風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

 独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、世界のサッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析。今回は今季バルセロナやスペイン代表で大活躍を見せた、ラミン・ヤマル。

「メッシやマラドーナのような本物の天才」というそのすごさの中身は?

【本物の天才】

「まず、彼のプレーは人に教えられてできるレベルのものではないということ。いくら相手が止めようとしても、ほとんど自分の思いどおりにプレーできています。だからこそ、プレー自体に再現性がある。おそらく、同じようなゴールシーンを何度も見たというサッカーファンも多いのではないでしょうか。

 そういう意味では、ディエゴ・マラドーナやリオネル・メッシのような、本物の天才ですね」

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 現在南葛SCで監督を務めながら、解説者としても活躍する風間八宏氏がそのように舌を巻く選手が、バルセロナのラミン・ヤマルだ。

 バルセロナのカンテラ「ラ・マシア」で育ったヤマルは、シャビ・エルナンデス監督時代の2022-23シーズンにトップチームに引き上げられて15歳でデビューを飾ると、翌シーズンには主力メンバーの仲間入り。さらにスペイン代表にも定着し、ユーロ2024では自らゴールも決めて優勝にも貢献した。

 現在17歳のヤマルは、これまで数々の最年少記録を更新してきただけでなく、その年齢とは無関係に、すでにひとりのワールドクラスとして世界中から高い評価を集めている。もちろん、バルセロナの二冠(ラ・リーガ、コパ・デル・レイ優勝)に大きく貢献した今シーズンも大活躍を見せ、バロンドール有力候補に挙がっている。

【相手に足を出させて避ける】

 まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで進化を続けるヤマルの凄さはどんなところにあるのか。最初に風間氏が指摘してくれたのは、ボールを運ぶ時の特長だった。

「大きく分けてふたつの特長があります。ひとつは相手に足を出させて避けるのが抜群にうまいということ。相手がボールを奪うために足を出そうとすると、その瞬間にヤマルはそれとは逆の方向に進んでいるので、相手はボールに触れることすらできません。

 しかも、ボールタッチをする時にはいろいろ部位を使います。相手が足を出した瞬間に、足のインサイドやアウトサイド、あるいは足の裏、ヒールなど、あらゆる部位を使ってスムースにボールを運べる。それが、利き足の左足だけではなく、右足でもできるので、まさに自由自在にボールを扱えるという強みがあります。

 そうなると、相手は簡単に足を出せなくなりますが、かといって先に足を出さずに止まってから奪おうとしても、その場合ヤマルは相手が止まる前に抜き去ることもできる。これが、ふたつ目の特長と言えるでしょう。

 たとえば、ボールを奪おうとする相手は奪う地点を想定して間合いを取りますが、ヤマルにはその地点が見えているので、相手が近づいてきた時にはもう別の地点に向かってボールを運んでいます。相手がボールを奪おうとした地点に止まろうとした時にはもう別の方向に行かれてしまっている。つまりヤマルは相手よりもふたつ早く動けているということです。

 ボールタッチも細かくて、いつでもどこでも自分のタイミングでボールを運ぶことができる。加えて、ボールに触らないまま相手の体勢を崩してから抜き去ることもできる。要するに、ほとんどのケースでヤマルは自分が進みたい方向にボールを運べるということになります。

 どちらの特長も、結局はそれだけの技術を持ちながら相手がしっかり見えていることが、最大のポイントだと言えます。

 それと、基本的にボールタッチが細かいので自分とボールの距離は近いのですが、相手が寄せてきた時は、それを待っていたかのようにボールを自分から離して、一気に抜き去るプレーもよく見せます。これは、マラドーナが小さい頃からよく見せていたプレーとよく似ていますね。

 いずれにしても、これだけの次元のプレーができる選手は滅多に存在しません。メッシが登場して以来と言っても過言ではないでしょう」

 確かに、ヤマルのプレーにはトップデビューしてからまだ3年足らずの選手とは思えないほどの余裕が感じられる。相手の動きを読みきって、翻弄するプレーはすっかりお馴染みとなっている。

【次に何をしてくるのか読めない】

 風間氏は、そんなヤマルのもうひとつの凄みについて解説してくれた。

「ヤマルのひとつひとつのプレーには境目がありません。ドリブルする足、キックする足、もっと言えば走る足と、すべてが同じ足になっている。つまり、止める、運ぶ、蹴る、外すなど、すべてのプレーがシームレスなのです。

 たとえば、シュートシーンひとつを取ってみても、どの場所で、どのタイミングでシュートするのかまったく読めませんし、GKのタイミングを見事なまでに外し、しかも精度の高いシュートを撃つことができます。しかも足の踏み替えもスムースで、なおかつシュートする足のバックスイングも小さいので、パスをするのかシュートをするのかも見分けがつきにくい。こうなると、相手はお手上げ状態です。

 それと、ヤマルは自らゴールを決めるだけでなく、アシスト能力も極めて高いので、次に何をしようとしているのか余計に読まれにくいという強みもあります。もしヤマルが利き足(左足)だけでプレーするのであれば止めようがあるかもしれませんが、ドリブル、パス、シュートと、どのプレーでも右足も使えるので、止めるのは本当に難しいと思います」

 これだけの能力が備わっているヤマルだからこそ、風間氏が指摘したように、再現性の高いプレーが可能になるのだろう。

 数十年にひとりの天才。これまでもメッシを超える記録を次々と打ち立ててきたヤマルは、おそらく今後のサッカー界を象徴する選手になっていくはずだ。風間氏が、最後にその期待について語ってくれた。

「この選手が軸となって、またサッカーが進化するのではないでしょうか。

 サッカーはもう"やり方"の時代が終わっているので、こういった次元の異なる選手が登場することによって、サッカーの潮流に変化が生まれると思います。

 もちろん、ケガや所属チームによって進化が止まることがないとは言えませんが、ヤマルがすでに持っている能力が落ちるようなことはありませんから。これからどんな進化を見せてくれるのかという点も含めて、本当に楽しみな選手ですね」

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