2022年末に、これまで学校で行なわれてきた部活動を、地域のクラブに移そうとする部活動改革が謳われて2年ほどが経った。全国の各地域で少しずつではあるが、動きが出てきている。

普段はサッカーの育成現場を取材するライターが、現状をレポートする。

「ウチのサッカー部は本当になくなるの?」中学校の部活動改革は...の画像はこちら >>

【教員の長時間労働の解消と少子化対策】

 公立中学校の部活動が大きな転換期を迎えている。部活動の地域移行だ。スポーツ庁と文化庁が策定したガイドラインに基づき、まずは2023年度からの3年間を改革推進期間と位置づけて、公立中学校が休日に行なう部活の地域移行を進めてきた。2026年からの3年間は完全に地域に移行していく。

 国が部活動の地域移行を進める理由のひとつは、教員の働き方改革の推進だ。文部科学省の調査によると、教員の約8割が部活動の顧問を担当しており、その大半が土日を含めた週4日以上活動している。ある市のアンケートでは大半の教員が部活動を負担だと感じており、年々深刻化している教員の成り手不足の一因となっている。教員の勤務時間を延ばす原因となっている部活動を地域のスポーツクラブや団体に移行できれば、社会問題となっている教員の長時間労働の解消が進む。

 もうひとつの理由は少子化による中学生の減少だ。2024年12月に文部科学省が公表した学校基本調査(確定値)によると中学生は314万1,132人(前年度より3万6,376人減)と過去最少を記録。生徒数により、部活動の維持が困難になるケースが増えている。これまであった部活動が廃部になり、希望する部活動が在籍する学校にない事例も多い。

今後は中学生の数がさらに半減する見通しで現在のままでは活動が成り立たないため、対象を学校単体から地域に広げることで生徒が活動できる場を作っていく。

【「地域展開」の名の下、部活動の廃止を進める自治体】

 移行方法は地域の実情に応じて各市町村に委ねられており、取り組み方は様々だ。例えば、静岡県掛川市はいち早く移行を宣言した市町村である。「部活動の廃止」とキッパリ言いきり、来年夏に部活動を廃止するための取り組みを現在進めている。

 部活動を希望する子どもが行き場を失わないように掛川市スポーツ協会と掛川市文化財団が「かけがわ地域クラブ」を創設。軟式野球、サッカー、卓球、陸上競技、バドミントン、バレーボール、卓球といった運動系はスポーツ協会が担い、約130クラブを立ち上げる。吹奏楽、美術、プログラミング、料理といった文科系は文化財団が運営を担い、イベントを含めて活動をしていく。

 なかにはすでに先行して活動を行なっているクラブもある。サッカー部はサッカー協会とともに中学校にサッカー部がない地域に3つのクラブチームを立ち上げ、そのうち1チームは2024年から活動をスタートさせた。監督を担うのはこれまで少年団を指導していた指導者だ。

 中学生の部活動に対するニーズは多様化していて、掛川市がとったアンケートでは毎日部活をやりたくない子どもが多いため、活動はいずれも平日週に1、2回程度。陸上とバスケットボールなどでは競技志向が高い選手を強化クラブに推薦する仕組みも整えている。

 いずれも活動は小学校と中学校、市の公共施設を活用して行なわれる。

これまで使用されてきた「地域移行」という名称だと、学校は何もしない、施設を活用できないといったイメージを持たれがちだった。そこで現在は「地域展開」という名称に変更されていて、学校を含めた地域全体で部活動を行なっていく方向になっている。

 一方で、熊本県熊本市は、部活動が持つ教育的な意味合いを考慮したこと、地域の受け皿を確保するのが難しいことを理由に、地域と提携して「部活動を続ける」素案を昨年末に発表している。各部活動ごとに顧問と副顧問を配置するため、2027年度以降は指導者を計1600人確保する予定だが、その半数は指導を希望する教員を見込んでおり、指導者には時給を支払うという。

 部活動がなくなる他の地域では、教員が地域クラブで指導を継続するケースが増えており、文部科学省は届出を提出した上で、法定内残業時間を越えなければ兼業を認める通達を出している。

【地元でサッカーを続けたい選手の受け皿をつくる】

 他地域でも地域展開に向けた取り組みは進んでいる。この春、京都府京都市にできたサッカークラブ「山科ユナイテッド」がそのひとつだ。チームが拠点を置く山科区はベッドタウンとして発展してきたエリアで、元日本代表の松井大輔氏もこの地域の出身。サッカーの競技人口は多いが、中学生年代のクラブチームはセレクション型のチームがひとつあるだけだ。6つある公立中学も少子化が進み、サッカー部がない学校や単独で活動できない学校も少なくない。

 中学校の部活動では完全下校時間が17時に決められているため、授業後にボールを蹴れるのは実質1時間程度。競技志向の高い選手は活動場所を求めて、自転車や公共交通機関を使い、京都市内のチームや隣接する滋賀県のチームまで通うが、友だちとサッカーを楽しみたいエンジョイ志向が強い選手にはハードルが高い。金銭面や保護者の送迎負担なども大きいため、小学生から中学生になるタイミングでサッカーを離れる選手が多いという。

 そうした地域課題を耳にし、もともと公立高校で教諭をしていた松尾真次代表が立ち上げたのが「山科ユナイテッド」だ。移動や費用の問題でサッカーをあきらめる選手が出ないように、金銭的な負担もなるべく抑えている。

 クラブチームで活動する際に必要な月謝も地域相場よりも低く設定。高校で指導していた際は入学時に練習着やジャージ、バッグなどを一式購入してもらっていたが、山科ユナイテッドでは試合で使用するユニフォーム以外購入がない。保護者の費用負担を少しでも下げるため、山科区の企業を中心にスポンサーも募っており、すでに10社以上が名乗りをあげているという。

 昨年10月末に初めて体験会を実施したが、その時は実際にどれだけ人が集まりチームとして活動できるかわからなかったため、「絶対に入る」と答えた選手は6人だった。入団を悩んでいる選手には、確実にチーム活動ができる既存のチームを勧めることもあった。しかし、その後も何度か体験会を開き、最終的に今年春には15人に。

 入団したうちの数人は、通う中学校にサッカー部がなく区外のクラブチームしか選択肢がなかったが、送迎が難しくサッカーを諦めかけていた選手たちだった。地域にクラブチームがあったからこそ、サッカーを続ける選択肢が生まれたケースだ。

【地域クラブの活動場所確保は課題】

「セレクションはせず、地域の子たちで頑張りたい。ただ、やるからにはとことん選手を伸ばして、プレーする選手も見ている人も楽しいサッカーを目指したい」

 そう口にする松尾代表の熱意もあって、現在は私立学校から活動するグラウンドを提供してもらっている。

それでも広さが限られるため、3学年が揃う再来年以降は別の場所での活動も考えないといけない。

 他の地域では、既存のクラブチームが月謝を受け取ることを理由に営利目的とみなされ、公立学校のグラウンドが認められないケースが多く見られる。だが、山科ユナイテッドのような地域展開の受け皿となるクラブが活動していくためには、地域にある小学校や中学校のグラウンド開放がマストだろう。

 京都市では2028年を目途に部活を完全に廃止し、地域や民間団体による「京都版地域クラブ(仮称)」と、複数の学校が合同で活動を行なう「放課後活動」の二軸で部活動を行なう予定だ。今後は山科ユナイテッドのような地域に根差したチームがどれだけ出てくるかが、子どもたちの今後を左右していく。

>>後編「課題解消へ 全国から注目を集める福岡での取り組み」

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