるが、浦和はグループリーグでリーベルプレート(アルゼンチン)と6月17日、インテル(イタリア)と6月21日、モンテレイ(メキシコ)と6月25日に対戦し、グループ2位までに入れば決勝トーナメントに進出できる。

 浦和が世界の強豪とガチンコ勝負できるのは、このうえなく楽しみなのだが、個人的には初戦でインテルと当たってもらいたかった。前回W杯での日本代表がそうだったように、相手に油断やスキがあるほどジャイアントキリングは起こりやすい。インテルはUEFAチャンピオンズリーグ決勝の大一番を5月31日に戦うだけに、彼らにひと泡吹かせるにはその後のクラブW杯初戦が可能性が高いと見ていたからだ。

 対して、初戦の相手リーベルは油断とは対極にある。選手たちはヨーロッパへの売り込みの舞台と考え、手を抜くどころか、いつも以上のプレーをする可能性さえある。3戦目のモンテレイにしてもメキシコ代表がそうであるように、戦い巧者ぶりやテクニックでつい唸ってしまうようなチームだ。

 浦和がJ1での順位が下位に低迷したままだったら、さすがに彼らも油断したかもしれないが、現状ではそれは望めない。

スキを突く戦いが難しいなかでは、決勝トーナメント進出も厳しくなるのではと感じている。

 とはいえ、浦和の勝利を期待していないわけではない。力が上の相手に対して勝つには、得点を与えないことが最優先事項になる。そのためにはやはりGKの西川周作の活躍は不可欠だ。西川のビッグセーブで浦和の選手たちを波に乗せてもらいたいと期待している。

 ACLエリートで決勝まで進んだ川崎フロンターレが、大会後のJ1で疲弊した姿を見ると、浦和にもクラブW杯後に同様のことが起こりえると想像できる。ただ、J1を戦うだけでは得られないものが、クラブレベルの国際大会にはある。それだけに、浦和には勝利だけを目指して世界の強豪クラブとの対戦に臨んでもらいたい。

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