上半期のグランプリ、GI宝塚記念(阪神・芝2200m)が6月15日に行なわれる。
過去10年の結果を振り返ってみると、2020年、2021年と連覇を遂げたクロノジェネシスを含めて、牝馬が4勝を挙げている。
春シーズン最後の大一番で、「余力のレース」とも言われていることから、体力面で劣るとされる牝馬には厳しい一戦と思われていたが、意外にもその時代の牡馬一線級とほぼ互角の戦いを見せている。
そこで注視されているのが、今年の宝塚記念ファン投票で第2位となり、今回紅一点での出走となるレガレイラ(牝4歳)だ。
昨年の暮れ、3歳牝馬として実に64年ぶりのGI有馬記念(中山・芝2500m)制覇を遂げたレガレイラ。秋→春のグランプリ連覇なるのか、大いに注目される。そもそもレガレイラは、2歳暮れの段階ですでに牡馬混合のGIホープフルS(中山・芝2000m)を勝利。紛れもない"天才少女"であり、3歳クラシックでは果敢にGI皐月賞(6着。中山・芝2000m)、GI日本ダービー(5着。東京・芝2400m)へと駒を進めた。
結果的に善戦はしたものの、牡馬との熾烈な争いに屈して、"天才"にありがちな脆さを抱えていたのか、秋には同じ牝馬同士の戦いでも振るわなかった。GIIローズS(5着。中京・芝2000m)では同世代の牝馬相手に苦杯を舐め、GIエリザベス女王杯(5着。
だが、有馬記念では天才のイメージとは対極にあるとも言える"根性娘"ぶりを発揮。最後の直線では、シャフリヤールとの激しい叩き合いを制した。
天才にして根性もある――一見、重ならないと思えるスマートさと泥臭さを併せ持ったキャラクター。それが、レガレイラなのだろう。
それにしても、これほどの馬がホープフルSを勝ったあと、4戦も馬券に絡めずに足踏みしてしまったのはなぜか。とりわけ、いずれも1番人気に推されて挑んだ牝馬限定戦のローズSとエリザベス女王杯での凡走には疑問が残る。
「(その頃はまだ)完成度が低かったんです」
そう語るのは、関西の競馬専門紙記者だ。
完成度の低さとは、主に馬体。特に「トモ」と言われる後躯にあったという。専門紙記者が続ける。
「当時はそこ(後躯)に、筋肉がつききっていなかった。
「トモが甘い」馬は後肢の蹴る力が弱いゆえ、スタートでの出遅れが目立つ。レガレイラもその課題を抱えていて、ローズSではスタート直後からポツンと最後方に置かれた。エリザベス女王杯では五分のスタートを切りながらダッシュがつかず、左右の馬に挟まれる不利を受けて中団の位置へと追いやられた。
牝馬同士の争いとはいえ、トップレベルが集まるレース。スタート後にこういったハンデを負っては、さすがに挽回するのは難しい。それぞれのレースで、勝ち負けを演じるまでいかなかったことは致し方ないことかもしれない。
それでも、エリザベス女王杯の頃にはその弱点にも改善の兆しが見られ、馬体も完成の域に近づいてきていた。そして、絶好のタイミングで迎えたのが、有馬記念だった。
勝因は、何よりスタートをまともに切れたこと。普通にゲートを出て好位で運ぶことができれば、レガレイラはこんなにも強い、というのを存分に見せつけた。
となれば、本来ならここでもレガレイラは最有力候補として、断然の存在だったはずだ。が、好事魔多し。
「(有馬記念を勝って)やっと馬がよくなりかけた時ですからね。そんな時期に、骨折で半年も休まざるを得ないというのは、本当に痛かったと思います。しかも、牝馬は繊細ですからね。そうやって上昇気流に水を差されたりすると、とたんにやる気をなくしたり、立ち直れなくなってしまったりする馬がよくいますから。
宝塚記念でのポイントもそこ。レガレイラが好走できるかどうかは、彼女の状態次第。有馬記念の時と同様の状態にあるかどうか、でしょう」(専門紙記者)
宝塚記念に向けての懸念材料は他にもある。有馬記念では4kgあった古馬牡馬との斤量差が今回は2kgとなる。舞台となる阪神コースも、今回が初。週末の天気が雨予報というのも、気になるところだ。
また、過去20年、有馬記念からの直行で宝塚記念を勝った馬はいない。データ的に見ても、今回のレガレイラには不安要素が並ぶ。
こうして、有力候補ではあるが、レガレイラは断然の存在ではなくなった。
とはいえ、彼女を管理するのは、イクイノックスを手掛けた木村哲也厩舎。長期休養明けで馬を走らせるノウハウと手腕があり、"天才"の育成にも定評がある。
そして、断然の存在ではなくなったおかげで、鞍上の戸崎圭太騎手にとっては、有馬記念の時と同じようにある程度気楽に乗れる状況にある。彼女の走る気が失われていなければ、再び持ち合わせたキャラクターを存分に発揮してくれることだろう。
牝馬が躍動する宝塚記念。天才レガレイラが見せる、勝利への貪欲な走りに注目である。