パールカップは佐藤水菜が完勝「本当は1周半駆けたかった」と悔...の画像はこちら >>

【真夏日の岸和田決戦】

「雑巾のように脚を絞りきりました」

 ゴール前勝負となった決勝を、独特の表現で振り返った女王・佐藤水菜(神奈川・114期)の表情からは貫禄、そして余裕さえ感じられた。

 6月17日(火)~19日(木)の3日間、大阪の岸和田競輪場でガールズケイリンのGⅠ「パールカップ」が開催された。2023年にガールズケイリン最初のGⅠとしてスタートした大会も早くも第3回を数えるが、梅雨時にも関わらず今大会も好天に恵まれ、晴れ模様となった。

 そのなかでも今開催は猛暑を思わせる気温と湿度だった。連日30度を超え、「梅雨前線、一時的に消滅」とのニュースも列島を駆け巡ったほど、日陰にいても熱気でジワジワと体力を奪われる過酷な状況。日によって風向きも変化するなど、選手の対応力が問われるレース条件となった。

 そんな厳しい条件に、GⅠ開催ならではのスピード感、そして張り詰めた緊張感が波乱を巻き起こした。パールカップは東西に分かれて予選を行なうのが特徴だが、一昨年の女王、児玉碧衣(福岡・108期)が初日の西日本予選で5着となって姿を消すと、昨年優勝の石井貴子(千葉・106期)は初日の東日本予選で落車に巻き込まれた。「望みがあるのなら」となんとか立ち上がり4着でゴールして2日目に進むも、本来のパフォーマンスを発揮しきれぬまま、準決勝で敗退となった。

【世界水準のスパート】

 そんななかで、いつも通りのハイパフォーマンスを披露したのが佐藤だった。4月末のGⅠ開催「オールガールズクラシック」を制した後は、ガールズケイリンへの出走はなく、ナショナルチームの一員として5月末から6月初旬に行なわれた自転車競技のジャパントラックカップへ参戦。パールカップでは、競輪用の自転車にアジャストする期間が短いなかでも、初日は9車身差、準決勝では6車身差をつけての1着と、東日本予選を蹂躙(じゅうりん)してみせた。

 一方の西日本予選でも、佐藤と同じくナショナルチーム組であり、ジャパントラックカップのスプリントで銅メダルを獲得した仲澤春香(福井・126期)がGⅠ初出走ながら存在感を放った。初日こそ2着に甘んじたものの、準決勝では果敢なレース運びで1着。22歳の竹野百香(三重・124期)と共に初のGⅠ決勝という大舞台に進出。出走表はフレッシュさを感じる顔ぶれとなった。

 迎えた決勝。少し影も長くなり始めた16時30分、岸和田競輪場にスタートの号砲が鳴り響くと、前日会見で「GⅠの決勝で先行するために練習してきた」と言葉に力をこめた奥井迪(東京・106期)が宣言どおり先頭を切り、直後に仲澤が続いた。

 内側の1番車でスタートした佐藤がそのふたりを眺めるように隊列に入ると、外側に竹野が並ぶ。佐藤は「勝負どころ以外では絶対にどかない」と強気の姿勢でポジション争いを続け、長時間の並走状態に。他の選手たちは皆、圧倒的な力を誇る佐藤を意識しながら虎視眈々と上位を狙っていた。

パールカップは佐藤水菜が完勝「本当は1周半駆けたかった」と悔しさを明かすも、偉業のグランプリスラムに王手
佐藤は1番車・白(写真中央)。並走するのが4番車・青の竹野 photo by Photoraid

 残り2周。様子を見合って開いていた車間も打鐘を受けて徐々に詰まり、全体がスピードアップする。残り1周、ついに佐藤が動く。風の抵抗を鑑み、一段と沈み込んだ姿勢でグングン伸びて先頭へと躍り出ると、そこに尾崎睦(神奈川・108期)が食らいつき、後方から梅川風子(東京・112期)も追い上げる。

パールカップは佐藤水菜が完勝「本当は1周半駆けたかった」と悔しさを明かすも、偉業のグランプリスラムに王手
先頭に出た佐藤は低い姿勢で加速 photo by Photoraid
 バックストレッチでは2車身ほど抜け出していた佐藤だが、後方選手の追走もすさまじく、3コーナーでついに尾崎に追いつかれた、かに思われた。しかし世界水準の女王には、もう1段階ギアが残っていた。すがる尾崎も、内側から抜きにきた竹野も置きざりにする鬼気迫るスパートで決勝線を駆け抜けると、佐藤は力強く左の拳を掲げた。

パールカップは佐藤水菜が完勝「本当は1周半駆けたかった」と悔しさを明かすも、偉業のグランプリスラムに王手
ゴール後にガッツボーズ photo by Photoraid

【追随を許さぬ飽くなき向上心】

「自分の思うようなレースができて、有意義な3日間でした」

 そう総括した佐藤は、これで4度目のGⅠ制覇。自身が持つ最多記録を更新するとともに、昨年の競輪祭女子王座戦、今年4月のオールガールズクラシックから続くGⅠ連勝も3に伸ばした。兼ねてから目標に掲げてきたグランプリスラム(※)も、あとは新設されたGⅠ開催「女子オールスター競輪」を残すのみ。それどころか、前代未聞の単一年でのグランプリスラム達成さえも視野に入ってきた。
※すべてのGⅠ開催とガールズケイリン最高峰のレース「ガールズグランプリ」で優勝すること

「練習で仲澤に負けていて、危機感を持って臨んだ」という佐藤だが、レース後、その仲澤は「力の差を感じすぎていて、どうすればいいかわからなかった」と呆然のコメント。さらに2着の尾崎も「一瞬だけ夢を見ましたけど、最後に(佐藤は)タレるどころか上がっている」と、段違いの脚力に脱帽した。

 これだけハイパフォーマンスを続ければ、大舞台では当然マークされ、研究もされる。それでも佐藤が勝ち続けられるのは、情熱を持って理想を追っているからに他ならない。

 競輪祭女子王座戦、そしてオールガールズクラシックでも一貫して「見ていて強いと思わせるレース」を目標に掲げ、この日も「本当は(ラスト1周からではなく)1周半駆けたかった」と、理想を口にした。誰よりも厳しい目で自身と競輪に、そして自転車競技に向き合っているからこそ、今後への展望を問われても「日本全体でもっとレベルアップしていかないといけない」と、一切の満足を感じさせなかった。

 このままの勢いで全タイトルを獲りきるのではと思わせるだけのすごみをまとった佐藤。彼女が今、ガールズケイリンの歴史に残る一時代を築いているのは間違いないが、それでも尾崎が準決勝後に語ったように、「力の差があっても勝負できるのが競輪」とつけ入る隙は必ずあり、他の選手たちも佐藤の牙城を崩すべく執念を燃やしている。

 次のGⅠ開催は8月8日(金)~10日(日)の「女子オールスター競輪」。佐藤の偉業達成か、それとも佐藤を攻略する選手が現れるのか。今後もガールズケイリンから目が離せない。

パールカップは佐藤水菜が完勝「本当は1周半駆けたかった」と悔しさを明かすも、偉業のグランプリスラムに王手
グランプリスラムを目標に掲げる佐藤 photo by Photoraid

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